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.国際  投稿日:2018/10/22

対中戦略 米ルビオ議員と連携せよ


 

島田洋一(福井県立大学教授)

「島田洋一の国際政治力」

【まとめ】

・トランプ氏は戦略部門で中国経済を空洞化させるところまで視野。

・米政界でマルコ・ルビオ氏は日本が最も連携を確保すべき存在。

・日本側にも厳しい対中姿勢でまとまった組織作り、実ある議員外交を。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42517でお読みください。】

 

トランプを少しでも評価するとインテリと思われないのでは、という怯えに似た感情が、特に大学教員などに広く見受けられるが、少なくとも彼の並外れた政治的スタミナと突破力は等身大で捉えておかないとアメリカを見誤る

対中国政策がよい例である。大統領選用にまとめた著書傷ついたアメリカ』(Crippled America, 2015)でトランプは次のように述べている。

「中国を敵と呼ばない方がいいと忠告してくれる人たちがいる。しかし、中国は敵そのものだ。彼らは低賃金労働でわれわれの産業全体を破壊し、何十万という職を奪い、企業にスパイを入れ、テクノロジーを盗んでいる」。

自分もビジネスマンとしては、そうした現実を所与に利益の最大化を図らざるを得なかったが、

「政治家とビジネスマンは違う、…アメリカの世界政策の問題として、中国の有利性を奪い取らねばならない」

と言う。

「中国には特別の注意を払う必要がある。保護主義政策とサイバー窃盗によって我々の足下を掘り崩すことはもはや許さない」。

同様の宣言を高らかにしたアメリカの大統領候補は過去に少なからずいる。ところが実際に政権の座に就くと、単なる弥縫策以上に出ないのが通例だった。その点トランプは「習近平は本当にいい男だ」と褒め殺しで牽制しつつ、対中圧迫を着実にレベルアップさせている。戦略部門で中国経済を空洞化させるところまで視野に入れていよう

中国が本気で反撃ないし嫌がらせに出るなら、例えば世界市場で圧倒的シェアを占めるレアアースの対米輸出を停止すればよい。アメリカは追加関税対象からレアアースを外しており、そこが弱点であることをいわば公にした上で攻撃に出ている。相手が日本なら、中国はとうの昔にレアアース禁輸に踏み切っているだろう。しかしトランプ相手にはできない。ここに力関係が端的に窺える。

▲写真 訪中したトランプ大統領夫妻をもてなす習近平国家主席夫妻(2017年11月9日)出典:The White House flickr

昨秋、訪中したトランプを習近平が、紫禁城貸し切り接待、「爆買いカード」で熱烈歓迎し、トランプが「感激」を繰り返し口にした時、「トランプは完全に中国に取り込まれた」と見切ったように批判した識者が多かった。トランプはしたたかな男で簡単に取り込まれないと論じた筆者は少数派だった。今や答は明らかだろう。

もっとも、政権がいかに対中圧迫に舵を切っても、法案と予算を握る議会が動かなければ、突破の範囲も限られる。その点、議会側でとりわけ注目すべき存在が、共和党のマルコ・ルビオ上院議員である。

▲写真 マルコ・ルビオ上院議員 出典:Gage Skidmore

ルビオは、中国の人権状況などを監視する超党派の「中国に関する議会政府委員会」(CECC)の議長を務めている。これは上院議員9人、下院議員9人、大統領が任命する政府幹部職員5人で構成される立法府・行政府の横断組織である。

10月10日、同委員会は、中国におけるイスラム教徒ウイグル人の弾圧を「人道に対する罪」とし、対外膨張を厳しく批判するなどした年次報告書Chairs Release 2018 Annual Report)を公表した。直前の4日にペンス副大統領が、政権を代表して、中国の経済、軍事、人権問題全般を批判したのに平仄を合わせた動きだった。

なお、ルビオは尖閣諸島を明確に日本領と認めるべきだと主張してもいる(米政府の立場は、「尖閣は日本の施政権下にあり、安保条約の適用範囲内だが、最終的な帰属について米国は立場を採らない」というもの)。米政界において、日本が最も連携を確保すべき存在と言えるだろう。

ところが、先日外務省の最高幹部に聞いたところでは、日本の国会議員でルビオとコンタクトを持つ人間は一人もいないという。毎月のように訪米している河井克行自民党総裁外交特別補佐もルビオとは会えていない。

仮に日本にも「中国に関する議会政府委員会」のような組織があり、その代表(理念的に明確な人物でなければならない)が訪米すれば、ルビオは時間を割いて会うだろう。さらに広範囲に亘る連携の端緒ともなろう。議員外交に実あらしめるには、日本側にまず、厳しい対中姿勢でまとまった(できれば超党派の)組織が作られねばならない

▲写真 西村康稔(左)、野上浩太郎(右)両官房副長官 出典:首相官邸ホームページ

トランプ・安倍の信頼関係は貴重な財産だが、それはあくまで一時の細い糸に過ぎない。首相の外遊時に必ず同行する官房副長官は、議員の中で最も首脳外交の現場に携わる機会が多く(その気になれば、親善行事の間に独自行動も取れる)、首相の登竜門ともされる重要ポジションだが、現在の西村康稔(衆院枠)、野上浩太郎(参院枠)両議員はいずれも存在感に欠ける。強烈な個性と明確なビジョンを持った米側のボルトン大統領安保補佐官とは比肩すべくもないのが現実だ。

トップ画像:マルコ・ルビオ米上院議員 出典:マルコ・ルビオ議員公式ホームページ


この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授

福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。

島田洋一

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