中国人狩り、フランスで頻発
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・仏「中国人狩り」と称したギャングの「通過儀礼」でアジア人が暴行被害。
・アジア人への暴行は昔から横行。中国系住民が「金持ちだ」という誤解も。
・仏での暴行には自衛を心がけ、被害は警察に届けるべきである。
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今年に入り、フランスのパリ及びパリ近郊では、アジア人を狙った若者による強盗が目的の暴行事件が頻発している。地元自治体のデータでは50件以上起こっており、しかもその被害者の80%は女性だ。
強盗を目的とした暴行がどのようなものかは、7月12日、パリ近郊のヴァル=ド=マルヌ県ヴィトリー=シュル=セーヌ市で起きた事件の動画を見てもらえばわかるだろう。
▲動画 犯行時の様子が写された防犯カメラの映像(youtubeより)
この事件は、夜10時を少し過ぎたころ、自宅のあるマンションのロビーで起こった。27歳のアジア人女性が帰宅し、建物内のロビーに入ったところ、肩にかけていたバックを狙った男に背後から襲われたのだ。本能的にバックを守ろうとした女性を、男は引っ張り、地面に投げつけ、数々の暴行を加えた末、最終的にバックを持ち去ることに成功した。しかし、犯行時にドアノブに残した指紋により、2日後に、警察により特定され捕まえることが出来たのだ。逮捕された容疑者は17歳だったという。
フランスの新聞ル・パリジャンによると襲われた女性は、腕を骨折したという。しかしそれよりも深刻なのは、この事件がトラウマとなっていることだ。報復を恐れて一人で外出もためらわれる状態だが続いている。
実は、7月の始めにも、ヴィトリー=シュル=セーヌ市とショアジー=ル=ロア市の境で、同様な事件が起こり、40代のアジア系女性が襲われたばかりであった。女性も腕を骨折し全治2ケ月の重症を負った。ル・パリジャンによると、この暴力は大抵若い成人、あるいは10代の若者によって行われており、彼らにとって「中国人狩り」と呼ばれるこの行為は、ギャングの一人として認めてもらうための「通過儀礼」だと言うのだ。彼らは度胸試しのように、中国人を襲い金品を奪っているのである。
しかも、彼らが呼ぶ中国人は、決して私たちが思っている中国という国から来た人々ではない。彼らにとって中国とは、アジア全般を指す言葉である。ようするに、「中国人狩り」と言っても、狙われるのは中国人だけではなく、アジア人全般を対象にしているのである。
・アジア人に対する暴行
アジア人に対する攻撃は、今年始まった話ではない。少なからずも、昔からアジア人を対象とした犯罪は発生しており、暴力に対する反対デモも2011年から行われてきた。しかし、この3,4年ほど前から、アジア人の住民が被害に遭う事件が急激に増加しているのだ。
2016年には被害者が死亡するという大きな悲劇も発生した。パリ近郊セーヌ=サン=ドニ県オーベルビリエ市に住む住民で裁縫の仕事をする張朝林さんは、友人と道で歩いているときに、突然3人の強盗に襲われたのだ。そして重症を負い回復することなく、5日後にこの世を去ることになった。
この事件は、中国コミュニティに大きなショックを与えたことは言うまでもない。中国系住民はパリ中心部のレピュブリック広場で集会を行い、中国系住民を狙った人種差別や襲撃事件を抗議した。参加者は集会の後、「すべての人に安全を」と書かれた白いTシャツを着用して、同じスローガンを記されている横断幕を揚げてデモ進行を行った。主催側によると、約5万人が集会とデモ進行に参加したと言う。
▲写真 2016年9月4日、レピュブリック広場での中国人のデモンストレーション 出典:Wikimedia Commons; Chris93
このようにデモを行うなど、地道にアジア人の身の安全を訴えてきているものの、残念ながら襲撃は現在も続いている。アジア人が特別に犯罪の標的になる理由は、活発な商業活動が目立つことによって、中国系住民が「金持ちだ」との誤解からきているとも言われている。
フランス雑誌バラー・アクトゥエルでは、フランスでアジア人が襲われることに対して、現地の生々しい声を紹介すると共に、具体的な考察がなされている。
“このアジア人種差別は、あらゆる形態の人種差別と同様に、まず第一に偏見を持っていることもあげられますが、地域に定着しているコミュニティに対する恨みや嫉妬でもあります。何も求めない人たちにとっては、「アジア人」は確かに「勤勉」であり、それゆえ必然的に「豊か」であり、同時に過度に控え目で復讐心が強いわけではないので、あらゆる攻撃者にとって理想的なターゲットなのです。”
・今年に入り頻発する金銭目的の犯罪
5月には、短期間で18人が襲われたことも記憶に新しい。
この多発した襲撃では、5月19日に若者4人が逮捕された。加害者は17歳から19歳の若者だった。彼らは、ヴィトリー=シュル=セーヌ市と、イヴリー=シュル=セーヌ市と、そしてパリの13区で、一日最大4回の襲撃をしたと言う。加害者のうち二人は、16人の女性を含む、18人を襲撃したと認めた。彼らはアジア人はお金を持っていると思ったので、特に女性をターゲットにしていたと言う。
襲撃の方法は、バイクやスクーターなどでアジア人女性に近づき、ハンドバックや携帯電話をはぎ取るやり方だ。しかしながら、観光客などを狙った犯罪と違い、一般の労働者では持ち歩く金額も低く、どのケースも被害額が数10ユーロを超えることはなかったというお粗末さは気に留めてないようだ。
5月の時点で、今年に入ってからの犠牲者が30人ほどいたとみられるが、4人の逮捕後も、襲撃は終息することなく継続して起きた。
同じ集団の仕業とは言いがたいまでも、パリ内では13区を中心とした地域だけではなく、19区でも17区でも被害は発生している。中国人だけに限らず、カンボジア人女性、日本人女性と言うアジア人全般が暴行やひったくりにあっているのだ。そして今後も起きる可能性はもちろんある。パリやパリ近郊では、現在、アジア人は特に狙われやすい状態であることは自覚しておくことが必要だろう。
▲写真 パリを歩く中国人女性(イメージ)出典:Flickr; zoetnet
しかし、こういった不意にやってくる犯罪に巻き込まれないようにどう避けるかはとても難しい。それでも自衛のために、少なくとも夜は出歩かない、危なそうな地域にはいかない、取られやすそうなバックを持たない、なるべく一人で行動しないことは心がけるべきだ。
そして、もし、被害にあってしまっても、そこで泣き寝入りせず、ぜひ警察に届けるべきだと、安全協会の担当者は言う。現在、被害にあっても言葉の問題もあるせいか、届け出すアジア人は全体の3分の2だ。しかし警察に被害届を出したおかげで、7月12日の犯人は特定でき逮捕できたのだ。何も行動を起こさなければ、何も解決できないままで終わっていただろう。今後、またこのような悲劇を繰り返していかないためにも、行動することが大切なのだ。
トップ写真:エッフェル塔 出典:Max pixel
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。