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.国際  投稿日:2019/3/7

トランプを待つ議会調査の嵐


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・中間選挙で民主党が多数派になった委員会、トランプ氏の調査開始。

・脱税やマネロンなどはNY州南部連邦地裁管轄で恩赦効かず。

トランプ氏「大統領選挙に負けた民主党の根拠ない嫌がらせ」と主張。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44573でお読みください。】

 

ベトナムで行われた北朝鮮の金正恩との米朝首脳会談で何の成果も出せず、手ぶらで帰ったドナルド・トランプ大統領を待ち受けていたのは、米議会の各諮問委員会による調査、つまり、大量の資料請求と身の回りの人間への証言招致だった。

アメリカの議会には上下院合わせて数十の委員会があり、委員長は過半数の党から選ばれる。つまりトランプ政権の最初の2年間、米国議会は上下院ともに大統領と同じ共和党が過半数を占めていたため、各委員長はみな共和党で、トランプ政権に都合の悪いことは一切してこなかった。

それが昨年11月の中間選挙で、民主党が下院で過半数を占めたので、委員長が交代し、それぞれの委員会も民主党員の方が多い構成に変わった。それぞれの委員会の権限や影響力に差はあるが、Ways and Means(歳入)、Oversight(監督)、 Judiciary(法務)、Financial Services(金融サービス)といった委員会は、大統領が勝手に暴走しないための監督役としてはかなりの抑制力があり、トランプが選挙前、就任以降にかかわらず、違法行為に手を染めてきたかどうか、一斉に調査を始めた

トランプが米朝首脳会談に出席している間に、元個人弁護士でフィクサーを務めていたマイケル・コーエンを招聘したのは下院監督委員会で、「トランプは保険会社や銀行相手に資産の隠蔽/誇張をしてきた」との証言を引き出したため、今度は金融サービス委員会が大統領選以前にトランプの企業によって保険詐欺が行われたかどうかを判断するために、トランプの過去10年に渡る納税報告書を提出させる動きに出た。(選挙中、トランプは国税局の監査調査中なので公表できないとし、結局そのままうやむやになっている。)

▲写真 マイケル・コーエン氏 出典:Flickr; IowaPolitics.com

一方、監督委員会は、トランプの娘イヴァンカや娘婿ジャレッドに外交上の国家機密を知らせてもいいかどうかを判断する適格性調査において、FBIが「2人とも不可」と却下したのを、トランプが大統領権限で勝手に許可したことについて調査に手をつけ、その連絡役として臨時法務長官だったマシュー・ウィテカーがどう関与したのかを聞くために今月中にも彼を召喚する予定だ。

▲写真 ジャレッド氏とイヴァンカ氏 出典:flickr; North Charleston

さらに大統領に対していちばん権限が強いとされる歳入委員会は、大統領の関係者を中心に80余名に対し、様々な資料の提出を呼びかけた。これらの「依頼」に対し関係者が拒否をすれば、やがてそれは「召喚状」となって議会委員会に呼ばれ、偽証罪か黙秘権か、という選択を迫られることになる。

ロバート・マラー特別捜査官が調査しているのはあくまでもロシアが大統領選挙の妨害をした際に、トランプ側がどこまで関わっていたかを調べることであって、ビル・バー司法長官がその報告書をどこまで公開し、どう措置を取るかを決める。もし側近の誰かが起訴されても罪状は連邦法違反となるので、大統領が恩赦することができる。

だが、各委員会の調査で、トランプの会社や家族が関わるそれ以外の脱税、保険金詐欺、マネーロンダリングといった悪行については、そのほとんどがニューヨーク州南部連邦地裁の管轄になるので、恩赦も効かなければ、現行の大統領を起訴状に含めることもできるのだ。

ニューヨーク州南部連邦地裁といえば、1970年に制定されたRICORacketeer Influence and Corrupt Organizations Act)の元に「コーサ・ノストラ」と呼ばれるマフィア組織を起訴し、実刑判決に持ち込むことができる組織力で有名だ。(皮肉なことに80年代にニューヨークの辣腕検察官として「ファイブ・ファミリー」と呼ばれたニューヨークのマフィア組織を大掛かりな検挙・有罪に持ち込んだのは、今、トランプの弁護士として虚言を繰り返しているルディー・ジュリアーニなのだが。)

▲写真 ルディー・ジュリアーニ氏(左)出典:Wikimedia Commons; Crzrussian

既にトランプは「これは大統領選挙に負けた民主党による根拠のない嫌がらせだ」と言い始めており、これからも虚言と奇行を増幅させていくだろう。もちろん、これでは北朝鮮との平和交渉どころではない。それどころか、ジョン・ボルトン米大統領補佐官が北朝鮮に対する制裁圧力維持・増加をちらつかせている。アジアできな臭いことになって、米国民の興味関心がそちらに向いてくれれば、自分の身辺調査をごまかせるだろうとトランプが考えていない保証はない。

トップ写真:米中首脳会談後、ハノイに到着したトランプ大統領 出典:White House Facebook


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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