高まる中国軍の脅威 サイバー・宇宙・海中 ハリス太平洋統合軍司令官証言 その3
「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・中国人民解放軍は2015年サイバー攻撃、宇宙作戦を担う戦略支援部隊の創設発表。
・中国海軍の著しい海外進出は「一帯一路」に結びついている。
・サイバー攻撃、宇宙兵器の開発も進めている
【注:この記事には複数の写真が含まれます。サイトによっては全て掲載されず写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39284でお読みください。】
アメリカの太平洋統合軍のハリー・ハリス司令官の3月15日、連邦議会上院の軍事委員会の公聴会での証言はアメリカや日本にとっての中国の軍事的な脅威を詳述した。
この証言の詳報を続ける。
【戦略支援部隊】
中国人民解放軍は2015年12月末、戦略支援部隊(PLASSF)の創設を発表した。それ以来、この特殊な部隊は中国軍全体の管理の改善に寄与し、とくにサイバー攻撃、宇宙作戦など特別な領域での能力の目覚ましい発揮に貢献している。
戦略支援部隊は他国の軍隊の宇宙利用、電磁波利用、通信システム、そしてデータのネットワーク利用などの各能力を妨害し、攪乱する機能を持つ。この総合的な部隊は中国軍が他国の軍隊との「システム対システム」の戦いに勝つことに重点をおくという戦略を反映している。
【海軍の進出と一帯一路への懸念】
中国軍はこのような新たに拡大された多様な能力を作戦化するために、とくに海軍がこれまでより多くの領域、海域で、そしてより頻繁に活動し、その機能を高めるようになった。中国海軍の海賊対処のためのアデン湾への艦艇派遣はすでに9年目を迎えた。この間、中国海軍は水上艦艇やその乗組員にとって価値の高い経験を得てきた。
出典)Google map
中国海軍の潜水艦はここ4年の間にインド洋に正式には7回、派遣された。その他、中国海軍の種々の艦艇はヨーロッパ、アフリカ、中東、アジアなどの港を数十回にわたり、訪れた。このことは中国海軍がグローバルな海軍になったことを意味するわけではない。その存在と影響とが広がっているということなのだ。その活動の多くが中国の野心的なインフラ建設計画の「一帯一路」にも結びついている。
「一帯一路」は中国中心の貿易や経済のネットワークづくりによって中国のグローバルな影響を拡大することを意図している。その活動の大半は台頭するパワーの行動パターンに合致している。だがそれらの行動自体の多くに加えて、中国の計画がオープンではないことがアメリカ側などの懸念の理由となっている。
写真)ジブチで実弾発射の演習を行う中国軍
中国は2017年にジブチに基地を開設した際、その基地は単に物資輸送などの兵站の拠点だと言明していた。ところが開設の数ヶ月後には、中国海軍の海兵部隊が同基地を拠点に戦闘用の武装装甲車や火砲を使っての実弾発射の演習を数回も実施した。この事実は同基地が兵站用だけではなく、遠征軍の前方配備の軍事基地であることを証明した。
【中国の不動産取得】
中国側がアメリカ国内やインド太平洋地域の他の諸国内で外国投資の名目の下に土地や建物など不動産の購入を増やしてきたことも安全保障上の懸念を生んでいる。最近ではこの種の中国による不動産取得はアメリカや同盟諸国側の軍事基地の周辺に集中する傾向がある。その結果、アメリカの国家安全保障の目的や同盟諸国の安保上の利益が侵食される恐れがあるのだ。
アメリカでは最近、「外国投資危険調査近代化法」という法律が新たにできて、従来の連邦政府各関係省庁の代表で組織される「アメリカでの外国投資委員会」(CFIUS)での調査と合わせて、中国関係組織による投資の安全保障上の意味の精査が強化されることになった。この精査作業を軍事的な観点からも全面的に支持したい。中国の外国投資は単に経済的な観点だけからではなく、安全保障をも含めての実態を正しく認識し、中国側の全体としての意図を理解しておかねばならないからだ。
【海中戦力】
中国軍は潜水艦を主体とする海中戦闘能力を大幅に強化している。とくに攻撃型潜水艦は攻撃面での破壊力と戦闘面での生存能力を高めている。スクリュー音の少ないハイテク導入のディーゼル推進型と原子力推進型の両方の潜水艦が建造されている。最近では晋級とされる弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBM)4隻が新配備された。晋級の原潜の戦略的な能力は大きく、米軍としても新たな抑止措置が必要になる。
写真)晋級の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(タイプ094)
出典)United States Naval Institute News Blog
【サイバー攻撃】
サイバー空間はいまの世界がインターネットへの依存を高めるにつれ、急速に重要となった。各国家のパワーや安全保障はサイバー空間での安全な作業の能力に大きく左右されるようになった。全世界でいま最も能力の高いサイバー国家は中国とロシアである。とくに中国はそのサイバー攻撃の主対象がアメリカとなり、脅威を増している。
中国はサイバーを戦争遂行ドクトリンにしっかりと組み込み、戦闘能力の一環として使うのだ。現実に中国はサイバーを軍事面で超重視するからこそ「戦闘支援部隊」を創設し、そのなかにサイバー作戦を導入し、他の軍事作戦と一体化したのである。
【宇宙兵器】
中国は宇宙での兵器の開発をも続けている。その内容は広範かつ堅固である。実例としては直接上昇の人工衛星破壊ミサイル、軌道利用の人工衛星破壊システム、サイバー利用の宇宙兵器、直接エネルギー兵器、地上配備の宇宙作戦妨害のシステムなどである。いずれも有事の際にアメリカの宇宙関連の軍事活動に重大な妨害を加えうる。
トップ画像:ハリー・ハリス司令官 出典 U.S. Pacific Fleet
(その4につづく)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。