テスラ、モデル2投入の無謀
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・テスラの株価が低迷している。
・そうした中、廉価版モデル2の開発が進んでいるとの報道。
・モデル2の利益率は低くなることが予想され、敢えて投入するのは無謀ではないか。
テスラの株価がさえない。
2023年夏には300ドル近くまで上昇したが、今年に入ってから下げ基調、直近で170ドルぐらいになってしまった。
2024年の伸びが鈍化すると明らかになったことで失望売りが加速した。トランプ氏が大統領に再選されたらEV補助金などがカットされるのでないかなどの観測も、EV専業メーカーテスラに取っては逆風だ。
なにより中国EVメーカーの台頭もテスラの足元を脅かす。BYDは2023年にEVを世界で300万台超販売し、世界トップに躍り出た。
テスラの戦略はといえば、2023年には奇妙奇天烈なエクステリアのサイバートラックを投入した。値段は約60000ドル、日本円で約900万円だ。ピックアップトラックとしてはとんでもなく高いが、デローリアンDMC-12並のステンレス製ボディは何と防弾だという。テスラが公開している実弾による実験動画を見る限り、たしかに防弾性能には相当の自信があるようだ。
テスラ公式動画:「サイバートラック防弾性能実弾テスト」
Cybertruckは、搭載されるモーターの数によって3つのモデルの中から注文できる。
最上位モデルの「Cyberbeast」にいたっては、モーター3基(リヤ2基、フロント1基)を搭載する。出力は約845馬力、時速100kmまでわずか2.7秒で加速し、最高速度は時速209kmに達するモンスターマシンだ。価格は9万9990ドル(約1460万円)に達する。こんなクルマはテスラしか作れない。いや、イーロンマスクにしか。
こうした高級化路線を進むのは自動車会社として正しい。もともとテスラはEVロードスターからスタートした。EVはガソリン車に比べ高い。それはバッテリーの価格がまだまだ高額だからだ。量販車だからといって販売価格を安くするために、小さいバッテリーを搭載すると、走行距離が短くなり、売り物にならない。
基本EVは高級車路線でないと利益を確保できないのだ。しかし、実はガソリン車も同じこと。フルラインアップメーカーは、高級車で儲けているのであって、量販車ではほとんど儲かっていないのだ。
テスラが誕生した時、てっきりEV界のフェラーリになるのかと思ったのだが、量販車であるモデル3を投入した時に、おや?イーロン・マスクは量販車メーカーになるつもりだったのか、と意外に思ったものだ。
その後、テスラはギガファクトリーを上海に作り中国市場に参入、独ベルリンにもギガファクトリーを作った。
そしてさらに今、モデル3よりもさらに廉価なモデル2(仮称)を開発しているとの報道が相次いでいる。本体価格を23,000ドル(約350万円)程度にすることを目標においていると伝えられている。モデル3より100万円以上も価格を抑えるわけで、容易なことではない。
仮にモデル2の原価を下げることができたとしても、モデル3より利益率があがることはまず、ない。
BYDのミドルサイズSUV「BYD ATTO 3」は、本体価格450万円だ。ATTO3より小さい「BYD ドルフィン」ですら、本体価格は363万円〜407万円である。
それより安く売ろうとしたら、利幅は当然少なくなる。利益を確保するためには、①原価をとことん削るか、②販売台数を増やすか、しかない。どちらもハードルが高い。
①だが、テスラは新型バッテリーを開発中だという。レアメタルを使わないでコストを下げるようだが、劇的に値段が下がるか疑問である。②は、価格次第だろう。確かに350万円で売り出せばそれなりのインパクトはあるだろうが、BYDも対抗措置として値下げしてくるだろうから、値引き競争に陥り、ただでさえ薄い利幅がさらに薄くなる。下手をしたら赤字になりかねない。
特に中国市場ではEVとPHVが半々で売れているという状況だ。BYDは、小型PHVセダン「秦PLUS DM-i 冠軍版」の最廉価グレード希望価格が9万9800元(約194万7000円)に設定、PHVで初めて200万円を切り、爆発的人気を呼んでいる。
そうした中、きょう19日にテスラがスポーツタイプSUV「モデルY」の価格を上げるとのニュースが流れてきた。やはり高額車で利益を確保しに来た、ということだろう。
もろもろ考えると、テスラにとって、モデル2を投入するメリットがますます分からなくなる。あのGMとホンダですら、廉価版EVの共同開発を去年断念したではないか。それでなくてもEVに逆風が吹いている今、敢えて利益率の低いモデルを投入する意味があるのか。サイバートラックをしっかり売り、かつ、既存のモデルY、モデル3の利益率を上げることが先決のような気がする。
そしてEV最大の市場中国での販売戦略をどうするか考える時期に来ているのではないか。PHVを持たないテスラは、EV一本足打法でいいのか?PHVを自前で開発するか、あるいは他の企業を買収するかしかない。中国市場におけるモデルラインアップをどうするか、喫緊の課題だ。
以上、市場環境とさまざまな要因から本稿では、テスラのモデル2投入は「無謀」だろう、と結論付けた。
もっとも、天才経営者、イーロン・マスクのこと。そんなことは百も承知で、常人には考えもつかない戦略を打ってくるに違いない。その時、またリポートする。
トップ写真:中国・武漢市ショッピングモールで展示されているテスラサイバートラック。2024年2月27日。 出典:Photo by Wang HE/Getty Images
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。
