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.国際  投稿日:2019/2/19

トランプ氏、緊急事態宣言で墓穴掘る


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・過去、非常事態宣言は同時多発テロなどを受け数十回発動されている。

・壁を越えて入国する移民もその犯罪率もピーク時に比べ4分の1に減少。

・今回の非常事態宣言を容認すれば、次々に緊急事態が発令されるだろう。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44206でお読み下さい。】

 

日本のニュースでは、ドナルド・トランプ米大統領がノーベル平和賞ほしさに安倍首相に頼み込み、日本政府側がそれに応じて彼を推薦していたことが明らかにされて物議を醸しているが、トランプ大統領が自らのノーベル平和賞の可能性をひけらかした記者会見は、前例のない非常事態宣言の場だったことを忘れてはならない。

トランプに草稿なしでスピーチをさせると、話があちこち飛び、文法も内容もメチャクチャで、虚言・妄想が繰り返される話がダラダラ続くので、これを取材しなければならないアメリカの記者団も辟易しているのだが、この日の「キモ」は、もはやメキシコも米連邦議会もカネを出さない「壁」にぶち当たったトランプが、テロや戦争などの非常事態が発生した際の大統領権限である緊急事態を宣言し、それによって議会の承認なくして勝手に他からの予算を自分の都合で再配分する、というものだ。

▲写真 アメリカ合衆国議会 出典:Frickr; Republic of Korea

大統領による緊急事態宣言は過去に例がないわけではない。1976年の国家緊急事態法制定以来、数十回発動されてはいる。その多くは国際法違反行為を犯した国に対する制裁措置に関連するもんだ。だが、軍隊の出動を伴う緊急事態宣言が最後に出されたのは、2001年にジョージ・ブッシュ大統領が9.11同時多発テロを受けて、その報復措置としての軍事行動を決めた時だ。

そもそもトランプが訴えているように「緊急」に壁を作らねばならないような「事態」は存在しないのだ。メキシコ国境を超えて入国しようとして捕まった人の数はピーク時の2000年に比べ、4分の1にまで落ちているのが実情だ。トランプが壁を作りさえすれば防げると豪語する違法移民の犯罪者はそのほとんどが有効なビザを手に、空港に降り立つ。しかも、犯罪率でいえば、違法移民の犯罪率は、一般アメリカ市民の犯罪率よりずっと低いときている。(警察の世話になれば、違法移民であることがバレてしまうのだから当たり前だ)

いくら公約として掲げていたとはいえ、現実味のない国境の壁は当初は「メキシコに支払わせる」はずだったのが、いつの間にかアメリカ人の税金で支払うことになっている。連邦政府職員に給与を支払うのを1ヶ月以上もストップさせてゴネたのに、結局、国会からはリクエストしていた初年度分50億ドルの3分の1程度の予算しかおりなかった

▲写真 アメリカ連邦政府 出典:Frickr; Daniel Mennerich

もちろん、大統領がホワイトハウスでやると宣言しさえすれば、何の障害もなくすぐさま実行されるわけではない。これからさっそく下院議会で「緊急事態が起こっている証拠を出すように」という公聴会がいくつも開かれることになる。既に、実際に壁が立つとされた国境沿いの土地保有者が強制的に土地を買い上げられるのを不服としてアメリカ政府を相手に訴訟を起こしている。

民主党内ではさっそく、これを大統領による連邦憲法違反として上下院でしかるべき手続きを踏んでいくと声明を出している。ここでこじれて最高裁に持ち込まれれば、トランプは自分が送り込んだ保守派の判事が味方してくれると踏んでいるようだが、これは保守・リベラルに関係なく、民主主義の基本理念である三権分立を犯すケースだけに、トランプが目論む通りにはならない可能性が高い。

緊急性があるかどうかといえば、なにしろスピーチの最中に、ノーベル平和賞に推薦されたという自慢話だけでなく、I didn’t need to do this.(こんなこと、やらなくてもいいんだ)」と自らその必要性を否定するというお粗末さで、この発言は、法廷の場でも大統領自らの発言が緊急性を否定した証拠とされるだろう。そして、スピーチを終えるや否や、トランプはゴルフをしにフロリダの私邸にエアフォース・ワンで飛んでいったというオチがついている。

▲写真 Airforce1から降りるトランプ大統領 出典:Official United States Air Force Website

これまではトランプがどんな愚行を犯しても、賛成票を投じ続けてきた共和党にも既に異を唱える上院議員が出てきている。なぜなら、今回のわがままを大統領に許したら、次に民主党政権が誕生したら、銃規制だの、地球温暖化対策だのと、いくらでも否定できない実在の「危機」に基づいて緊急事態が発令されるのが明らかだからだ。

真の国家の緊急事態は、トランプが大統領になった時に始まったのだから。

トップ写真:Donald Trump 出典:Frickr; Matt Johnson


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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