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.国際  投稿日:2019/3/3

「中距離核全廃、日本主導で」元防衛相中谷元衆議院議員


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(大川聖)

編集長が聞く!」

【まとめ】

・米朝でトランプ氏が妥協しなかったことは評価。制裁継続が大事。

中国も含めた多国的なINFの制限を日本主導で目指すべき。

平壌に連絡事務所設置し対話のチャンネル開いて拉致の情報収集や交渉をすべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44486でお読み下さい。】

 

2月27、28日の2日間、ベトナムの首都ハノイで、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が2回目となる首脳会談を行った。会談によって、米朝関係は決裂し、非核化への道のりは遠のいた。安倍編集長は元防衛大臣で自由民主党衆議院議員中谷元氏に話を聞いた。

 

■ 米朝首脳会談の評価

安倍編集長は「トランプ大統領は非核化が担保されないと制裁解除しないとした。金正恩朝鮮労働党委員長側の読み違いだったのでは。」と聞いた。これに対し中谷議員は「アメリカは核拡散・核保有について断固認めないという姿勢をずっと一貫し、強い意志を示した。北朝鮮に妥協せず原則を貫いた。」とアメリカの姿勢を評価した。

一方で、「非核化について前向きな意見も出ていたが、北朝鮮は高飛車で不当な要求をしてきた。事前の準備・お膳立てが全くなく、首脳会談にお互い賭けていたようだが失敗した。」と述べた。外交交渉は事前に内容を詰めて臨むのが通例だが、「首脳外交に過大な希望を抱きすぎた。」と指摘した。

また、中谷氏は「同時にコーエン元弁護士の証言もあり、トランプ大統領自身が弱い立場になり大胆な妥協ができなかった。」と述べ、会談が合意に至らなかったのは内政事情が許さなかったのも影響しているとした。

米朝会談でアメリカは北朝鮮に対し、寧辺(ニョンビョン)以外に一般に知られていないウラン濃縮施設の存在を知っていることを明らかにした。中谷氏は「米メディアによると、平壌郊外にある降仙(カンソン)にウラン濃縮施設があり、廃棄をアメリカは要求したが、応じなかった。ただ単に寧辺だけ処理して終わる問題ではないということが露呈した。」とした。

▲写真 Kangson(カンソン)のウラン濃縮を行っていると思われる施設(中央の縦長の建物)出典:Middlebury Institute of International Studies @2018Planet Labs,Inc.

そのうえで「北朝鮮が核を放棄するのはありえないと思っている。また、外交交渉するのも核を使って一つ一つ小出しにして利益を得て、それでまた核開発するとみている。北朝鮮の誠意が伝わるような内容でないと妥協すべきでない。」と述べた。

安倍編集長は「今回、大きな進展はなかったのでしばらくこのままいく見通しか。」と聞いた。これに対し中谷氏は「韓国も経済協力・制裁緩和・平和宣言と揺れているが、やはり原点である“北が核を保有している”という脅威は変わってない。ここで(米朝が)決別したのでそういう動きは止まるだろう。」と述べた。

また中谷氏は「制裁しているからこそ(米朝は)対話のラインまできている。引き続き北が本当に核を放棄するところまでやらなければいけない。」と制裁継続の重要性を強調した。

北朝鮮側の交渉について中谷氏は「とりあえず人道的な支援を要求し、それなら寧辺廃棄としたが、順番が違う。そこはアメリカとすれ違っていて、トランプ大統領は原則は緩めていないし変わっていない。」と述べた。

一方アメリカ側について中谷氏は「国家安全保障問題担当のボルトン大統領補佐官やポンペオ国務長官は札付きのタカ派。絶対核は認めないという主義でまだ強硬策もテーブルの上に載っている人たち。最後にボルトン氏が出てきたので北には相当プレッシャーになったのでは。」とし、北朝鮮にとってボルトン氏の存在は大きかったと指摘した。

▲写真 Photo Credit: Official White House Photo by Shealah Craighead

 

■ 今後の安全保障

中谷氏は「日本にとっても会談の結果はよかった。北の核保有は安全保障にとって重要な問題。他人事ではなく、日本自身がしっかりやらなくてはいけない。」と警鐘を鳴らした。

そのうえで「中距離ミサイルは存在している。INFIntermediate-range Nuclear Force Treaty:中距離核戦力全廃条約もなくなったままである。日本は東アジアの安定と平和を構築する重要なプレーヤーとして、今後北朝鮮と対話のチャンネルを作り、平壌にも外交の連絡事務所を設置して、拉致も含めて直接情報収集とか交渉しながら、主体的にやっていかなければいけない。」と主張した。

さらに「INFは米ソの廃棄だが、日本やヨーロッパにとっては冷戦崩壊の象徴。今度は中国も含めた多国的なINFの制限を目指すべき」との考えを示した。それに対し安倍編集長が「日本はイニシアチブをとれると思うか。」と聞くと、中谷氏は「米露が辞めてしまったので、日本が先頭に立つべきだ。多くの国が賛同できるので、日本の外交の新しい目標になるのでは」との見方を示した。

▲写真 ©Japan In-depth編集部

 

■ 日韓関係

安倍編集長は「文在寅政権が続く限り日韓の関係改善は難しいと思うが。」と聞くと、中谷氏は「いつ崩れるかわからない政権だと思う。文在寅大統領もよく状況をみて、日米韓という基本的な連携はしっかりしたうえで物事を進めていったほうがいい。」と述べた。

さらに「朝鮮半島はアメリカがいるからパワーバランスで安定している。アメリカが抜けると途端に中国とロシアの勢力が入ってきて非常に不安定になってくる」とした。また中谷氏は「もともと北朝鮮はソ連の後ろ盾でできた国。ソ連がなくなったから核開発を一生懸命始めている。」とし、今のままだと地政学的なバランスも崩れかねないとの認識を示した。そのうえで「金正恩朝鮮労働党委員長は4回も中国を訪問し中国頼みになってきているので、ポイントは米中の今後の推移だと思う」と述べた。

 

■ 拉致問題

安倍編集長は「トランプ大統領が拉致問題を取り上げたという話があるが、家族会の皆さんも進展がなかったことでだいぶがっかりされていると思うが。」と聞くと、中谷氏は「核・ミサイル・経済も併せて話し合いをしないと拉致のところまでいかない。平壌に外交の連絡事務所を設置し、小泉訪朝時の平壌宣言(’02)に基づいて交渉しないと拉致のほうも進展できないのでは」と述べ、日朝のあらゆる問題に対しまずは外交のチャンネルを持つことの重要性を強調した。

これに対し安倍編集長は「連絡事務所を作ると北朝鮮の術中にはまるのという意見もある。あえて向こうに行く必要はないのではないか。」と聞くと、中谷氏は「北朝鮮の言うことが本当に正しいかを確認しなければならないし、情報を得ることは国としての外交判断に非常に重要だ。」と答えた。さらに「日本はこういった外国の情報を入手したりを避けてきた。情報収集の手段・ツールを広げるような外交をしていかなければならない。」との考えを示した。

最後に今後の日朝関係について中谷氏は「米朝が決裂したので、北もあらためてどうするのか。日本の経済力と技術力、民度の高さをみて、北がきちんとした姿勢を示せば、拉致の解決も含め協力をしていかなければならないのではないか。」とし、北朝鮮の動きを引き続き注視する姿勢を示した。

トップ画像:©Japan In-depth編集部


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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