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.国際  投稿日:2018/12/30

バノン復活、トランプを救う? ~2019年を占う~【アメリカ】


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

【まとめ】

・策士バノン氏政権復帰で落ち目トランプ大統領を救うと予測。

・市場に安心感回帰も、米中貿易戦争、対日圧力、反移民策強化。

・在韓米軍撤収約束、朝鮮半島「非核化」功績を喧伝する可能性。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読みください。】

 

2019年は、

暴走するトランプ米大統領が世界にもたらす政治的・経済的・軍事的リスクが顕著に意識され

中国と北朝鮮および韓国の東アジアにおける地政学的な「運命共同体」が明確になり、

欧州ではマクロン仏政権やメルケル独政権が弱体化する一方、英国の欧州連合(EU)離脱が硬着陸(ハードブレグジット)となり、欧州の一体感がさらに失われる

と予想する。

 

グローバル化された世界はいったん国家主義に基づくバラバラの国民国家に「回帰」してゆく。そうした中で2019年には、世界各国が欧米発祥の「現代的」「グローバル」なつながり方から、東アジアの中朝韓の関係に見られるような「歴史的」「前近代的」国家間のつながりへと再編されてゆく萌芽が各地で見られるようになる。

 

こうした中、世界の大激変の中心となる米国の政治が2019年にどのように展開するか、大胆予想を試みる。

写真)クリスマスに際し、世界各地の駐留米軍部隊をビデオ会議で労うトランプ米大統領(2018年12月25日 ホワイトハウス)

出典)flicr : The White House (public domain)

 

 トランプ大暴れ、裸の王様化

2019年の世界政治の台風の目は何といってもトランプ大統領だ。2018年暮れの株・債券・コモディティのトリプル安の直接的・間接的引き金となった政治リスクを作り出した張本人である。

 

2018年11月の中間選挙で下院を民主党に奪われ、閣僚らは次々と政権を去り、元側近たちは大統領のロシア内通を捜査する検察に寝返り、モラー特別検察官の大統領に対する包囲網は狭まる。絶好調であったはずのトランプ氏は、いつの間にか追い詰められてきた。

 

ご自慢であったトランプ相場も化けの皮が剥がれて来る。米市場は乱高下を繰り返しながらじわじわと値を削っており、2019年には米経済の景気後退の到来を予想するエコノミストも多い。

 

株価を自身の政権運営の通知表のように考えるトランプ大統領の性格からして、こうした市場や経済の変調に関しては、引き続き米連邦準備制度理事会(FRB)やムニューシン財務長官、はたまた貿易相手国の中国などの責任に転嫁してゆくだろう。

 

だが、真の政治リスクはトランプ大統領自身であるため、他者を非難することは本当の解決にはならず、かえって投資家の不安や怖れがこじれて増幅されてゆく。イケイケであった2017年と2018年のトランプ相場の大功労者であったトランプ氏は、2019年には一転して市場心理や景況感を悪化させる「A級戦犯」の地位に落ちてゆく。

 

また、持論である米墨国境の壁建設についてさらに意固地になり、大統領に譲歩するつもりがない民主党との対立は激化してゆく。マティス前国防長官やケリー前大統領首席補佐官など、大統領の暴走を止められる力量のある閣僚もいなくなった。

 

イエスマンに囲まれ「裸の王様」と化したトランプ氏は、支持者からの人気を保つために連邦政府機関の一部閉鎖を長引かせ、「外交のできる大統領」を演じるべく独断で行動する可能性がある。

 

米国を「世界の警察官」の役割から解放しようとしているトランプ大統領は、マティス前国防長官の反対を押し切って即興でシリアからの撤退を決断しており、市場から「地政学的リスク」と見做される恐れがある。

 

 策士バノンが復活か

こうして予測不可能なトランプ大統領は、身内の共和党を含むあらゆる国内外の勢力に対する孤立の度合いを深めてゆく。2019年には、トランプリスクで米国政治が危機的な状況に陥る可能性は高いと見る。支持率も急落するだろう。

 

だが、そうした大統領を「救済」して制御できる人物がただ一人、存在する。大統領の政治思想に大きな影響を与え、「陰の大統領」とまで呼ばれたスティーブ・バノン元首席戦略官兼大統領上級顧問である。「バノンがいなければ、トランプは大統領にはなれなかった」とも評されている。

写真)トランプ政権発足当時のスティーブ・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問(2017年1月25日)写真中央

出典)White House facebook

 

