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.国際  投稿日:2019/3/27

露ゲートで米メディア対立激化


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #13」

2019年3月25-31日

【まとめ】

・ロシアゲートの報告書の内容にサプライズなし。

・過熱するCNN・FOXの報道合戦。

米連邦議会議員やジャーナリズムの劣化は目を覆うばかり。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44883でお読みください。】

 

先週はCNNとFox News(FOX)を比較しつつ、今の米国がまるで「一国二制度」のようだと書いた。それを象徴する報道が先週末から再び垂れ流されている。今週はその実態について書こう。発端は3月22日、過去2年ロシアゲートを捜査してきたモラー特別検察官が最終報告書をバー司法長官に提出するとの憶測が流れたことだ。

たまたま日本の自宅でCNN・USを見ていたが、当初CNNは、報告書の内容がトランプ氏に不利と見たのだろうか、この事実をやや興奮気味に報じていた。しかし、その後に「新たな起訴はない」との情報が流れ、更に土曜日も一日、報告書の詳細が明らかにならなかった、CNNは徐々に焦燥感と危機感を深めていったようだ。

これに対し、FOXは大はしゃぎ。トランプ政権の勝利を祝うかのように、大統領の嫌疑は晴れた、ロシアとの共謀などなかった、などと勝ち誇ったように報じ始める。相変わらずCNNとFOXは水と油だ。そうしている内に日本では夜が明けた。司法長官は24日の日曜日午後(日本時間で月曜未明)に報告書の要約を議会に提出した。

写真:Fox news バナー 出典:Flickr; mroach

4ページの短い書簡だが、内容的にサプライズはほとんどない。特別検察官の捜査では「ロシア政府の米大統領選干渉につきトランプ陣営関係者が同政府と共謀・連携したことは確認できず」「(司法妨害については)大統領が罪を犯したとも、無罪放免になったとも言えない」という内容だから、どちらにも取れる微妙な内容だ。

参考までに原文ではMueller’s “investigation did not establish that members of the Trump campaign conspired or coordinated with the Russian government in its election interference activities,” and “while this report does not conclude that the president committed a crime, it also does not exonerate him.”となる。

この要旨の解釈の仕方もCNNとFOXでまるで違う。その報道合戦のバカバカしさについては今週の産経新聞にコラムを書いたので、時間があればご一読願いたい。内政も大事だが、世界は米国抜きで動いている。米国の連邦議会議員やジャーナリズムの劣化は目を覆うばかり。やっぱり、日本にとっても対岸の火事ではないのだ。

今週は25日に筆者にとっては個人的に注目する大切な行事がある。外務省が今年度の「国際理解・国際協力のための高校生の主張コンクール」「同全国中学生作文コンテスト」の特賞入選者8名を奥・井ノ上記念日本青少年国連訪問団」としてニューヨークに派遣するのだ。

この事業は平成13年度に当時外務省国連政策課長であった故・奥克彦大使の発案で始まったそうだ。筆者も奥大使とは個人的に親交があったので、同大使の後任として2004年バグダッドに赴任したことを今でも決して忘れはしない。イラクの平和と復興を願いつつ殉職した奥大使と井ノ上正盛書記官のご冥福を改めて祈りたい

 

〇 アジア

先週トランプ氏は米財務省が発表した北朝鮮に対する追加的大規模経済制裁を突然「撤回するよう命じた」とツイートし、関係者は大騒ぎになった。同日北朝鮮は開城の南北連絡事務所からの撤退を発表している。2月末の第二回首脳会談から一カ月経ったが、北朝鮮の非核化は一体どうなったのだろうか。

 

〇 欧州・ロシア

英国ではEU離脱に関し新たに国民投票を求める大規模なデモがあり、一部主要紙はメイ首相退陣を求めた。合意なき離脱は米国経済にも悪影響を及ぼすが、米国はロシアゲート一色だ。中国国家主席を迎えたイタリアは、米国などの反対にも拘わらず「一帯一路」構想に正式参加した。大衆迎合的民族主義を掲げる今のイタリア政府には欧米の警告など馬耳東風なのだろう。

 

〇 中東

先週木曜日、トランプ氏はゴラン高原に対するイスラエルの主権を認め、ポンペイオ国務長官は同高原の占領が安保理決議違反ではないと言い切った。エルサレムへの米大使館移転も大事件だったが、イスラエルによるゴラン高原の「支配」は「占領」ではないと言われると、さすがの筆者も「いい加減にしろ」と言いたくなる。国務長官がそんなことを考える根拠は一体何なのか。

▲写真 ポンペオ国務長官 出典:在スロバキア米国大使館

 

〇 南北アメリカ

南米ではベネズエラで混乱が続いている。先週木曜日には「暫定」大統領の最側近が家宅捜索の末、銃火器所持の容疑で拘束された。どうやらマドゥロ現大統領は「レッドライン」を越えつつあるようだ。以前トランプ氏は「全ての選択肢がオープン」と発言したが、どうするのか。これで何もしなければ次は「暫定」大統領本人に害が及ぶかもしれない。

▲写真 マドゥロ大統領(右)出典:Flickr; Cancillería del Ecuador

 

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ロシアゲート疑惑のあった大統領選 出典:Flickr; Alex Hanson


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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