.国際  投稿日:2018/5/13

スーチー氏への失望広がる ロヒンギャ問題

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大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・国連安全保障理事会の視察団がロヒンギャ族の避難民キャンプを訪問。

・英国連大使ピアース氏、人権侵害事案の捜査を「国際刑事裁判所(ICC」に委ねる考え示す。

・国軍擁護を続けるミャンマー政府とスーチー顧問への失望広がる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合にはJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40012でご覧ください。】

 

国連安全保障理事会の視察団がミャンマーの少数イスラム教徒ロヒンギャ族の問題に関連して、避難民として逃れているバングラデシュのキャンプや元々居住していたミャンマーのラカイン地方、そして首都ネピドーを訪問した。

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▲写真 ロヒンギャ難民キャンプ 出典:OIC Official Instagram

各国国連大使など15人からなる視察団はネピドーでアウンサンスーチー国家顧問兼外相ミンアウンフライン国軍最高司令官と会談し、ロヒンギャ問題で意見を交換したものの「ミャンマー国軍による深刻な人権侵害や民族浄化」を証明しようとする国連側とあくまでテロリストを対象にした軍事作戦であるとするミャンマー側の主張の隔たりは埋まらなかった

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▲写真 アウンサンスーチー国家顧問兼外相 出典:photo by Claude TRUONG-NGOC

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▲写真 ミンアウンフライン国軍最高司令官 出典:photo by Htoo Lwin

ロヒンギャ問題が2017年8月に大きくクローズアップされて以来、国連による初の大規模視察団をミャンマーが受け入れたものの、ロヒンギャ問題の根本的な解決にはほとんど無力だった。

 

 国境の東西で現状を視察

国連安保理視察団は4月29日にバングラデシュ南東部のコックスバザールにあるロヒンギャ族の収容施設をバングラデシュ政府関係者の案内で視察した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCRの調査によると2017年8月にミャンマー国軍によるロヒンギャ族への軍事作戦開始以降、ラカイン州から国境を越えてバングラデシュに逃れたロヒンギャ族は671000に上っている。その多くがコックスバザールとその周辺にある収容施設で不自由な生活環境、厳しい衛生状態、不十分な食糧の中での生活を余儀なくされている。

収容施設を訪れた視察団に対し、ロヒンギャ族の人々からはミャンマー国軍によるレイプ、虐殺、放火などの数々の人権侵害事案に関する訴えが相次いだという。

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▲写真 Cox’s Bazarの近くに広がるKutupalong難民キャンプ 2017年11月24日 flickr : DFID – UK Department for International Development

大半の人々はバングラデシュ・ミャンマー両政府が合意して進められている「帰還プログラム」に反対を示したという。「ミャンマー国軍が信用できない」「自分たちが住んでいた土地、建物に戻りたいが、家は焼かれ、家族は殺された」などの声が多かったという。

その後視察団はミャンマー入りし、5月1日にラカイン州を訪問した。ラカイン州はロヒンギャ族がもともと数多く居住していた地域で、特にバングラデシュとの国境沿いの村落は仏教徒が圧倒的多数のミャンマーでも少数派のイスラム教徒であるロヒンギャ族が多数を占める地域だった。視察団はミャンマー政府関係者の案内で今後進められる「帰還プログラム」でロヒンギャ族が定住する施設などを視察したという。

ネピドーに戻った視察団の英国連大使ピアース氏はロヒンギャ族に対するミャンマー国軍の数々の人権侵害に関し「きちんとした捜査が必要だ」と述べた。その上で人権侵害事案の捜査を「国際刑事裁判所(ICC」に委ねることも一案との考えを示した。

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▲写真 カレン・ピアース英国連大使 flickr : Foreign and Commonwealth Office

国連をはじめとする国際社会がミャンマー国軍など治安組織によるロヒンギャ族への人権侵害は「民族浄化」であるとの主張を繰り返しているものの、ミャンマー側は一貫して「人権侵害の事実はなく、国軍の行動は(ロヒンギャ族の)テロリストに対して行ったものである」と主張、双方が立場を譲らない状態が続いている。ピアース大使の発言は、その膠着状態を打開する方策の一つとしてICCの介入を示唆したものとみられている。

 

 スーチー女史との会談も平行線

視察団はラカイン州を訪問する前日の4月30日にネピドーでスーチー国家顧問兼外相と会談した。会談ではスーチー顧問が「(ロヒンギャ族の)帰還プロセスの手続き促進にはバングラデシュの協力が不可欠である」と強調しながらも現在まで帰還が始まっていないことについては「バングラデシュ側が準備した帰還希望者の書類に不備があったため遅れている。ミャンマー側の受け入れ態勢はすでに整っている」と主張し、バングラデシュ側に責任を押し付ける姿勢をみせた。

さらにスーチー顧問は今後の問題点として「帰還した人々と他の地域の住民の信頼関係をどう構築するか。帰還者に市民権を与えるかどうか」などを指摘したものの、具体的な方針には触れなかった。

その後視察団はミンアウンフライン国軍最高司令官とも会談したが、司令官は視察団がバングラデシュの収容施設で聞いた人権侵害の数々の事例について「誰一人としてバングラデシュでは幸せではない状態で、そうした悲劇的な事例の話をして同情を買おうとしているだけで、全ては誇張されている」と反論。その上で「帰還した人々の安全を心配することはない。彼らが決められた地域にいる限りは安全だ」と強調し、視察団の懸念の払しょくに努めた。

視察団は国際社会の「ミャンマー国軍による人権侵害」の実態把握とバングラデシュに逃れた約70万人の避難民の帰還プログラムのスムーズな実施に向けた実情を視察する目的があった。

しかし、人権侵害との指摘には「ロヒンギャ族のテロリストを対象にした軍事作戦である」として完全否定の姿勢を崩さず、帰還プログラムに関しても「ミャンマー側は準備万端だが、バングラデシュの問題で遅れている」などと責任転嫁に終始するなど、国際社会とは平行線をたどったままで視察は終わったといえる。

 

 イスラム世界もミャンマーに圧力

5月5、6日の2日間、バングラデシュの首都ダッカで45回イスラム協力機構(OIC外相会議が開催され、53か国・機関の外相クラスが参加した。

会議は「持続可能な平和、連帯、開発に向けたイスラムの価値観」という大きなテーマで開催されたが、最終日に採択された「ダッカ宣言」の中でロヒンギャ問題について言及された。

「ミャンマーの治安部隊によるイスラム教徒であるロヒンギャに対する組織的な残虐行為はもはや民族浄化の域に達し、国際法違反でもある。OICメンバーは国際社会とともにこの問題の解決に向けて努力するバングラデシュ政府を支持する」などとしてOICが組織としてバングラデシュ政府を支援すると同時にミャンマー政府を厳しく批判した

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▲写真 第45回イスラム協力機構(OIC)出典:イスラム協力機構(OIC)

こうした国際社会の対ミャンマー批判は強まる一方だが、明確な立場、方針を示せずバングラデシュを批判し、国軍を擁護することに専念するミャンマー政府、特に指導者であるスーチー顧問への失望も同時に強まっている。

トップ画像:Kutupalong Refugee Camp, in Bangladesh © UNHCR/Andrew McConnell

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この記事を書いた人
大塚智彦Pan Asia News 記者

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。

 

大塚智彦

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