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.国際  投稿日:2018/7/21

クールジャパン、販路確保が依然課題


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・仏での販路開拓を支援する「SAS ENIS(株式会社エニス)」塩川嘉章代表に話を聞いた。

・日本製品、質は高いが現地のニーズに合ってないことがある。

・日本企業、次なる課題は海外での販路確保。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41145でお読みください。】

 

前回の記事の「フランス・ジャパンエキスポ2018」での取材で、日本からの出店者について大きく感じたのは、「フランスに展示、出店するだけでも大きな労力が費やされてしまい、その後の営業展開までに力が回らない販売者が多い」と言う現実だ。やはり、各個人の力だけでは限界がある。総括して手助けくれる機関は必ず必要となってくるのは必然のことだろう。

そこで、今回は、フランスでの販路開拓を支援することを目的にクールジャパン機構が投資している会社、「SAS ENIS(株式会社エニス)」の代表、塩川嘉章氏に話を聞いてきた。

▲写真 SAS ENIS(株式会社エニス)代表、塩川嘉章氏

SAS ENISは、現在「Discover japan paris」「Maison WA」という、2件のショールームにて日本の伝統工芸品や商品を展示し、日本の会社の代わりその歴史背景や製造技術、文化などを、現地消費者やバイヤーに伝える努力をしている会社だ。2012年以来、累計で約50社の伝統工芸品メーカーを支援し、継続的な販売につなげることにも成功している会社でもある。

▲写真 MaisonWAの店内 ©Ulala

以前はパリで展示を行うのも大変だった。まず一から展示できる場を探し、輸送するために不慣れな手続きを行いようやくたどり着く感じだ。そこでSAS ENISでは、個々の中小企業で行う手間を省くために展示できる場所を提供し、語学堪能なスタッフが現地のバイヤーなどの対応を行うことでスムーズに運ぶ手助けをしている。しかし、それでもやはり販路開拓にはまだまだ課題が多く簡単なことではないと言う。例えば、日本製品の質は高いものの、現地のニーズにあっていないなどの問題もあるためだ。

塩川氏:「日本の商品は高品質な物が多いですが、しかし、その商品は日本を対象にしたモノがほとんどなのが現状です。日本のモノをただフランスに持ってきても、やはり現地の消費者のニーズに応えた商品でなければすぐには売れません。例えば財布一つにしても、日本円とユーロでは大きさも違いますよね。国によって必要とされる財布の大きさも違うのです。ニーズに合わせて商品開発して販売する必要があるのに、マーケティングも無しに日本用に作ったもの持ってきても、販売の成功率は低くなります。

そこで、SAS ENISではテーマを決めイベントを開催しバイヤーへの積極的なアプローチも行うと共に、展示する商品のテストマーケティングを行うことにも力をいれているそうだ。

▲写真 MaisonWAの店内 ©Ulala

塩川氏:「現地での需要を知るためには、やはりテストマーケティングが重要になってきます。現在2件のショウルームではテスト的に販売もしながらも、お客様の意見を聞き取り、フランスやヨーロッパのニーズはどんなものなのかを日々調査することに力を入れています。そこで得られた情報は、販売者様に毎月レポートとして送付し、フランスにあった日本の製品になるよう工夫できるように情報を提供しているのです。」

今回、話をしてくれた塩川氏は、職人気質を大事にし日本人的誠意で力になろうという気持ちがとても感じられる人物だ。塩川氏自身も、日々、実際に店舗に立つことで現地の状況を把握し、日本とつなげる努力を惜しんでないが、スタッフに対しても各商品に対して充実した商品知識を持つように指導することも忘れてない。

毎月のレポートを書くにもそれなりの労力が必要なわけだが、そういった地道なサポートの結果なのか、日本の販売者とは心地よい信頼関係が生まれており、塩川氏を訪ねる人は後を絶たない。お話を伺っていたこの日も、何度も話を中断し、次々と訪れる日本から来た販売者の方々への対応にあたっていた。

このようにきめ細かな取り組みをしてきた中で発掘されたヒット商品も存在する。その一つが、「トーヨー電子製作所」が作っている「マサノヴァアート」だ。

▲写真 マサノヴァアート ©Ulala

日本のモノづくりの原点ともいえる、工業製品部品に使用されるネジやナットと言うパーツは、精巧さゆえにそれ自体がアートとも言える。そのパーツを使い、電子機器製造業として培った精密加工技術を駆使して、ステンレスや鉄、ガラスといった素材の特徴を生かし、ハンドメイドで作られたロボットモチーフだ。

よく見ると、同じものは一つとしてない。まるで、ロボット大国であり、精密さが強みである日本そのものを表しているような商品で、職人さんの生み出すストーリ―がある。日本のカタログに載っている商品には日本のモチーフ柄が張り付けられてないが、フランスの商品にはある。これこそ現地のニーズに合わせるように改良していった結果なのかもしれない。自分が大切にしている物を人に語ることが好きなフランス人たちに人気なのもよくわかる。

しかしながら、このショールームで価値が認められても、その後スムーズにいく場合と困難が生じる場合もあると言う。それは、各社、英語が堪能なスタッフがいて対応できるなら販売先と直接交渉したり、すぐに発送したりなどの作業がスムーズに進むものの、海外に販売する体制がない場合は多くの困難が生じると言うのだ。SAS ENISではサポートも手掛けているので、ぜひ相談して欲しいとのこと。

▲写真 MaisonWAの店内 ©Ulala

塩川氏:「日本から商品をフランスに販売していきたいと思っている方達の手助けがしたい。今後は、従業員を更にスキルアップし、プロ集団として迅速に的確に対応できるようにし、これからも日々邁進していきたいと思っています。」

エネルギッシュに熱く語る塩川氏のお話は、どれもとても興味深かった。

パリにも数多くショウルームはあるけれども、フランス流のよくある体裁だけがきれいに整ったショールームとは違い、日本人的なきめ細かさと信頼関係の上でフランスやヨーロッパでの商品販売を手助けしてくれる貴重な存在かもしれない。日本の中小企業が海外で販路を開拓していくには次々と困難な壁に遭遇していくだろう。そんな中、SAS ENISはフランスでの最初の一歩を踏み出すには心強い起点になることは間違いない。

トップ画像:MaisonWA外観 出典 MaisonWA


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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