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.国際  投稿日:2019/9/21

国連、難民問題でスー・チー氏に解決求める


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ロヒンギャ問題で国連がミャンマーに解決への対応を求めた。

・ミャンマーは国連の調査は一方的であると反論。

・ロヒンギャ族の武装組織による虐殺も発生している。

 

【注:この記事にはリンクが含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=48022でお読みください。】

 

ミャンマーの少数イスラム教徒ロヒンギャ族の約70万人がミャンマー軍による弾圧と迫害を逃れて隣国バングラデシュで難民生活を送っている問題で、国連の特別報告者らは9月17日にジュネーブで国連人権理事会に対してミャンマー政府がロヒンギャ族の存在を無視し続けていることに深い憂慮を示し、問題解決に向けた真摯な対応を改めて求めた。

理事会後に同理事会の李亮喜(イ・ヤンヒ)特別報告者と国連ミャンマー問題事実調査団のマルズキ・ダルスマン団長は記者会見した。会見で李特別報告者はミャンマーの実質的国家指導者であるアウン・サン・スー・チー最高顧問兼外相に対し「ロヒンギャ問題を無視することなく直視して解決の道筋を探ってほしい」としたうえで「あなたが長年自由と民主主義のために闘ってきたその結果願っていた国となったのであれば、是非その目を開き、耳を傾け、心で感じ、自らの倫理に基づいてロヒンギャ問題と向き合ってほしい。手遅れになる前に」とノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チーさんの「良心」に訴えた。

▲写真 アウン・サン・スー・チー最高顧問兼外相 出典:Flickr; Città di Parma

国連はこれまでも調査団を現地に派遣するなどしてロヒンギャ問題の事実関係を調査して「軍の作戦はロヒンギャ族に対する虐殺であり、その責任をとって軍のミン・アウン・フライン最高司令官を含む幹部は訴追されるべきである」とする趣旨の報告書を何度も明らかにしてきている。しかし事態打開の道筋は依然として見えてこないのが現状だ。

▲写真 ミン・アウン・フライン最高司令官 出典:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

 

■ ミャンマー「国連報告は一方的で不当」

今回もこうした一連の国連側によるミャンマー軍による組織的、意図的人権弾圧との指摘に対しミャンマー政府側はこれまで通りの反論を繰り返している。

9月18日にミャンマーのチュー・モー・トゥン国連大使は米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」に対して「国連人権理事会や事実調査団の報告は軍への批判に満ちた一方的なものである」との見解を示し、軍のゾー・ミン・トゥン報道官も「国連の主張は不当である。国連などの調査は外部から調査して結論を導きだしており、一方の側に偏った結果である」と反論した。

その上で軍は独自の調査で国連や国際社会が指摘する人権問題などへの調査にも取り組んでいると強調している。

 

■ ロヒンギャ族に加えヒンズー教徒も受難

9月17日には主要都市ヤンゴンの一角でヒンズー教徒らによる「慰霊祭」が行われた。これは2017年8月下旬にラカイン州マウンドーでイスラム教徒であるロヒンギャ族の武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」がヒンズー教徒の住民約100人を虐殺し、集団墓地に埋めた悲劇で犠牲になった人々を追悼するもので、ヒンズー教徒らが参列した。

ミャンマーではロヒンギャ族に対するミャンマー軍の人権侵害、民族浄化などが国際的には大きく報道されているが、実はロヒンギャ族の武装組織ARSA(ミャンマー政府はテロ組織としている)による同じ少数派のヒンズー教徒への襲撃、人感侵害に加えて多数派仏教徒の武装組織と軍の衝突なども発生しているなど複雑な情勢下にあるのが現状だ。

特にラカイン州の仏教徒は「アラカン軍(AA)」という武装過激集団を組織して2019年初めから軍と激しい戦闘を続けており、同州の治安は極めて不安定となっている。

▲写真 マウンドーでパトロールしているミャンマー警察 出典:wikipedia; Steve Sandford

2017年8月の事件ではラカイン州のヒンズー教徒はARSAによる襲撃を受け、男性は虐殺され、女性はイスラム教徒への改宗を強制された後、バングラデシュのロヒンギャ族難民キャンプに組織的に送りこまれている、という人権団体の報告もあるようにヒンズー教徒の人々は極めて厳しい状況に直面している。

こうした複雑な状況に対してミャンマー政府はほとんど有効な対応策を取らず、国連によるとバングラデシュに避難している難民の帰還事業は「安全が確保されない」とのロヒンギャ族難民の懸念から帰国希望者が少なく事実上頓挫している。

さらに国連人権理事会の報告などでは「依然としてミャンマー国内の残るロヒンギャ族も虐殺の危険に直面している」として現在もラカイン州を中心に軍によるロヒンギャ族への弾圧、そして武装組織であるARSAAAとの戦闘が断続的に続いていることへの深い憂慮が示されている。

2015年の総選挙で圧勝したスー・チーさん率いる与党「国民民主連盟(NLD)」だが、多党化で支持の分散化が進む中、2018年に実施された補選では地方、国会でNLDが4議席を失うなど2020年に予定される次回総選挙での苦戦も予想されている。

そんな中で圧倒的多数の仏教徒と国会に一定議席を持ち政府ににらみを利かせている軍との間でスー・チーさんがどこまでロヒンギャ問題などの国内治安問題に指導力を発揮できるのか、改めて問われている。

トップ写真:バングラディッシュに逃れたロヒンギャ族 出典:Tasnim News Agency


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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