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.国際  投稿日:2019/6/23

ミャンマーの中国人強制退去


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・ミャンマー不法滞在中国人が強制退去。

・中国資本の違法バナナ農園、深刻な環境破壊も。

・中国の一帯一路政策による経済援助で現地は異を唱えずらい。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46413でお読みください。】

 

ミャンマー北部カチン州のワインモー郡当局は5月から6月にかけて、同郡にある無許可の違法バナナ農園などで不法滞在して労働に従事していた中国人23人などを検挙、罰金を科すとともに中国に強制送還する措置をとったことが明らかになった。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が6月13日に伝えたもので、ミャンマーなどで急増している中国人による不法労働の実態が浮き彫りになった。

報道などによると、ワインモー郡移民当局が5月26日、カチン州のサドン検問所で中国人11人を取り調べたところ、10人が不法滞在であることが判明、1人につき罰金として50万チャット(約330ドル)を徴収し、強制退去処分として中国側の当局者に引き渡したという。

この10人は近くの中国資本のバナナ農園で労働者として働いていたが、農園そのものも許可受けていない無許可違法農園であることがわかり、郡の関係当局が実態調査を始めた。

別のバナナ農園で働いていた中国人9人は他人所有の土地などに侵入して不許可で樹木を伐採したり、勝手に開発したりするなどしていたためミャンマーの森林法違反で摘発され、やはり同額の罰金を支払わされた。この9人は今後森林法違反の司法手続きがあるため拘置施設に現在も拘束されているという。

また6月3日にはバイクの交通事故に関連して取り調べを受けていた中国人1人が、不法滞在であることが判明し、同額の罰金を科して強制退去処分にした。

6月6日に不法滞在で逮捕された中国人3人も同額罰金の支払いが科され、強制送還に向けた手続き中で、近くミャンマーから追放されて中国移民当局者に引き渡される予定としている。

 

■ 12年前から違法バナナ農園による乱開発

カチン州でこうした不法滞在の中国人が相次いで摘発、強制送還処分を受ける背景には同州の州都ミッチーナ近くを流れるイラワジ川沿いに点在する空き地や休耕地に続々とバナナ農園ができているという背景があると地元NGOは指摘する。

カチン州のNGO組織「土地と環境保護のネットワーク」によると中国資本のバナナ農園は近隣のミャンマーやタイでは原則禁止されている。

このため約12年前からミッチーナ郡やバモー郡、ワインモー郡など中国と国境を接するカチン州に続々とバナナ農園が進出、現在では合計の広さは10エーカーにも達しているという。

▲写真 ミャンマー・カチン州の風景 出典:Pexels;Kyaw Naing

バナナ農園の多くが中国資本で、地元住民とともに中国人労働者が農園労働者として働いているものの、その大多数が労働許可を取得していない不法滞在の中国人という。さらに郡当局によると、中国資本のバナナ農園はそのほとんどが無許可経営で周辺住民との間でいろいろな問題を起こしていると指摘する。

ミャンマー農民が所有する空き地や休耕地や農地に無許可で侵入しては勝手にバナナの樹を植えて農園にしてしまうという無茶な手法や森林や林をこれも無許可で伐採して開発する手口は農民とのトラブルだけでなく森林の動植物の生態系を乱し、深刻な環境破壊を引き起こしていると地元NGOは指摘する。

 

■ 対策にようやく本腰の地元当局

こうした事態に地元関係郡当局者たちは、カチン州政府に対して早急な対策を講じるよう要求している。

自然環境や周辺住民、農民の生活への打撃や地元労働市場への影響などの実態調査をするための州政府による対策委員会を立ち上げて、中国人労働者と同時に中国資本の違法バナナ農園に対する監督指導、そして法に基づく処分などを検討するよう提言しているという。

東南アジアではミャンマーだけでなく、ラオスやカンボジアなどで中国資本による開発とそれに伴う中国人労働者の流入が地元企業や周辺住民との間で軋轢を起こすケースが近年目立っている。

ホテル、カジノ、工場、農園などはいずれも中国資本で建設、運営され、従業員や客も中国人が主流というケースが多く、地元への利益還元や周辺住民の雇用機会拡大にもつながらないことも問題とされている。

さらに中国資本の大半のケースが不法建設や無許可営業な上に中国人労働者は不法入国し労働許可のないまま働く不法滞在が大半であることが問題をさらに複雑にしている実態がある。

カンボジアでは中国人観光客や労働者による無免許運転で人身事故が連日発生し、離島の観光地ではホテル兼カジノから汚水が海に垂れ流しという事態も報告されている。

こうした反面、当事国の政府は中国の習近平国家主席が進める一帯一路」政策による多額の経済援助、資本投下の前に表立って異を唱えることが難しいという現実があり、苦しい立場に追い込まれているのが実態といえる。

トップ写真:バナナ農園(イメージ)出典:Pexels;Arminas Raudys


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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