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.国際  投稿日:2018/12/12

華為(Huawei)の危険性を遡る


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018 #50」

12月10-16日

【まとめ】

・Huawei CFO逮捕に潜む政治的メッセージ。

・華為は、ZTEと並び、昔から知る人ぞ知る要注意企業。

・日本の民間企業、今も華為を使用。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読み下さい。】

 

今週は書くことが沢山ある。まずは中国の大手通信機器メーカーのCFO逮捕の衝撃から始めよう。日本のマスコミは社名を「ファーウェイ」としているが、これには違和感がある。「ファーウェイ」と書くと多くの人は「Far Way」とでも思うかもしれないが、中国語の正確な発音は「フア(第2音節)・ウェイ(第4音節)」、漢字で書けば「華為」である。

 

「華為」とは、恐らく「中華有為」を短くしたものだろう。中華が意義ある仕事をする、とでもいう意味だろうか。前途有為の「有為」だが、いかにも人民解放軍エンジニアが考えそうな社名ではないか。今回逮捕されたのは創業者・任正非氏の最初の妻の娘・孟晩舟(もう・ばんしゅう)女史だが、今は母親の姓を使っている。色々葛藤があったのだろうか。

 

それはともかく、彼女逮捕のタイミングが絶妙で、直前の米中首脳会談との関係が取り沙汰された。90日間の休戦で折角合意したのに、なぜこの時期に?と訝る向きもあったようだ。真相は不明だが、トランプ氏は逮捕を事前には知らなかったとしており、偶然説も根強い。だが常識的には、この逮捕に政治的メッセージがない筈はない。

写真)Russia Calling! Investment Forumに出席したHuawei・孟晩舟CFO(2014・Moscow)

出典)President of Russia

 

華為は、ZTEと並び、昔から知る人ぞ知る要注意企業だった。筆者が両社の製品の問題点を最初に取り上げたのは2012年6月。当時連載していた「中国株式会社の研究」というコラムに以下のように書いている。ちょっと長くなるが、重要なので該当部分を引用しよう。今から読み返してみても、華為はちっとも変っていないようだ。

 

(以下引用)

●華為技術(Huawei)、中興通訊(ZTEという名を聞いてピンと来る読者はインターネット・情報通信にかなり詳しい方々だろう。今これら中国通信機器メーカーに「中国当局の隠れ蓑」、「不正情報収集」疑惑が浮上している。今回はこの疑惑の真偽を取り上げたい。

 

下院委員会の公式質問状

手元に二通の公式書簡がある。去る6月12日、米下院インテリジェンス特別委員会が件の「華為技術」と「ZTE」の経営者に対し3週間以内の情報開示を求めたものだ。・・・同書簡カバーレターには、今回の目的が「中国政府と潜在的に関係を持ち得る中国企業が米国の死活的インフラと防諜体制に与える脅威について調査すること」だとはっきり記されている。どうやら委員会の目的は貿易・経済ではなく、あくまで安全保障のようだ。

 

相当悪質な華為とZTE

冒頭では華為とZTEに「疑惑が浮上」と書いたが、こうした疑惑は実は今回が初めてではない。それどころか、過去数年間だけでも、世界中でこの二社が製造した通信設備・機器などにつき、安全保障上の重大な懸念が指摘されている

 

例えば、インド政府は2010年3月から、華為技術やZTEなどの通信設備・機器輸入を事実上禁止したという。これらの製品には盗聴用の特殊なチップが組み込まれており、遠隔操作で機密性の高いネットワークへの侵入も可能になるというのが理由だ。

 

また、同年10月のワシントン・ポストは、米国家安全保障局(NSA)が2009年末、AT&Tに対し華為技術の通信機器は中国情報機関のスパイ活動に利用される恐れがあるので取引を見合わせるよう警告していたと報じている。  

 

