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.国際  投稿日:2018/10/26

仏で女性医急増、男性超えへ


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・仏で女性医師急増。22年には男性医師数超えも。背景に定数制限。

・「資格取得制度見直し」で女性医師が活躍しやすい環境に。

・医師不足受けた改革で男性医師増も。女性医師活躍できる環境不変。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42624でお読みください。】

 

フランスでは、現在、女性医師の割合が年々増加しています。2022年には女性医師の人数が男性医師の人数を追い抜くと予測される(参照:LA CROIX)ほど急速に増えており、「医者は女性向けの職業」と言われるほどです。30年前にはそんな状況は考えられないことでした。なぜそこまで女性医師が増えることになったのでしょうか?そこで、フランスで女性の医師が増加している理由を探ってみたところ、実は、政府が行った二つの改革が大きく関係していることが浮かび上がってきました。

 

■ 女性医師の割合増加要因となった改革

女性医師の割合が増加する要因の一つは、過去に医学を学ぶ学生数に制限を設けたことが大きく関係しているようです。

1972年以前は、研修を受ける医学生の数に制限はありませんでした。医学部に入るためには、試験に合格する実力があれば十分だったのです。しかし、制限しなかった結果、医者の数があまりにも増加してしまい、予算削減のためにも医学を学ぶ学生の数に制限を設けることとなったのです。

1972年に大学一年目の試験に合格した医学生は、現在60歳代の医者となっていますが、この年には8,588人の学生が試験に合格し、2年目に進んでいます。しかし、それでは多すぎるとされ、徐々に定員が削減されていきます。1982年には6,409人、1993年にはとうとう3,500人にまで減らされていきました。(参照:Cris et Chuchotements Médicaux)この厳しい定員の削減数と反比例するかのように、女性の占める割合が増加していきます。

図1は、2016年における年齢層別の医師の数のグラフです。これを見ると、定員削減により、数が激減したのはあきらかに男性であることが見てとれます。

女性の人数も確かに減ってはいますが、どちらかと言えば一定の数を保ち続けているとも言えるのではないでしょうか。55歳~60歳未満の男性医師が16,407人おり、同年代の女性医師の8,100人の約2倍の数であったのにもかかわらず、定員制限が行われた後の40代になると、男性医師は11,349人減少し、5,058人となっています。一方、女性医師は4,692人と、減少したのは3,408人で、割合にして男性医師は約70%減少しているのに対し、女性医師の減少は約40%に過ぎないのです。

これはいったいどういうことでしょうか。

▲図1 フランスの 2016年における年齢層別の医師の数のグラフ 出典:CARMF

女性の方が男性よりも試験の結果がよく、男性の合格数が少なくなっただけでは?とも考えられますが、もちろんそうではありません。実際の話、女性の方が男性よりも合格率が低いのは事実です。

例えば、2010年頃から一年目の年にいる女性の割合は65%ほどですが、2年目に上がるための試験を受けた後は50%台にまで落ちます。(参照:資料のgraphique 2を参照)これは、35%しかいない男性の方が優秀で、多くが試験に受かることができており、女性の方が合格率が低いと言えます。

それならば、なぜ、男性が少なくなったのか。

その大きな疑問を、ナントのCNRSの研究員、アーディー・アン・シャンタル氏は、当時の男性が医学ではなく、金融や経営など他の分野に行ったからだと説明しています。(参照:仏Canal-U)

当時は景気も良くなってきており、男性にとっては狭き門の医学を目指すよりも、他の分野で管理職として活躍する方が魅力的だったのでしょう。

しかし、反対に多くの頭脳明晰な女性には医学の道に行くことの方が魅力的でした。自分の人生を考えた時に、会社の管理職になるよりも、医者の方が長く確実に使える資格であり、子供を育てながら働くのに適していると判断されたからでもあります。

 

■ 「一般医」資格取得方法の見直し

また、もう一つ女性の進出に大きく影響を与えた改革がありました。1982年に行われた改革は、さらに女性が医師として働く場を大きく広げたのです。その改革は、医学部での「一般医」の資格取得方法の見直し、及び「病院医」と「専門医」が二つに分かれていたものを、一つに編成し直したものです。

この頃は、「一般医」と「病院医」はとても男性が多い傾向にあり、反対に「専門医」は女性が多い傾向にあったため、同じ医師と言っても、男女が働く場に境界線のようなものが存在していたような形でした。しかし、改革後は一般医の試験がなくなり、あわせて病院医と専門医が同じ教育となったことで、男女の働く職場の境がなくなったのです。

この結果、女性医師の活躍する場が多様に広がり、男性を基準に作られていた職場も、女性も働きやすい環境やシステムに変えられるようになっていきます。一般医にしても、土日や深夜に出かけることがある職業であったのものを、何人かの一般医のグループで診療所を回すことで一人にかかる負荷を軽減させるなど経営形態を変えていき、女性向きの仕事に変えたり、フルタイムで働く代わりに女性は80%で働くシステムを採用したりすることで、子育て時間の確立と仕事を両立することを可能にしたのです。

そして、現在では、医者と言う職業は、すっかり女性に適した職業だと言われるようになり、さらに人気は高まりつつあるのです。

 

■ 女性医師は増加していくか?

これだけ高い女性の医学部の学生割合と、この何年かで多くの男性医師が退職をしていく状況の中、フランスでの女性医師の割合は男性を追い抜くことは間違いないと思われます。しかしながら、今年になって、もしかしたらその状況は長く続かないかもしない可能性がでてきました。

▲写真 マクロン仏大統領 出典:マクロン氏facebook

というのも、医師が多かった時代の60代以上の世代の医師が次々と退職し始めた結果、現在フランスでは医師不足に悩まされることとなり、マクロン政権は医学生の定員制限を撤廃するなどの改革を行い、医師を増やしていくことを発表したのです。

この改革が行われれば、決められた人数だけが医学を学べるのではなく、ある一定のレベルに到達していれば医学を学べるという、より自然な選抜が実施されることになります。また、他の分野にも行ける道を増やし、もし医師の試験に受からない場合でも容易に他の分野に進めるようになるとしています。

そうなると気になるのは男子学生の動向です。現在はすっかり女性が多い職場になったフランスの医学界ですが、学生の定員制限が撤廃され、失敗したとしても他の道にも行きやすいとなれば、もともと実力のある男子学生がまた医学の道を志すようになる可能性もでてくるのではないでしょうか。

実際どうなるかは蓋を開けてみなければわかりませんし、結果を知るのはまだまだ先の話になりますが、12年~15年後には男性医師が増大する可能性が大いに出てきたということです。しかし、いずれにしても、すでに作られた女性が働きやすい環境がこれからも持続する限りは、女性からの人気も衰えることがないことは間違いないでしょう。

トップ画像:イメージ図 出典:pixabay


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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