無料会員募集中
.国際  投稿日:2019/8/7

北朝鮮利権に蠢くトランプ婿


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・北の脅威をめぐりトランプ氏と対立していたコーツ長官が辞任。

・トランプ氏の金委員長擁護の裏に北朝鮮の利権か?

・米議会はトランプリスクに備え、駐韓米軍の現状維持義務付け。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47227でお読みください。】

 

トランプ大統領は8月2日、北朝鮮による短距離弾道ミサイルと新型ロケット砲の発射が相次いでいることについて「国連の決議違反かもしれないが、金正恩委員長は私の信頼を損ね、失望させたいと思っていない」とツイッターに投稿した

英・仏・独などのヨーロッパ主要国が北朝鮮のミサイル発射を問題視し、8月1日には国連安保理で非公開会合(米国は不参加)を持ち非難する共同声明を発表した。こうした流れを見たトランプ大統領は、さすがにまずいと思ったのか、疑問符付きではあるがやっと「国連決議違反」を口にした。

しかし昨年6月のシンガポール米朝首脳会談に言及し「我々が握手した際に短距離ミサイルに関する議論はなかった」と改めて強調して金正恩をかばった。国連安保理決議に違反しても「自分との約束」さえ守ればよいとの「自己中心思考」は何も変わっていなかった。

▲写真 DMZで握手を交わす金委員長とトランプ大統領 出典:Flickr; The White House

 

■ 金正恩との取引のため?米情報機関トップも交代

この発言に先立つ7月28日、トランプ米大統領は、中央情報局(CIA)などの情報機関を統括するダン・コーツ米国家情報長官が8月15日付で辞任するとツイッターで発表した。この人事も金正恩との妥協をしやすくするための人事ではないかと言われている。

コーツ長官は、北朝鮮やロシアに融和的な姿勢のトランプとの意見対立が続き、それが表面化することによって更迭説が取り沙汰されていた人物だ。

コーツ長官は、ハノイ首脳会談を前にした今年の1月29日、他の情報機関長官と共に上院情報特別委員会の公聴会に出席し、情報をまとめて「北朝鮮が核兵器を完全に放棄する可能性は低い」との悲観的な見方を証言した。

コーツ長官は2018年2月の上院情報委員会の公聴会でも、北朝鮮が今後も核・ミサイル関連の実験を続ける可能性は高いとの見方を示し、北朝鮮は米国の「存亡に関わる」脅威になり得ると警告していた。彼は2018年6月のシンガポール会談前にも、北朝鮮の核開発がもたらす脅威に対し、米国が行動を取ることができる時間は残りわずかになりつつあり、決断の時が近づいているとの見解を示していた。

▲写真 ダン・コーツ米国家情報長官 出典:Flickr;School of Media and Public Affairs at GWU

 

■ クシュナーが繋ぐ?トランプと金正恩

2018年6月の米朝シンガポール首脳会談直後、トランプ大統領と金正恩の関係について、ニューヨークタイムズは、「北朝鮮によるクシュナーに対する序曲」North Korea’s Overture to Jared Kushnerとの署名入り記事を掲載(2018・6・17)した。

この記事では、「北朝鮮の最高位級要人が、シンガポールに駐在する米国人鉱山実業家ガブリエル・シュルツ氏にクシュナー氏との水面下のチャンネルを頼み、(このような関係が)米朝首脳会談の成功を助けた」と報道した。シュルツ氏は、「SGIフロンティア・キャピタル」を経営し、エチオピアやモンゴルなどで鉱山開発事業を行い、これまで何度も北朝鮮を訪れ、北朝鮮と開発事業を議論した人物だという。

韓国の東亜日報も2018年10月17日付で「対北朝鮮投資、水面下にトランプ氏娘婿のクシュナー氏?」との見出しで「農業および鉱物関連のグローバル企業の秘密訪朝には、トランプ米大統領の婿で核心勢力であるクシュナー大統領上級顧問がある種の役割を果たしたという観測が流れている。ある外交筋は16日、「非核化交渉がはかどるという前提のもと、トランプ氏がクシュナー氏に北朝鮮に対する投資計画を検討するよう指示したという話がワシントンの周囲から出ている」と伝えた。

金正恩を擁護し続けるトランプの「異常とも思われる」言動は、水面下でのこうした動きと関係しているのかもしれない。北朝鮮内部からは「トランプにはクシュナーを通じて “北朝鮮利権”を与えると約束してあるので、彼が一方的に交渉を中断することはない」との情報が漏れてきている。

 

■ トランプリスクに米議会が歯止め

米議会は金正恩をかばうトランプ政権に警戒心を強めてきた。「トランプリスク」に歯止めをかけるために「2020年国防授権法」では駐韓米軍の現状維持を義務付けた

また2018年12月31日に成立させた「アジア再保証イニシアティブ法」(ARIA: Asia Reassurance Initiative Act)210条では、北朝鮮に対して検証可能で後戻りできない完全な核廃棄を求め、「北朝鮮は、複数の国連安保理決議に違反して核・ミサイルを開発した。自国民及び日米韓を含む外国民に人権侵害を行なった。米国は引き続き最大限の圧力をかけつつ、北朝鮮の非核化を求める。目的は、核・ミサイル計画の完全、検証可能かつ不可逆的な破棄である。法律施工後90日以内に、180日毎、5年間、国務省は議会に対して北朝鮮の状況を報告する」とトランプ政権に対する統制を強めている。

トップ写真:ジャレッド・クシュナー上級顧問 出典:Flickr; Chairman of the Joint Chiefs of Staff


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."