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.国際  投稿日:2019/2/7

トランプ氏演説、国民大多数が支持


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・大統領演説、全米の「団結」や「融和」に最大の力点。

・ゲストは、超党派の寛容さや偉大さを示す象徴的な役割果たす。

・米国民の大多数は演説を支持。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44025でお読み下さい。】

 

アメリカのドナルド・トランプ大統領の5日の一般教書演説は日本の主要メディアでは予想どおり批判的なトーンで報道された。日本のテレビに出た“識者”たちも「アメリカの分裂をまた示した」などという否定的な判定が多かったようだ。だが実際にはトランプ大統領はこの演説では全アメリカの「団結」や「融和」に最大の力点をおいていた。しかも肝心のアメリカ一般国民が同演説への意外なほど高い支持率を示したことは日本側ではほとんど報じられていない。

トランプ大統領は議会での約80分のこの演説でまず「ワシントンの二つの政党を団結させるための五つの優先政策」を強調した。アメリカ国民の雇用と公正な貿易、全米インフラ再建、健康保険と処方箋薬品の価格下げ、安全で合法の移民システムの構築、アメリカの利益を優先する外交目標の追求の5項目だった。ほとんどが民主党側からの抵抗の少ない政策表現だった。

トランプ大統領は政策面で民主党が伝統的に支持する項目をもとくに繰り返し強調した。インフラ建設主体の公共事業の拡大がその典型だといえる。公共事業拡大は民主党にとってフランクリン・ルーズベルト大統領の遺産ともいえるリベラル基本政策なのである。

トランプ大統領は女性の雇用の拡大をも数字をあげて強調した。新たに増えた雇用全体の58%が女性だというのだ。さらに大統領が「この連邦議会でもいまや女性議員の比率は史上最高となった」と述べると、民主党の女性議員たちから激しい拍手がわいた。そのうえにほとんどの女性議員が起立して、支持の意を示す歓声をあげた。トランプ大統領が民主党側の女性議員たちに融和の手を差し伸べるという姿勢は明白だった。しかもその瞬間だったにせよ、民主党女性議員たちも、そのオリーブの枝に熱く対応したのだった。もちろんその結果、すぐに融和が始まるということではない。

▲画像 President Donald J. Trump, is applauded as he delivers his State of the Union address at the U.S. Capitol, Tuesday, Feb.5,2019, in Washington, D.C. 出典:Official White House Photo by Joyce N. Boghosian

トランプ大統領の「超党派」の試みはこの演説の議場に招いた特別ゲスト18人の紹介でも明白だった。目前の共和党と民主党、保守とリベラルの衝突をひとまず脇において、アメリカが一致団結して歩んできた実績を眺めようという意図が明白だった。

招かれたアメリカ国民のなかには第二次大戦でナチス・ドイツにつかまり、アウシュビッツに収容されたが、殺戮の寸前に米軍部隊に救助されたユダヤ系米人、そのナチス・ドイツの軍隊と実際に戦い、戦果をあげた元米軍人がいた。その2人が並んで座り、トランプ大統領からそれぞれ紹介と賞賛の言葉を受けた。2人が肩を抱き合う情景は、まさにアメリカの偉大さの誇示ともいえた。

小児がんに襲われ、苛酷な治療に耐えてきた10歳の少女も大統領から紹介された。そしてかわいらしい表情で、小児がんの撲滅のための連邦政府予算を増したという大統領の言葉に拍手を送っていた。麻薬犯罪で終身刑を受けたが、トランプ政権の模範囚特別恩赦で釈放されたという中年の黒人女性も大統領の紹介に涙を再三、ぬぐいながら、立ち続けていた。

▲画像 A tearful Alice Johnson, who was serving a mandatory life sentence without parole in a nonviolent drug case and was granted clemency by President Donald J. Trump in June of 2018, gestures toward President Trump from the special guests gallery Tuesday, Feb. 5,2018, during the State of the Union Address at the U.S. Capitol in Washington, D.C. 出典:Official White House Photo by Joyce N. Boghosian

ただしトランプ大統領はこの特別ゲストのなかに違法入国の犯罪者に最近、家族を殺されたという母と娘をも含め、みずからの「国境の壁」の必要性を訴えるという政治的な計算もはっきりとみせていた。だが全体として特別ゲストたちはアメリカの国家としての超党派の寛容さや偉大さを示す象徴的な役割を果たしていた。トランプ大統領がこの一般教書演説にかけた意図の反映だった。

演説が終わってのCNNテレビなどの民主党系の評論家たちのコメントはそれでも批判的な内容が多かった。「長すぎる」「中身がない」といった批判だった。だが1時間も経たないうちに緊急の世論調査の結果が判明すると、その批判のトーンがぐっと後退してしまった。

CNNなどの報道によると、トランプ大統領の一般教書演説に対する一般アメリカ国民の意見の緊急世論調査では「59%が非常にポジティブ(肯定的)、17%がどちらかといえばポジティブ」という大多数が演説を支持するという、びっくりするような結果が出たのだった。しかも共和、民主両党の対立の焦点であるトランプ政権の移民政策については「72%が支持」という結果が判明した。

こうした前向きの評価はトランプ叩きを硬直させた日本の主要メディアでは、まず大きくは伝えられない。トランプ大統領の稀にみる「融和」の姿勢もほとんどが軽視する。ただし今回は朝日新聞が「トランプ氏 融和と強硬」という大見出しの記事を載せ、この演説での同大統領の融和姿勢をきちんと描写していた点が珍しく客観報道に近かった。

これと対照的に日本のテレビ討論に出た日本外務省の元高官が「またアメリカの分裂ばかりを示す演説だった」と述べていたが、この人は実際の演説を視聴したのだろうかといぶかされるほどの的外れ、あるいはとにかくトランプ叩き、ありき、であるように思わされた。

トップ写真:President Donald J. Trump delivers his State of the Union address at the U.S. Capitol, Tuesday, Feb. 5, 2019, in Washington, D.C. 出典:Official White House Photo by Shealah Craighead


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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