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国際  投稿日:2018/2/15

IOCよ、スポーツに政治持ち込むな

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朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・IOCバッハ会長の開会式の挨拶は政治色に満ちたもの。

・北朝鮮の軍事パレードには一言も注文をつけなかった。

・バッハ会長は今後いかなる国の政治にも介入しない原則的姿勢を堅持すべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=38458 でお読み下さい。】

 

2月9日から平昌冬季五輪が始まった。この祭典は、江原道の人たちを始めとした韓国国民と世界のスポーツ関係者が20年の歳月をかけて実現した祭典だ。スポーツ精神に基づく公平性と非政治性の祭典として世界の人々からの祝福が約束されていた。しかし、金正恩の邪悪な介入と文在寅氏の政権的野望、そしてIOCバッハ会長のこれまでにない過剰な政治介入で大きく傷つくことになった。

 

 政治色に満ちたバッハ会長の開幕演説

 

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長の開会式のあいさつは、政治色に満ちたものだった。彼は平昌五輪で韓国と北朝鮮が合同で入場行進したことで「平和のメッセージ」を発信したと自賛した。しかし平和に脅威を与えている北朝鮮の核ミサイルや開会日の前日に行われた北朝鮮の軍事パレードには一言も注文をつけなかった。

バッハ会長の開会式演説では、北朝鮮に対する政治的配慮はあったものの、強制的な「南北合同チーム」結成で傷ついた韓国女子アイスホッケーチーム選手に対する慰労も韓国国民の傷ついた自尊心への配慮もなかった。

 

 

 

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写真)女子アイスホッケー南北合同チーム と バッハ会長、文在寅氏、金与金氏  出典)IOC MEDIA

 

バッハ氏は、むしろ政治的意図で結成され進められた「南北合同行進」に対して、「開会式をご覧になっている世界中の五輪ファンのみなさん、私たちはこの素晴らしい行進に感銘を受けました」と自画自賛していた。だがこの一方的評価を下した演説に対しては、多くの人達から「政治不介入を謳ったオリンピック精神に反した演説」として嫌悪感を誘った。

 

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写真)平昌オリンピック開会式の IOCトーマスバッハ会長と 文在寅大統領

出典)IOC MEDIA

 

バッハ会長と朝鮮半島の南北政権によって急遽結成させられた女子アイスホッケー「南北合同チーム」は、10日のスイス戦と12日のスェーデン戦で、全力を尽くしたものの、それぞれ8対0で大敗した。チームワークと組織プレーに弱点があったことは誰が見ても明らかだった。

スイス戦での試合会場では、政治利用した文在寅、金正恩の妹・与正と金永南、そしてIOCのバッハ会長が揃って「ある種の政治的期待」を持ちながら見守っていた。だがその邪(よこしま)な「期待」は実現しなかった。

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写真)南北合同チームvsスイス戦を観戦する文在寅韓国大統領夫妻(中央)とIOCバッハ会長(その右)、北朝鮮金与正氏(右)

flickr : Republic of Korea

 

試合後彼らは、4年間に渡って韓国選手が行ってきた血の滲む努力と、踏みにじられた心の傷を癒そうとする言葉すらかけなかった。もちろんルールの遵守と公平性を求めるスポーツ精神を強調することもなかった。 北朝鮮の「ゴリ押しオリンピック参加」を認めた功績でバッハ会長は北朝鮮から招待されている。

 

 平昌五輪の政治偏向を批判する日本の世論

日本では多くの人が東京五輪に繋がるものとして平昌五輪に期待を膨らませていたが、露骨な「政治五輪」となったことで落胆している。在日同胞も今ひとつ盛り上がらない。

韓国女子アイスホッケーチームを無理やり「南北合同チーム」としたIOCの暴挙は、日本の国民を驚かせた。これまで素朴に「スポーツの祭典」と思っていた人たちも、あからさまな政治利用を見せつけられ、「五輪精神」とは何かを問い直さざるを得なくなったと語っている。

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写真)北朝鮮の応援団  出典)flickr : Republic of Korea

 