2017年8月にケンカ別れし、トランプ氏が「もう何の関係もない」とする元部下だ。筆者はこの「バノン復帰」というトランプゲームのワイルドカードで政権が息を吹き返す可能性があると見る。

 

そもそもバノン氏がトランプ大統領に解任された表面的な理由は、北朝鮮に対する攻撃を排除しなかった当時の大統領の方針と相反して、「米国の軍事的攻撃による解決策はない」「在韓米軍は撤収すべきだ」と主張したからである。

 

ところが、その後トランプ大統領はバノン氏の方針に沿った政策の転換を行い、2018年6月に北朝鮮の金正恩委員長と会談して、さらに在韓米軍の撤退をほのめかした。すでにケンカ別れの原因が、大統領の変化により解消されている。

 

 トランプ政権は「バノン政権」

さらに、トランプ大統領が現在採用している「経済安保」「中国との対峙」や「米国第一」の具体的政策や手法を吹き込んだのは、バノン氏その人だ。

 

トランプ氏にあまり重用されていない「小物強硬派」のボルトン補佐官ナバロ国家通商会議(NTC)委員長ら雑魚には考えつかない、壮大で奇抜な「革命」のビジョンや大局的なシナリオを描ける人物だ。

 

独自の信念や思想を持たないトランプ大統領が、米国の伝統回帰の手段として「国境」「通貨」「国家アイデンティティ」を強調するのは、それらを用いた改革を唱えるバノン思想の信奉者であるからだ。

 

二人の関係が切れた今も、トランプ政権は「バノン政権」なのであり、その意味でバノン氏は、今のトランプ大統領を統制し得る唯一の人物と言ってよい。

 

バノン氏が政権から放逐された真の理由は、「バノンの存在感がトランプのそれを脅かすようになり、トランプがそれを不快に思った」ことだとされるが、軍師がいない状態で追い詰められた今、大統領はもう一度バノン氏を必要だと思っているのではないか。

写真)スティーブ・バノン首席戦略官兼大統領上級顧問(当時 2017125日 テーブル最奥)

出典)White House facebook

 

 バノン氏がもたらし得る「安定」

バノン氏が政権に復帰すれば、暴走するトランプ氏の政策に一定の安定性が戻り、良し悪しは別として政治にも一貫性が見られるようになるだろう。そうなれば、たとえ政権の政策がより強硬になっても、一貫性と予測可能性を好む市場に安心感と安定感が戻る可能性がある。

 

バノン氏は2018年9月に、「新たな金融危機が迫っている。賢い人なら誰でもそう見ている」との見立てを披露し、「必要なのは根本的な改革だ」「米国は大きな鎌で一気に草を刈るような革命に突き進んでいる」と強調するなど、政権に必要な指針となる考えを持っていることを示唆している。

 

復帰したバノン氏の下でトランプ政権は、「国境」「通貨」「国家アイデンティティ」のキーワードに基づき、現在進行中の政策の見直しおよび純化を図るだろう。

 

一部見直しの対象となるのは、政権初期に実現した大企業や投資家優遇の税制や規制緩和だ。「経済的な打撃を受けた人々を助ける」バノン的なポピュリズムが、ようやく初めて実際に採用される可能性がある。

 

手っ取り早く、トランプ氏が中間選挙期間中に唱えた「中間層10%所得減税」などが推進されるだろう。これには、大統領に敵対する民主党も大筋で協力せざるを得ず、大統領の劣勢が挽回できるかもしれない

 

一方で、純化される政策もある。バノン思想に基づく米中貿易戦争は熾烈さを増し、日本など同盟国に米国が迫る2国間通商協定の締結圧力は高まるだろう。減速する経済の下で支持を増やしやすい反移民・国境の壁建設政策はより強化され、民主党の抵抗が徐々に無力化されてゆく。

 

こうして、減速する米経済を逆手にとってバノン的政策が次々と実現し、「安定」と「成果」を挙げるのではないか

 

一方、在韓米軍撤収の約束による朝鮮半島の「非核化」を実現させ、それを平和の功績だと喧伝する可能性もある。

 

「バノン氏がトランプ政権に戻って、落ち目のトランプ大統領を救う」。荒唐無稽かもしれないが、これが筆者の2019年の米国政治の大胆予想である。

 

トップ写真)スティーブ・バノン元首席戦略官兼大統領上級顧問(2017年2月23日 CPAC)

出典)flikr : Michael Vadon


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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