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.国際  投稿日:2019/7/15

米で急増、学校給食費未払い


ファイゲンバーム 裕香

「裕香のFrom California」

【まとめ】

・アメリカでも給食費未払いが社会的な問題になっている。

・新制度が作られるも、様々な面で不満や問題が発生している。

・複雑な社会経済的状況にも対応できる改革が求められる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depth のサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46887でお読みください。】

 

数年前から全米で社会問題にもなっている、学校給食費の未払い問題。今、アメリカでは、給食費の未納額が急上昇している。アメリカの学校栄養協会によると、2016-2017年度の年次で、アメリカ公立学校の4分の3が給食費の支払いが滞っている生徒を抱えていることが分かった。

家庭の事情で、給食費を払えない、お弁当を学校に持ってこられない子どもがいて、一人だけ昼食を食べられなかったり、親に給食費の支払いを求めるシールを、子どもの体に貼ったりする問題が起きているのだ。ミネソタ州のある高校では、今年、昼食代の未払いを抱えている生徒を卒業式に出席できないことにした。こうした行為は「food shaming(フード・シェイミング)」と呼ばれ、多くの批判が寄せられている。今年4月、ニューハンプシャー州の学校のカフェテリアの従業員が、給食費を払っていない子どもに昼食を食べさせ、その翌日に支払うことを許可したことで、解雇されるという事態も起きた。

▲写真 給食牛乳 出典:Rick Brady/SNA

アメリカのメイン州では、このfood shamingの問題に対処するために、公立学校の子どもたちが給食費のことで、咎められることを禁止する法律ができ、新年度から実施されることになった。これによって、給食費を払えなかった学生を罰したり、非難したりすることはできなくなる。メイン州の統合教育学区RSU14の学校栄養担当ディレクターのJeanne Reillyは、「現在の私たちの給食費の借金額は、20,000ドルになった。これは、過去2年間の借金が積み重なったものだ」と話す。(Maine’s Leading Local News より)。

メイン州の学区のいくつかでは、給食費が払えないなら、昼食を食べないか、もしくは簡単な代替となる冷たいランチをもらうことが決められている。この冷たいランチは、昼食費を支払うことができない学生を識別し、その冷たいランチセットによって恥ずかしい思いをする子どもが多くいる

新年度から法律が施行されることで、メイン州の公立学校では、給食費が支払われたかどうかに関わらず、子どもの希望があれば、給食費を払っている子どもと同じ内容の給食を食べさせることが義務付けられる。この法律に関しては、メイン州の親たちの間で、賛否が分かれているMaine’s Leading Local Newsのweb上で、Juliaさんは「お金を持っている家庭の子どもさえもが、意図的に給食費を払わないで、ランチを手に入れることになるし、この法律は意味をなさない」と強く批判している。その一方で、この問題に関してfacebook上の母親グループの間では、賛成という意見もあり、Ameliaさんは「Food shamingは子どもたちの心を傷つけるし、それをやめるためには、この法律は必要だったわ」と話す。

▲写真 ランチを待つ子供達 出典:Rick Brady/SNA

メイン州の学校栄養協会は、法律への反対を表明しており、学校栄養担当ディレクターのReillyは、「膨れ上がる負債を、最終的に誰が払うのか」と憤慨している(Maine’s Leading Local Newsより)。同州議員で、法案に反対を投じたHeidi Sampson 氏も「子どもを甘やかせ過ぎだ。これから先、彼らの人生に何か困難が生じたら、どう対処するのか」と言う(The Western Journalより)。コロラド州のデンバーでも2017年、同様の法律が成立した時、親たちは給食費の支払いを怠り、給食費の負債額は1年で13,000ドルから35万ドル以上に急増したのだ。

ロードアイランド州のWarwick公立学校区は、昼食費を払っていない子どもには、未払い額が支払われるまで、温かい給食の代わりにひまわりの種のバターとジェリーのサンドイッチのみが出されることを今年5月に発表した。この決断は、アメリカの多くのメディアに取り上げられ、「Lunch shaming (ランチによる侮辱)」として、多くの批判が寄せられた。

このニュースを知り、心を痛めたギリシャヨーグルトの人気企業Chobaniの最高経営責任者Hamdi Ulukayaが昼食費の負債の一部を支払うことを決め、この寄付は特に低所得の家庭で、昼食費の支払いが困難な家庭の子どもの負債に充てられることになった。その後も批判が相次いだことから、Warwick公立学校区の委員会では、慎重に内容を再検討し、生徒は給食を自由に選ぶことができると、方針を撤回した。

▲写真 サンドウィッチを食べる男の子(イメージ)出典:Rick Brady/SNA

アメリカでは、給食費の支払いが困難な家庭は、事前に申請して条件が合えば、無料、もしくは一部減額などの対策を講じているが、住んでいる地域の生活費の高さなど、複雑な社会経済的状況に対応できていないケースも多い。子どもたちが安心して給食を食べられることを願うし、膨れ上がる給食費問題に対し、早急な制度改革が求められている。

トップ写真:小学校での給食の風景 出典:Rick Brady/SNA


この記事を書いた人
ファイゲンバーム 裕香ジャーナリスト

1999~2004:株式会社テレビ西日本 (福岡)にて、アナウンサーとして勤務。

2004~2006:ウガンダ共和国 NGO Ashinaga Rainbow Houseにてケアテイカーとして従事。

2006~2007:東京放送株式会社 24 時間ニュースチャンネル NEWS BIRD 契約キャスター 。

2007 :NPO 法人MUKWANOを設立。

2009:イギリス ブラッドフォード大学 アフリカの平和と紛争学修士号取得

東京大学大学院 総合文化研究科 地域文化学科(国際貢献)修士号取得

 

現在、カリフォルニア在住。バイリンガルMCプロフェッショナル所属

ファイゲンバーム 裕香

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