翌2011年11月には、件の米下院インテリジェンス特別委員会が、華為技術やZTEを含む中国企業が米国の安全保障と通信インフラを脅威に曝しているとして予備調査を開始している。今回の質問状はこの調査の延長上にあるものだ。

 

更に、本年3月にはオーストラリアでも同様の問題が起きている。豪連邦政府は同国ブロードバンド網(NBN)整備計画において華為技術の応札を禁じ、パース・シンガポール間の海底ケーブル敷設事業でも情報の安全性につき調査を始めると報じられた。

 

つい最近も米国ZTE製のスマートフォンに通常ではあり得ない異常な「バックドア(情報流出のための重大な脆弱性)」が見つかったという。特定のパスワード入力で端末のコントロールが可能になるそうだが、専門家は単なるミスや偶然では起こり得ないと主張する。

 

このほかにも、最近では欧州連合(EU)が華為技術とZTEに対し反ダンピング調査を開始すると報じられた。華為技術の創業者・任正非氏は人民解放軍出身、ZTEは中国国有企業との関連が深い。中国政府の圧力・関与を懸念する声はどうしても消えないのだ。・・・・・(以下略)

もう十分だろう。この華為技術なる中国企業は実は10年も前から、米EU豪印などでその危険性が指摘されていた問題企業だ。その会社の製品を漸く日本政府は調達禁止と決めたが、実は多くの日本の民間企業が今もこれらを使用している。このことはあまり大きく報じられていなかったが、こんなことで良いのか、疑問は尽きない。

 

東アジア・大洋州

 

先の米中首脳会談では何も決まらなかった。更に、華為技術のCFOが逮捕されたのだから、米中貿易交渉が順調に進むとは到底思えない。ホワイトハウス内でも、財務長官、大統領の娘婿など中国との取引を優先しようとするグループと、それに反対する勢力との綱引きが続いている。華為CEOの逮捕もその一環と見るべきだろう。

 

欧州・ロシア

 

フランスで政府に抗議するデモが続いているが、報道画像をよく見ると、これは単なる「デモ」を通り越して、一種の暴動に近いのではないか。「黄色いベストを着る」ということは、暴徒の中心が学生や知識人などではなく、フランスの雑多な単純労働者達の組織されない衝動的集団行動であることを暗示しているのかもしれない。

 

直接のきっかけは燃料税引き上げだったが、その本質は非エリート労働者層のエリート指導層に対する素朴な反感ではないのか。さればこの運動に強力な指導者がいる可能性は低く、参加者は現在のマクロン式エリート政治に不満を持つ、右翼、左翼、外国人労働者など雑多な人々なのだろう。マクロンの化けの皮が剥がれつつある。

写真)黄色いベスト運動

出典)Wikipedia

 

中東・アフリカ

7日にOPEC石油輸出国機構とロシアなどの産油国が2019年上期に日量120万バレルの減産を実施することで合意したという。削減量120BDのうちOPEC80BD、ロシアが23BDを削減するというが、本当にうまく行くのかね。こういう時は合意はできるけど、皆抜け駆けを考えるのではないのかね。要注意である。

 

南北アメリカ

 

米国ではロシアゲート問題の特別検察官が法廷に新たな文書を提出し、トランプ氏の周辺や身内への包囲網が更に狭まりつつあるという報道が流れている。だが、本当のところは良く分からない。トランプ氏に明確な有罪に値する違法行為があったことを示す証拠はないからだ。

 

そうした中で、ホワイトハウスの大統領首席補佐官が年内に辞任することが明らかとなり、現在後任候補が取り沙汰されている。しかし、今更こんな仕事を喜んで引き受ける人がいるのだろうか。能力のある賢い人なら引き受ける筈はないから、今後、就任する人がトランプ氏の下でホワイトハウスを仕切るのは至難の業だろうと思う。

 

インド亜大陸

特記事項はない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)Huawei Technology in Shenzhen, China

出典)Wikimedia Commons


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