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.国際  投稿日:2019/9/24

北東アジア情勢は日米関係をどう変えるか その4 日米同盟の重み


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・トランプ大統領は同盟国に応分の負担を求めている。

・日米同盟以外の点では日米の関係は近年最も緊密。

・米国の対日同盟の片務性への不満は超党派で高まりつつある。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=48048でお読みください。】

 

米国は中国との対立を強めてきた。北朝鮮には非核化を交渉しながらも警戒を保つ。韓国とは同盟を維持しつつも不信をちらつかせる。米国の北東アジアへの現在の構えはこう特徴づけられるだろう。となると、米国が日本に頼る度合いを高めるのは自明である。

トランプ政権が6月に発表した「インド太平洋戦略」も日米同盟こそがこの地域全体の平和と安定の「礎石」だと明記していた。中国を「修正主義の挑戦者」と、北朝鮮を「無法国家」と断じたうえでの日本との絆の最重視の宣言だった。

トランプ大統領はツイッターで同盟諸国への辛辣な批判も表明する。その批判は「同大統領は対外関与を減らしたいのだ」という観測を生む。だが現実にはその批判は同盟の負担配分に対してであり、北東アジアへの関与は増大している。

同大統領が今年1月に署名した「アジア再保証イニシアティブ法」も北東アジアの平和と安定を防衛するため中国の軍事膨張や威嚇外交などを抑える関与と抑止の継続を米国政府の責務として誓約していた。

同時にトランプ政権は「強いアメリカ」政策の下、国防予算を記録的に増額し、主要部分を北東アジアの軍事力強化に向けている。今年の国防予算が約7000億ドル、年間の増額部分だけでも日本の防衛費総額の二倍近い。

▲写真 指揮変更式でのトランプ大統領 出典:NAVY LIVE

トランプ政権の実際の動向を読むには、このような政権としての具体的な法律や政策、予算措置をまずみることが欠かせないのだ。

この現状でのトランプ、安倍両政権下の日米関係は近年でも最も緊密だといえる。トランプ政権は尖閣諸島も含めて日本への防衛誓約を強調する。対立案件だった貿易問題も合意に達し、両国間の表面での摩擦要因はみな解消されたようにみえる。

米国の国政全体でも日米同盟の堅持は共和、民主両党に共通する対外政策の基盤のひとつである。米国一般でも日本への友好や親近の心情はきわめて強い。

しかし円滑に機能してきたようにみえる日米同盟に対して米側では実は年来の水面下での不満がある。だが当面は効果を発揮している枠組みだから、あえてその変更を日本側に求めることもないという自粛がこれまでの歴代政権の思考だった。だがその規範を破ったのがトランプ大統領だった。

「日米同盟では米国は日本が攻撃されれば、全力をあげて日本を支援するが、日本は米国が攻撃されてもなにもしないのは不公正だ」

同大統領はこんな簡略な表現で6月に複数回、日米同盟の片務性を批判した。日本側は官民ともにこの批判を軽視、あるいは無視する向きが多かった。だがこの対応は危険である。

▲写真 第53回自衛隊高級幹部会同に出席する安倍首相 出典:首相官邸Twitter

米国の対日同盟の片務性への不満はトランプ大統領に限らず、超党派であり、長い歴史もあるからだ。さらに有事や危機に際してのその片務性の露呈は米国民一般の対日同盟破棄の叫びを生みかねないのである。

日本は憲法9条の規定で集団的自衛権を普通には行使できない。自国領土の防衛を米国に委ねる一方、その米国が日本の至近距離で攻撃を受けても支援はできない。米国にとって全世界でも唯一の異端の同盟なのだ。同じアジア太平洋地区でも米国の韓国、フィリピン、オーストラリアなどとの二国間同盟はみな双務的である。

この3国とも米国が太平洋地域で他国から軍事攻撃を受けた場合、自国への攻撃に等しいとみなし、集団的自衛圏を発動して、米軍を支援し、ともに戦うことになっている。自国領土への攻撃でなければ、米国との共同行動をとれない日本とは決定的に異なるのだ。

日本は安倍政権の下、平和安保法を成立させ、有事に集団的自衛権を一部、行使できるようにした。だが実際の行使には厳しい条件がついており、双務的な一般の同盟関係とは違う

だから米側では日本に憲法を改正し、集団的自衛権を解禁して、同盟を普通にすることを求める声が多いのである。

(了。全4回。その1その2その3

 

編集部註:この記事は古森義久氏が自由民主党の機関紙「自由民主」に依頼されて、掲載された寄稿論文の転載です。同論文は「不透明さを増す北東アジア情勢と日米関係」というタイトルで4回の連載となっています。今回の転載はそのうちの第4回目の最終回、「日米同盟の重み」という題の記事です。

トップ写真:ジョナサン・グリナート少将(当時)訪日時 出典:Commander Naval Sea Systems Command


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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