朝鮮半島情勢ー金正恩の真の狙いとはー
.国際  投稿日:2019/8/16

日韓関係はなぜこじれるのか


嶌信彦 (ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・日本の輸出規制は徴用工問題の対抗措置。

・規制により不買運動など対立はエスカレート。

・民間の日韓交流にも影響が出かねない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47456でお読み下さい。】

 

日本は7月に入り韓国向け半導体部品などの輸出規制に踏み切り8月2日に閣議決定した。西村康稔官房副長官は「今回の措置は安全保障を目的とした輸出管理制度の適切な運営のための必要な見直しだ」と延べ、国際ルールに則った輸出管理の適正化だと強調した。

しかし、日本の狙いは元徴用工問題に関し韓国最高裁が昨年10月末、日本製鉄(当時は新日鉄住金)に賠償命令、さらに11月29日に三菱重工業にも同じく賠償命令を命じてきたことに対する対抗措置とみられている。実は政府は、昨年10月の韓国最高裁の判決直後から半導体の輸出制限や安全保障上の友好国である「ホワイト国」から韓国を除外する検討を進めていたのである。

 

■ 徴用工問題の背景

徴用工問題とは、韓国が日本の植民地だった第二次大戦前に朝鮮人を日本国内に連行し、鉱山などで徴用工として働かせていたことだ。大戦後になって元徴用工らの賠償問題は、1965年の日韓国交正常化の際に結んだ日韓請求権協定で日本が巨額の経済協力を約束。徴用工への被害の補償なども盛り込まれ、「今後対日請求についてはいかなる主張もなし得ない」と明記され決着がついたとみられていた。

 

■ 韓国最高裁が賠償の判決

ところが昨年秋、韓国の最高裁が日本企業の反人道的不法行為による強制労働(徴用工)は日韓請求権協定によって縛られないと判断し、日本企業に新たな賠償を求めたのである。これに対し日本政府は「両国が合意して決めた日韓の法的基盤を根本から覆すものだ」と反発。対韓輸出規制の強化やホワイト国からはずすなどの挙に出た。また、韓国側も対抗して日本をホワイト国から除外するなど両国の対立はエスカレートする一方の状況となっている。

▲写真 安倍首相 出典:首相官邸Twitter

 

■ 国内法重視か、国際法尊重か

韓国の文在寅大統領は「三権分立なので政府は司法判断に介入できない」とし、日本が判決を尊重するよう要求している。一方の日本は「国際法が国内司法を拘束するのは常識ではないか」と、かつて合意した国際法に従うよう求めている。話合いは平行線をたどったままとなっており、日本政府の取った対韓輸出管理の厳格化に対し、韓国では日本製品の不買運動が広がっている。

7月初め日本の輸出管理強化が始まるとインターネット上に「日本品の不買運動に参加しよう」という呼びかけが行なわれ、韓国のスーパー、中小流通業者協会など27団体が運動への参加を表明して日本製品のボイコットが始まった。さらに日本の商品名をあげ国産品への買い替えを推進するリストなどもネット上に登場し、韓国の民間調査会社が7月25日に発表した世論調査では62.8の人が「日本製品の不買運動に参加している」と回答している。

 

■ 日本製品不買運動に進展

日本製品のターゲットとなっているのは、消費者に身近な商品でビール、ラーメン、化粧品など。売上はそれぞれ48%から20%減少しており、日本への旅行も7月8日以降の新規予約者数は前年同期比で50%以上減少、ユニクロの売上も3割減ったと報じられている。また、韓国の原告団は、韓国にある日本企業の資産を差し押さえ、現金化する手続きも進めている。

▲写真 ソウルの街並み 出典:pxhere

 

■ 日韓民間交流は年間1000万人

今の国連体制が生まれる前の日本の植民地支配の違法性を問いただせるのかどうかという国際法の問題のほか、現代の価値観が人権を重視する方向に向かっている時代だけに、日韓の食い違いを調整することは至難の問題でもある。だが一方で、日韓が国交正常化した1965年の日韓の往来者は1万人だったが、昨年は1000万人にも達している。民間交流は激増しているのである。特に年配層には反日感情が強く残っているといわれるが、若年層の間では日韓ともに「政治的な対立を経済や日韓交流に持ち込むべきでない」という意見が多い。両政府は今のところ積極的に和解に動く気配をみせていないが、放置しておくと民間の日韓交流にも悪影響を及ぼしてこよう

日韓は歴史的にも衝突の多い国同士だった。それだけに政府首脳たちは腹を据えて友好に立ち向かわないと、ちょっとした衝突がのっぴきならない関係に陥ってしまうことに注意を払うべきだ。ここに北朝鮮が絡んでくると、事態はさらにややこしくなってこよう。何やら両国は歴史的怨念もあっていつも互いに突っ張りあっているようにもみえる。

トップ写真:文大統領 出典:韓国大統領府

 

【追記】2019年8月19日

本記事(初掲載日2019年8月16日)「■ 日韓民間交流は年間1000万人」の項に下記一文を加筆致しました

特に年配層には反日感情が強く残っているといわれるが、若年層の間では日韓ともに「政治的な対立を経済や日韓交流に持ち込むべきでない」という意見が多い。


この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト

 慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。

  現在は、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」、BS朝日「ザ・インタビュー」、BS-TBS「週刊報道 Biz Street」等レギュラー出演。

  2015年9月30日に新著ノンフクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させた、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。

嶌信彦

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