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.国際  投稿日:2018/7/19

拉致事件の新ドキュメンタリー公開


古森義久 (ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・アメリカで製作された日本人拉致事件のドキュメンタリー映画が公開。

プロデューサーは北朝鮮に拘束された経験もある米人記者ユナ・リー氏。

人間的な苦痛や悲劇に最大焦点あてており、国際的な関心や同情を集めるだろう。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41072でお読み下さい。】

 

北朝鮮政府による日本人拉致事件が国際的な関心を一段と集め始めた。そんな関心の高さを象徴するように、アメリカでこの事件に多角的な光をあてた新しいドキュメンタリー・フィルムが製作された。

終わりのない苦しみ:PAIN with NO ENDと題されたこの作品は自分自身も北朝鮮に拘束された体験のあるアメリカ人女性ジャーナリストがプロデューサーとなって作られた。日本の拉致被害者たちの具体的な拉致の状況や残された家族の苦しみや悲しみを多数の当事者たちに会って、再現した点がこのフィルムの特徴だといえる。

終わりのない苦しみ」は副題に「北朝鮮による日本国民の拉致:The Abuductions of Japanese Citizens by North Korea」とあるように、日本人拉致事件をその発端から経緯、背景、現状、意味など全容を当事者、関係者たちへの直接の取材を主体に描いていた。長さ28分ほどのドキュメンタリー映画で、この7月10日にアメリカでインターネットなど各種のチャンネルで公開された。

英語での作品で、登場人物たちが語る日本語はすべて英語の字幕がついている。一般のアメリカ人らがこの作品を観れば、日本人拉致事件の全体像や人間的悲劇がよく理解できるように構成されているといえる。

製作主体はアメリカ政府が運営する国際放送局のVOA(Voice of Americaで、プロデューサーはVOA朝鮮部のアメリカ人記者ユナ・リー氏である。リー氏はすでにアメリカの多様なメディアで活動してきたベテランの女性ジャーナリスト。韓国生まれだが、少女時代に家族とともにアメリカに移住し、教育はほぼすべてアメリカで受けた。

▲写真 ユナ・リー氏 出典:Euna Lee Twitter

リー氏の経歴でユニークなのは2009年3月に同僚の韓国系アメリカ人女性記者とともに中朝国境で取材中に北朝鮮当局に拘束され、6月には労働教化刑12年の判決を受けたことだ。この拘束に対してアメリカの官民から激しい反発が起きて、同年8月にはビル・クリントン元大統領が北朝鮮に飛んで、リー記者らの解放を求めた。北朝鮮政府はそれに応じて、すぐにリー記者らに恩赦を与えて、帰国を許した。

▲写真 北朝鮮に拘束されたアジア系アメリカ人ジャーナリストのローラ・リン(Laura Ling)とユーナ・リー(Euna Lee)の解放を求める運動(2009年6月アメリカ) 出典:Keith Kamisugi from San Francisco, CA

▲写真 ビル・クリントン元大統領 出典:Center for American Progress Action Fund

今回の作品「終わりのない苦しみ」の製作のためにリー記者はスタッフとともに日本を訪れ、広範な取材を続けたという。

このドキュメンタリー・フィルムの内容はまず事件の発覚について1970年代の日本国内各地での若い男女たちの謎の失踪を取り上げ、国内一般の無関心を伝えながら、最初にその失踪を北朝鮮工作員と結びつけて報道した産経新聞社会部記者(当時)の阿部雅美氏の言葉を伝えていた。

フィルムはさらに拉致被害者の有本恵子、田口八重子、横田めぐみ、曽我ひとみ、曽我ミヨシといった人たちのケースを個別に取り上げ、それぞれの家族に直接インタビューして、長年にわたる悲しみや苦しみを当事者たちの言葉と表情で、なまなましく伝えていた。家族たちが被害者と過ごした楽しい日々の写真も多数紹介された。

▲写真 拉致された田口八重子さんの長男、飯塚耕一郎さん(左)と田口さんの兄、本間勝さん(右)2018年4月25日『政府に今年中の全被害者救出を求める 国民大集会』にて ©Japan In-depth編集部

フィルムはまた、北朝鮮当局がなぜ罪のない日本人男女を拉致したのか、その理由についてアメリカで日本人拉致事件の本を書いたジャーナリストのロバート・ボイトン氏を登場させて詳しく語らせていた。同時に日本政府の拉致問題担当相の加藤勝信氏のインタビューも複数回にわたり盛り込んでいた。

▲写真 ロバート・ボイトン氏 出典:NYUJournalism

▲写真 拉致問題担当相 加藤勝信氏 出典:加藤勝信氏 Facebook

同フィルムは全体として拉致の被害者とその家族の人間的な苦痛や悲劇に最大焦点を合わせて、北朝鮮政府の犯行を非難する基調で終わっていた。日本人拉致事件に対する国際的な関心や同情を今後さらに広めていくためには、きわめて貴重なドキュメンタリー・フィルムだといえそうだ。

なおこのフィルムへのリンクは以下である。

https://youtu.be/o2i_u8y8GJM

トップ画像:PAIN WITH NO END 出典 VOA 한국어


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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