日本で有名なスポーツジャーナリストである二宮清純氏は次のように批判した。

「今回(平昌五輪)は本当に政治色が強いですね。ご存知のようにIOCは政治的プロパガンダの一切を禁じているんです。それなのに今回政治色が強かった。合同行進にしても女子アイスホッケーの合同チームにしてもこれを推進したのはバッハさんですよ。今後東アジアでは東京、北京などで五輪が開催されるのだが、その度にこのような政治利用が行われればたまらない。それが五輪のあるべき姿なのかは非常に疑問だ」(2018・2・11フジTV「新報道2001」)と語った。

五輪はこれまでも「商業主義」に走りすぎるとして批判を浴びてきたが、今回の平昌五輪はそこに「政治五輪」とのレッテルまで貼られてしまった。平昌五輪が「平壌五輪」と揶揄され、一部ではスポーツを利用した「金正恩独裁の祭典」とまで言われている。ある意味でヒトラー時代の「ベルリン五輪」を想起させられたと語る人もいる。

 

 日本新聞各紙も社説で一斉に批判

 

日本の新聞各紙も、保守、リベラルを問わずIOCの政治偏向を厳しく批判している。

毎日新聞は、「国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は北朝鮮の参加について「平和的な対話の扉を開いた」と強調する。ただ、露骨な駆け引きが横行すれば平和の実現に貢献する“五輪精神”が色あせてしまう」と批判した(2月9日社説)。

東京新聞は「平昌五輪開幕、汚れなき舞台であれ」との見出しを付けて「84年ロサンゼルス夏季大会から商業化の道に進んだ五輪は、協賛スポンサーなどが絡んで巨額のスポーツマネーが動き、勝利至上主義が横行。それとともにドーピングに手を染める選手が増大した」と、五輪の商業化を厳しく批判しながら、「今回は北朝鮮が参加表明し、女子アイスホッケーでは韓国との合同チームを急きょ結成した。選手の気持ちを考えればスポーツの政治介入に反対する声が出るのは当然だ」と批判した(2月9日社説)。

読売新聞はもっと手厳しかった。「平昌五輪開幕“北”の政治宣伝は許されない」との見出して次のように痛烈に批判した。

「韓国の文在寅大統領が北朝鮮に対する融和策のカードとして五輪参加を求めた。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が応じたことで、一気に政治色が強まった。

核・ミサイル開発を進める北朝鮮は、国際社会から制裁を受けている。五輪を南北融和ムードに染めて、日米韓3か国の連携を切り崩し、制裁網に風穴を開けようとの計算が透けて見える。スポーツ競技は、政治と一線を画すべきである。その基本原則が、ねじ曲げられている」と文在寅政権の露骨な政治利用をあってはならないこととして厳しく追求した。

またIOCに対しても、「“例外措置”で北朝鮮に対応したのは、韓国政府だけではない。国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢も疑問である。IOCが認めた北朝鮮の選手は22人だ。アイスホッケー女子だけでなく、スケート、スキーの計3競技10種目に出場する。このうち、フィギュアスケート・ペアの2人は、自力で出場枠を獲得していたものの、登録期限内に参加を表明していなかった。

IOCのバッハ会長は“朝鮮半島の明るい未来を開く扉となることを期待する”と、特例で22人の参加を認めた意義を強調する。無論、五輪の門戸は広く開かれており、北朝鮮選手の出場を排除すべきではない。ただし、予選を勝ち抜くなど、正当な手順を踏むことが前提となる。

北朝鮮選手の特別扱いにより、IOCはスポーツ競技の根幹である公平性をないがしろにした、と批判されても仕方がない。政治的宣伝の排除をうたった五輪憲章との整合性も問われるのではないか」(2月9日社説)と批判した。

産経新聞は2月10日の「主張」で、平昌五輪を政治介入で汚した張本人は北朝鮮だと指摘し、「平昌冬季五輪が開幕した。だが本来、わくわくと胸躍るはずの日に接する現地発のニュースは、スポーツと縁遠いものばかりが目立つ。異形の大会としたのは誰か。まず、政治宣伝の場として大会を揺さぶり続ける北朝鮮である」と露骨な政治五輪に変質させた主犯を断罪した。

バッハ会長はこうした厳しい批判を謙虚に受け止め、今後朝鮮半島を始めとしたいかなる国の政治にも介入しない原則的姿勢を堅持してもらいたい。それがオリンピックの権威を高める道である。

 

 

TOP写真:オリンピックの旗を振るIOCバッハ会長 2014年ソチ

flickr : Republic of Korea

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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)など。

朴斗鎮

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