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.社会  投稿日:2019/8/22

予算1000万円の若者議会とは


出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)

「出町譲の現場発!ニッポン再興」

【まとめ】

・新城市は若者たちが予算の使い道を考える「若者議会」を設置。

・若者会議が提案した政策の政策は実現し、効果をあげている。

・若者議会OBが市議会議員、地域協議会・審議会の委員へ。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47549でお読みください。】

 

人口減少は「見えない有事」と言われる。それに対処するのは、危機感を抱くかどうか。その一点にかかっている。危機を認識し、すばやく動く。それがまちの未来を決める。愛知県新城(しんしろ)が「若者議会」を始めたのも危機感からだった。危機に目をつむり、楽観論を繰り返す市町村には未来がない。

新城市の若者議会は、よくある模擬議会とは、一線を画す。実際に予算を確保し、その使い道を決めている。つまり、若者の意見が目に見える形で実現する。

全国でも珍しいこの取り組みが始まったのは、2015年だ。きっかけは、元岩手県知事の増田寛也氏率いる民間団体「日本創生会議」のリポート、いわゆる増田リポートだった。新城市はこのリポートで、県内の市で唯一、消滅可能性都市に名前が挙がった。新城市は、人口約4万7000人で高齢化が進む。毎年500人の割合で人口が減少している。

新城市はこのリポートを受けて、危機感を抱く。消滅させないためには、どうすべきか。真剣に考えた。若者に住んでもらうのが大事なポイントだ。

穂積亮次市長「若者が活躍できるまちづくり」を公約としていたこともあり、若者議会の設置を決めた。若者の意見をまちづくりに取り入れることになった。

それでは、若者議会とは具体的にどんなものなのか。条例に基づき設置され、若者たちが予算の使い道を自ら考える。予算は、毎年1000万円ほど。あえて条例化したのは、市長が代わっても、継続するためだ。

▲写真 諮問 議長 山本彩生 出典:新城市役所

若者委員は公募で選ばれる。おおむね16歳から29歳で、市内在住、通勤、通学の20人。高校生、大学生、若い社会人がメンバーだ。任期は1年で、年に20回程度の会議を開く。非常勤特別職の公務員という立場で、1日当たり、3000円の報酬が得られる。

これまで、若者議会が市長に提案し、実際に実現した政策は数多い。例えば市内の図書館の改修だ。利用者が少なかった2階の展示場所を学生が勉強できるような多目的スペースに改修した。その結果、利用者が急増した。また、バスの利用者を増やして活性化につなげようと「バス攻略アドベンチャー」なるイベントを企画した。実際に運転席に座ることができたり、バスと綱引きを行うなど、バスを身近に感じさせ利用率の向上に取り組んだ。

▲写真 図書館リニューアル前 出典:新城市役所

▲写真 図書館リニューアル後 出典:新城市役所

若者議会は今年で5期目となる。高校1年生のある若者委員は「新城市の自然は、外の市や県に誇れる。この自然を広めるような事業をやりたい」と意欲的だ。その上で、自分の兄も参加し、図書館の改修にかかわったと指摘。「若者議会には新城市をよくする力があると思った」と話す。

兄弟で若者議会に参加するケースは少なくないようだ。また、若者議会のOBが新城市の市議会議員になった。さらに興味深いのは、新城市の若者議会に参加した若者が、市の地域協議会や他の市の審議会の委員になっていることだ。

この手の協議会や審議会と言えば、自治会の会長や市役所のOBらが常連だ。そんな中、若者が参加している様子は、想像するだけで面白い。

若者議会ができてから、若者は地域で一段と大きな存在となっている。1000万円の予算がつくことに当初否定的な意見もあったが、今では応援する声が多くなっている。

穂積亮次市長は「高度成長の時期に生きた我々と違って、今の若者は不安感を抱いている。今の日本は、若者を踏み台に上の世代が逃げ切ろうとしているようで、以前から忸怩(じくじ)たるものがあった」と語る。

考えてみれば、私含めた中高年が逃げ切った後、残されるのが若者たちだ。若者たちは将来の不安を抱える。少子高齢化で、年金、医療、介護といった社会保障の財源の先細りは確実だ。少しでも事態を改善するには、若者自身が政治に関心を持つことが大切だと思う。新城市では、若者議会が始まってから、高校生が市役所に立ち寄ることが増えたという。身近な地方自治こそ、若者に門戸を開くべきだと、私は考える。

トップ写真:「若者会議」の様子 出典:新城市役所


この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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