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スポーツ  投稿日:2018/11/26

アスリートの功績について スポーツの秋雑感 その6


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

川口能活、浅田真央の不屈の姿勢が共感呼び、子供達を勇気づけた。

・福原愛の「もう私の時代じゃない」発言。後進育てた不朽の功績。

・ファンや子どもたちの夢を壊す、悪質タックルや八百長相撲疑惑。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42969でお読みください。】

 

前回、サッカー日本代表に米国人の父を持つゴールキーパーが登場した話をした。入れ替わるように、45歳の元日本代表キーパーが現役引退を表明した。川口能活選手。J3のSC相模原が、最後の所属チームであった。日本代表の守護神と呼ばれ、キーパーとしては歴代1位の116試合出場を記録している。

▲写真 川口能活選手 出典:Yoshikatsu Kawagichi(official)facebook

U23代表時代は、1996年のアトランタ五輪において、ロナウドはじめすでに世界に名をとどろかせる選手を揃えたブラジル代表と対戦。相手キーパーのミスを突いて日本が先制した後、ブラジルの猛反撃にあったが、実に28本のシュートを全て防いで、完封勝ちした。世に言う「マイアミの奇跡」である。

実は彼は、身長179センチで、日本人男性としては堂々たる体躯と呼べるものの、世界レベルのゴールキーパーとしては一番小さい方であった。それでもなんでも、ゴール前での空中戦で体を張り続ける姿が、全国の少年サッカーのキーパーたちを、どれほど勇気づけたことか。

フィギュアスケートの浅田真央選手も、2017年に引退した。彼女の場合、競技フィギュアにはプロがないため、他にも多くの先例があるように、プロ転向という形をとっていたので、厳密には「アマチュア引退」ということになる。

ところが、2018年になって、実は最近アイスホッケーを始めており、今度はこの種目で大会に出たい、という発言が話題を呼んだ。アイスホッケーは、フィギュアとはまったく違う肉弾戦のイメージだが、彼女が参戦すれば面白そうだとは思う。アイスホッケーについて私はあまり知識がないが、華麗なステップで相手選手をかわすシーンが見られたら、この種目でも人気を博すのではないか。

▲写真 浅田真央選手 出典:David W. Carmichael(Public Domain)

それ以前に、忘れてはならないのは、今の日本女子フィギュアの隆盛は、彼女がいたからこそ、ということだろう。今時こんなことを言うと、コンプライアンス上の問題が起きかねないので名前は出さないが、昭和の時代には、日本人の女子フィギュアスケート選手と言うと、北米やヨーロッパの選手とはまるで違う、むちむち体型の子が多かった。

ところが浅田真央選手のような、平成生まれのアスリートの時代となって、急に顔が小さく、手足が長い選手ばかりになった。日本人女性全体に見られる傾向なのだろうか。そう言えば、彼女の実姉である浅田舞さんは、グラビアアイドルとしても知られるほどだ。

いや、これは真面目な疑問で、難易度において同じような演技を見せても、彼女のような体型の方が見栄えがよく、採点で有利、ということはないのだろうか。彼女にはまた、韓国のキム・ヨナというライバルがいて、幾度も苦杯をなめさせられていた。

▲写真 キム・ヨナ選手 出典:David W.Carmichael(Public Domain)

私はブログに書いたことがあるのだが、そのような結果になったのは、とどのつまりメンタルの差であったと、本当は多くの人が気づいていたと思う。そうではあるけれども、彼女の笑顔と、負けてもくじけない頑張りを見て、何人の女の子がフィギュアスケートの選手を志したことだろうか。

その女の子たちが今の隆盛を支えていることを思えば、浅田真央という選手は、金メダル一個分どころではない功績を、日本フィギュア界に残したと言ってよい。これはおそらく、日本人に特有の傾向であろうが、向かうところ敵なし、という選手よりも、何度負けても諦めない、という姿を見せられる方が共感を呼ぶのである。

卓球の福原愛選手にも、同様のことが言える。彼女は幼少期から「天才卓球少女」としてマスコミに幾度となく登場し、相手が大人でも負けると号泣することから「泣き虫愛ちゃん」とも呼ばれて、人気を博した。地味なスポーツと思われがちであった卓球の世界から、アイドルが出現したのである。

▲写真 福原愛選手 出典:Didier Garcon on Picasa Web Albums(Public Domain)

ところで、卓球にも段位があるということをご存じだろうか。公益財団法人日本卓球協会が認定し、10段を最高位として5級まであり、全国大会の出場歴がないと有段者になれないそうだ。ちなみに福原愛選手は7段だとか。大きな大会で優勝したりすれば昇段し、10段になるには五輪での個人戦金メダル獲得が条件であるらしい。アジア大会優勝レベルなら8段、福原愛選手の7段は、全日本優勝の功績によるものだ。

一方では、卓球の普及に貢献したということなのか、有名人が段位を取得している例もある。落語の三遊亭小遊三師匠はじめ、とんねるずの2人、THE ALFEEの3人が、いずれも有段者名簿に「特別」枠で名を連ねている。

話を戻して、アスリートは基本的に好きなスポーツに打ち込んでいれば幸福なのであろうが、それが出来る期間はごく短い。つまり、日本人の平均寿命が延びている中、その基準で言えばまだまだ若い時に、選手生活を終えねばならない場合がほとんどなのである。

そんな時、福原愛選手がまさにそうだったのだが、「もう私の時代じゃない」と満面の笑顔で言えたら、これに勝る幸福はないだろうと思える。TVで見た「愛ちゃん」に憧れて卓球を始めた、後輩の選手達が、世界の頂点を目指せるところまで来ているからこその発言であり、くどいようだが、これこそが彼女が日本の女子卓球界に残した不朽の功績であると思う。

逆に、アメリカンフットボールで今年大いに騒がれた「悪質タックル」や、相撲界で繰り返し取りざたされる「八百長疑惑」の、なにが一番いけないかと言うと、競技を愛する人々や、選手に憧れる子供達の夢を壊すことだ。スポーツには、人を元気にする力がある。そこには男女差も、またプロとアマチュアの区別もない。

トップ画像:イメージ 出典:GOODFREEPHOTOS


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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