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.国際  投稿日:2018/10/22

アメリカを侵す中国 その1 統一戦線工作


 

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・トランプ政権が前例のない対中強硬姿勢。中国の対米策謀も明らかに。

・拡散する「ユナイテッド・フロント」。連邦議会でも対中警戒・対決気運拡大。

・日本は対照的に対中「友好」。中国のみせかけの微笑に引き寄せられた観。

 

【注:この原稿には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42548でお読みください。】

 

アメリカの対中国政策が歴史的な変化を画した。そのうねりのなかで、中国がアメリカに対して仕かけているさまざまな工作が明らかとなった。新時代を迎えた米中関係の実態を、主として中国によるアメリカの内外の権益や秩序への侵食という観点から報告しよう。

アメリカのマイク・ペンス副大統領はトランプ政権全体を代表して10月4日、ワシントンのハドソン研究所で重要演説をした。「アメリカ政府の中国に対する政策」とずばり題された演説だった。

▲写真 トランプ政権の対中政策について演説するマイク・ペンス副大統領(2018年10月4日 於:ハドソン研究所)出典:ハドソン研究所ホームページ

同演説はこれまでのアメリカの歴代政権が関与政策の下に中国と協力し、中国が国際社会のよき一員となり、国内の経済も豊かにし、やがては共産主義独裁を薄めて民主主義や人権尊重という普遍的な価値観を受け入れていく、という期待を持ってきた経緯を説明していた。だが、ペンス副大統領はこの米側の政策が失敗だったと宣言したのだ。

副大統領はそして中国共産党政権が国内の独裁を強めながら「国家の全機能」をあげてアメリカに挑戦し、高度技術や知的財産を盗み、アメリカの国内政治にまで干渉してきたと非難した。

ペンス副大統領は中国の軍事面での侵略的、膨張的な動きとして南シナ海での拡張、尖閣諸島への攻勢、日本を含むアメリカのアジア太平洋での同盟諸国への威圧、台湾への威嚇をも糾弾した。中国は要するにアメリカをアジアから追い出し、自国の非民主的な価値観に基づく覇権を確立しようとしているというのだ。

だが同副大統領はアメリカはもう中国の軍事、経済、政治すべての領域での無法な覇権拡大は絶対に許さないと言明した。核戦力の強化を含むトランプ政権の軍事力増強によって中国の軍事がらみの膨張は阻止するとも明言するのだった。もはや「米中冷戦」という表現が陳腐に響くような二大強国の新たな衝突とさえいえる。

▲写真 中国の軍事拠点化が進む南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島のファイアリクロス(中国名・永暑)礁(2017年12月14日CSIS公表)出典:米戦略問題研究所(CSIS)ホームページ

こうした変化を迎えたアメリカの首都ワシントンでは「ユナイテッド・フロント」という言葉がしきりに聞かれるようになった。政府や議会、あるいは民間で、とくに中国にかかわるアメリカ側の関係者たちが熱をこめて、この用語を使うのだ。

この言葉は英語ではUnited Front」、つまり「統一戦線」という意味である。本来は中国語の英語訳で、中国共産党中央委員会に直属する機関の「統一戦線工作部」の名称なのだ。

そんな中国共産党の組織の略称がなぜいまのワシントンで頻繁に提起されるのか。この点にこそトランプ政権下のアメリカが中国に対して前例のない強硬姿勢を固めたという実態が象徴される。同時に中国のアメリカに対する敵意に満ちた策謀が米側にとっても明らかになった、ともいえる。

トランプ政権は中国に対する政策をオバマ政権時代とは根本から変えて、中国の無法な膨張を力さえも使って抑えこむという厳しい態度をとるようになった。中国をアメリカの基本的な国益や価値観を侵す潜在敵に等しい存在だとみる認識が定着したのだ。

この中国敵視の態度はトランプ政権だけではない。連邦議会でも中国への激しい警戒や対決の気運が広まった。共和党、民主党の区別なく、トランプ政権の対中姿勢がまだソフトすぎるという声さえ出るほどである。

いまのアメリカのこうした中国に対する強固な対決姿勢は最近の日本での動きとは対照的である。日本では中国との関係に「友好」とか「蜜月」などという表現さえが使われるようになった。中国の「一帯一路」構想にすり寄る動きさえが出てきた。中国のみせかけの微笑に引き寄せられた観がある。

だがアメリカ側は正反対に中国への非難や圧力をかつてないほどに強めるようになったのだ。その結果の一つとして登場してきたのが「統一戦線」という用語なのである。

(その2に続く。全5回)

 

*この連載記事は月刊雑誌「WILL」2018年11月号に掲載された古森義久氏の「米国の怒り 中国を叩き潰せ!」という論文を一部、書き換え、書き加えた報告です。5回に分けて掲載します。

トップ画像:談笑するトランプ米大統領と習近平中国国家主席(2017年11月11日 ベトナム・ダナンAPEC)出典:The White House facebook


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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