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.国際  投稿日:2019/8/16

対韓輸出優遇見直しの理由(上)中露朝の覇権抑制


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

【まとめ】

・対韓輸出優遇見直しは日本による「報復」との韓国の主張。

・韓国の狙いは条約無効という歴史の修正と地政学的な現状変更。

・日本には歴史的な地政学の観点で世界を納得させる必要がある。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47435でお読みください。】

 

日本政府が韓国に対して与えていた安全保障上の輸出優遇措置を7月から8月にかけて見直したことによって、韓国では日本製品不買やデモ行動など反日感情の嵐が吹き荒れている。

韓国経済の屋台骨である半導体や有機ELパネルの製造などに使うフッ化ポリイミド、レジスト(感光材)、高純化フッ化水素の3品目の軍事転用が可能な戦略物資から成る「第1弾」のうち 、一部には輸出許可が出されたことで、「韓国経済が壊滅的な打撃を受ける」「日本の措置で、韓国製品を使う世界各国の企業の供給網が断たれる」との誇張された韓国の主張は力を失った

しかし、輸出管理上の優遇措置であるホワイト国(輸出手続き簡素化対象国、正式には「グループA」)扱いから韓国を除外する「第2弾」の政令は予定通り8月28日から施行される。

こうしたなか、文在寅大統領就任以来の数々の失政から韓国経済の成長率が低下、雇用も悪化する中で同国は株安やウォン安に見舞われ、22年前の1997年の韓国金融危機で国際通貨基金(IMF)による容赦ない融資条件を受け入れざるを得なかった「IMF通貨危機」の再来の可能性が高まっている。

自らの失政の結果を日本に転嫁し、来年の総選挙で勝利するため、文政権は国内外で攻撃的な宣伝戦を展開している。曰く、「韓国最高裁判所が日本企業に命じた徴用工関連の賠償の執行への報復として、日本は韓国に対する輸出規制を仕掛けた」という歴史にからめた主張である。

そうしたロジックは、米国をはじめとする国際世論で支持を得ているのが実情だ。

 

■ 本質は貿易ではなく、歴史問題

非常に重要なのは、韓国の主張が単なる文政権の延命や経済危機の回避のためではないことだ。より深く大きなレベルで国際社会に対して、日本に対する韓国や北朝鮮の永遠の被害者性と請求権を認めさせるという、南北朝鮮の「半島統一共同プロジェクト」であるからだ。

事実、評論家の池田信夫氏が指摘するように、徴用工問題は表面的な未払い賃金に関する日韓の争いではない。それは、南北朝鮮共通の以下のような主張が本質である。

「1965年に締結された日韓基本条約の付随条約である日韓請求権協定は、日本と韓国の力の差がある中で結ばれた不公平条約であり無効だ」

「そもそも韓国が日本の植民地支配を受ける根拠となった1910年の日韓併合条約が国際法違反で無効であり、その不法行為に対する請求権は永遠に消えない」

さらには、「朝鮮人民全体の最高代表者」である金正恩朝鮮労働党委員長の下で統一された朝鮮が、背後に構える中国とロシアの利益のために反日国家として活動し、米国をはじめとする西側諸国の利権を脅かしてゆく、国際秩序転覆の一環として、大きな意味を持っている。

日本の対韓輸出規制見直しに対抗する国際宣伝戦で韓国は、「日韓基本条約と日韓併合条約の無効」という歴史の修正と、「中露朝韓による対日・対米包囲網構築で地政学的な現状変更」を狙っているのであり、日本側は欧米の安全保障上の脅威だけではなく、歴史的な地政学の観点で世界を納得させなければならないのである。

だが、現状では韓国の主張に沿った報道や論評が世界では主流を占めている。日本は、世界を説き伏せるために何を訴えればよいのだろうか。

日本が宣伝戦に勝つためには、「日米韓同盟」や「西側の一員としての韓国」という、欧米人の間で常識であった固定概念を突き崩し、さらに「韓国の歴史修正主義が東アジアの地政学的バランスを崩し、中露朝を有利にする一方で米国や日本、ひいては他のアジア諸国や欧州などの利権や利益を損ねるものである」ことを明らかにする必要がある。

なぜなら、韓国が中露韓に寝返る前に米国や欧州から得た「西側陣営の一員」という信頼と地位を、韓国が悪用しているからである。

さらに、韓国が日本に対して仕掛けている歴史戦の論理が、植民地支配で脛に傷を持つ欧米白人国家に対する元植民地や国内の有色人種からの賠償請求につながる「パンドラの箱」であることを理解させることが重要だ。

加えて、米国において韓国系米国人が先住民や黒人などの権益を損ねる「白人支配の先兵」の有力な勢力であり、「植民地支配の被害者としての正統性」という主張が正確ではないことも指摘すべきだ。

韓国の対日歴史戦での勝利が、白人にも有色人種にも等しく損害や被害をもたらす結果になることを警告してゆくことが必要だ。

 

■ 韓国は西側の安保上の脅威

東アジアからはるかに遠い米国では、今の朝鮮半島で何が起こっているか、中国のサラミスライス的な覇権的膨張の中で、どのように地政学的な力学が変化しているか、それによっていかに米国の利益が脅かされているかを正確に理解している人が少ない

そのため、中国の覇権拡張の文脈で韓国の反日を理解させることが先決である。韓国の反日は必然的に、同じく反日を国是とする北朝鮮と韓国の一体化と統一をもたらし、それは習近平中国国家主席が追求して止まない西太平洋地域における中国の排他的かつ絶対的な支配、すなわち一帯一路」「中国夢」実現の決定的な一歩となることを根気よく説明する必要がある。それは平和ではなく、暴虐な支配と戦争を東アジアや米国にもたらす。韓国はそのお先棒を担いでいるわけだ。

▲写真 一帯一路フォーラム 出典:ロシア大統領府

文大統領は日本の対韓輸出管理の見直しについて、「結局は日本自身を含めたすべての人が犠牲者になる勝者のないゲーム」と強調した。しかし韓国は、日本の輸出管理の見直しによる世界のサプライチェーンへの「被害」どころではない、地政学的な「自由と平和の終わり」「資本主義の否定」「国際秩序の崩壊」を世界にもたらす

つまり、「韓国が日本の被害者」であるとして肩入れするという、欧米人に一般的な感情を中国や韓国が悪用し、欧米の知らぬ間に欧米の価値観や権益が侵されていることを、知らせなければならない。

また、徴用工問題や慰安婦問題は、米国が仲介した1965年の日韓基本条約と、2015年の日韓慰安婦合意を一方的に破るもので、日米間の同盟で東アジアの平和と安定を確保するという、米国の利益を直接的に害するものであることも説明が必要だ。

サムスンや現代自動車の製品を日常で使う欧米人には、韓国は西側の資本主義国と映り、まさか中国や北朝鮮の手先になったなどとは想像もできない。

だが実際に韓国は、民主化以降の歴代政権が反日政策を強める中、必然的に北朝鮮や中国と一体化して、中国の覇権的台頭の文脈において東アジアの平和を脅かす存在になったのである。このポイントは強調しすぎることはない。

次回(最終回)は、いかに韓国の主張が欧米の白人国家の賠償義務へとつながる危険なものであるか、さらに韓国人が他の有色人種に加害している事実を指摘して、韓国の宣伝戦を無力化する方法を示す。

に続く。全2回)

トップ写真:文大統領 出典:ロシア大統領府


この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト

京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。

岩田太郎

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