踊る世界情勢 トランプ外交が引き起こす波紋

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025 #05
2025年2月3-9日
【まとめ】
・現トランプ外交はロシアンルーレット。メキシコ、カナダ、中国、パナマ、デンマーク各首脳に引き金を引かせようとしている。
・次に拳銃が回るのはEU諸国。その後日本にも来るのか気になる。
・ガザ戦争の停戦交渉が次の段階に進むかは、ネタニヤフ・イスラエル首相とトランプ政権側の話合い次第。
早いもので、今週はもう2月、日本では最も寒い時期となる。
だが、トランプ第二期政権発足から2週間しか経っていないのに、ワシントン、米国、そして世界はあたかもホットプレート上で踊る「煎り銀杏」のような「熱い」状態。こんなこと米国実業界ではCEOが代われば日常茶飯事だと思うが、これが連邦政府となると話は別だろう。
トランプ政権が今やっていることは選挙公約の「有言実行」だが、これほど毎日のように新たな決定が下され、実行され、延期され、撤回されると、こちらも疲れてくる。但し、前回も書いた通り、この種の政治的混乱は、米国政治史上、決して稀なことではない。勿論、それが米国や世界にとって有益か否かは別として・・・、である。
筆者は今のトランプ外交を「ロシアンルーレット」に例えて説明している。ロシアンルーレット(Russian roulette)とは、回転式拳銃に1発だけ実弾を装填し、適当にシリンダーを回転させてから、ゲーム参加者が一人ずつ自分のこめかみに向け自ら引き金を引く、という実に恐ろしいゲームだ。勿論、筆者には参加経験はないが・・・。
今トランプはメキシコ、カナダ、中国、パナマ、デンマークなどの各首脳にこの拳銃を渡し引き金を引かせようとしている。しかも、シリンダーに装填された銃弾は1発だけではなさそうだ。可哀そうにカナダも、メキシコも、パナマも、デンマークも、恐る恐る引き金を引いたら、幸い今回は空砲だったようだが・・・。
カナダとメキシコは一カ月間の「猶予」が認められ、流石の習近平主席もこれからトランプと首脳レベルで協議を行うのだという。但し、中国の場合には、空砲ではなく、初めから実弾が装填されているかもしれないが・・・。それにしても、このロシアンルーレット、近い内に新たなラウンドが始まる恐れがある。
次の参加者はEU諸国となるだろう。その次には日本にも拳銃が回って来るのか、大いに気になるところだ。それにしても、理不尽な措置をとると言って、無辜の市民を一方的に脅した後、泣き寝入りさせる手法は、日本なら「反社」行為に近いと思うのだが・・・。
それはさておき、トランプが拳銃を渡さないだろう相手が少なくとも一人いる。それはプーチン大統領だ。ロシアンルーレットだから、ロシア大統領の参加は不可欠だと思うのだが、トランプはプーチンと話をつけてから、ウクライナのゼレンスキー大統領にシリンダー全てに実弾が入った拳銃を渡すのではなかろうか。もうこんな見え透いたゲームは止めにして、もう少し真面目な交渉は出来ないものかね?
続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
2月4日 火曜日 イスラエル首相訪米、米大統領と会談
パキスタン首相、訪中(5日間)
2月5日 水曜日 インドデリー州で州議会選挙
2月6日 木曜日 南アフリカ大統領、議会演説
EU外交トップ、NATO事務総長と会談
2月8日 土曜日 ルワンダ・コンゴ緊急首脳会談
2月9日 日曜日 リヒテンシュタイン、コソヴォで議会選挙
エクアドルで大統領選及び議会選挙
ドイツ首相と野党党首が総選挙に向けた討論会
2月10日 月曜日 フランスでAI関連首脳会議(2日間)
最後はガザ・中東情勢に簡単に触れたい。
ガザ戦争の停戦合意に基づく人質交換は何とか進んでいるようだが、今後停戦交渉が次の段階に進むか否かは、今ワシントンを訪問中のネタニヤフ・イスラエル首相がトランプ政権側と如何なる話し合いを行うか次第となるだろう。来週は米イスラエル首脳会談を取り上げようと思う。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)トランプ米大統領 ワシントンDCホワイトハウスにて記者会見の様子- 2025年1月30日
出典)Chip Somodevilla/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

