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.国際  投稿日:2019/9/24

世界の潮流は国家主権主義へ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019#39」

2019年9月23-29日

【まとめ】

・外交・安保政策の常識が、日本にとって障害になりうる時代に突入。

・中東問題の最終的な問題解決は、大規模な軍事行動を覚悟すべき。

・トランプ氏はバイデン氏と息子の不正操作をウクライナへ促した。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見れないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=48064でお読みください。】

 

先週は老体に鞭打って、ソウル30時間、続いて米国スタンフォード大学48時間などという強行軍日程を入れてしまった。東京でじっとしてはいられない。そんな大きな動きが世界にあると感じたからだ。「いい歳をして!」とは思ったが、それなりの成果もあった。日本を取り巻く外交・安全保障の潮流の変化を自分なりに実感できたからだ。

しかし、今週の筆者の最大関心事はキヤノングローバル戦略研究所が主催する筆者の個人講演会の内容だ。年に一回の大きなイベントだが、古い話は使えない。毎回新作をやらなければいけない新米落語家のような気分。とても古典落語などやれるような雰囲気ではないからだ。

今年はキヤノングローバル戦略研究所の創立十周年、筆者自身も10年目となる。これまでは世界の様々な事象を時々の切り口で評価・分析してきたが、今年はちょっとスタイルを変え、具体的な政策提言をしてみるつもりだ。世の中の重点は一昔前の「自由民主・国際主義」から急速に「国家主権主義排外主義」へと移りつつある。

では日本は何をすべきなのか?今年はこれに切り込むことにした。といっても、革命的なことを言うつもりはない。結論は簡単だ。これまで我々が慣れ親しんできた外交・安保政策の常識がもはや常識ではなくなるばかりか、むしろ日本の生存にとって障害となる可能性があるということである。

具体的な提言内容は来週書こう。実は今も講演用のスライドを鋭意作成中。ほとんどが新作なので、未だ出来上がっていないのだ。今週は国連総会で各国首脳がニューヨークに集まる。以下は、そこでの注目点をまとめてみた。米中、米露、米韓、日米などなど、重要会談が目白押しだが、あまり成果は期待できないかもしれぬ。

▲写真 第73回国連総会でのトランプ大統領の演説 出典:Flickr; The White House

 

〇 アジア

NYでの米中首脳会談はあまり進展しないだろう。筆者が中国国家主席なら、来年の大統領選挙まで様子見で、大胆な譲歩など考えないからだ。米韓首脳会談は雰囲気が冷たかったと報じられているが、これも当然といえば当然。文在寅氏は国内での最側近のスキャンダルで忙しく、米韓首脳会談どころではないかもしれない。

 

〇 欧州・ロシア

最近英仏独が連携する機会は減ったが、今週ニューヨークで三国首脳は珍しく、サウジ石油施設攻撃につき、「イランが責任を負うのは明白だ。他に説得力のある説明はない」とする共同声明を発表したそうだ。当然だろう。では日本はどうするのだろうか。そろそろ腹を決める時期に来ているかもしれない。

 

〇 中東

先週は、サウジ軍関係者が石油施設攻撃で使われたドローンと巡航ミサイルがイラン製であることを公表したものの、対イラン非難は差し控える、という奇妙な状況が続いた。ボルトン国家安全保障担当補佐官解任ということは、トランプ政権が直ちに対イラン報復攻撃を行うことはないということだろう。

▲写真 ボルトン元国家安全保障担当補佐官 出典:Flickr; Gage Skidmore

報復をやるならサウジだろうが、サウジ軍単独では対イラン攻撃の効果は微妙だ。イスラエル新政権も当然関連してくる。サウジも直ぐには軍事行動を行わないだろう。だが、その内に攻撃のタイミングは失われる。それは典型的な「宥和政策」であり、イランの国内強硬派は祝勝会を開いて高笑いしているのではないか。

しかし、世界史のすべての教訓は、宥和政策が最終的にいつか必ず失敗することを教えている。今のままイランに対し正しいメッセージを送らない場合、湾岸での軍事行動の可能性は短期的には遠のくだろう。だが、最終的な問題解決にはより大規模な軍事行動、もしくはより悲惨な人的、物的被害を覚悟しなければならなくなる筈だ。

 

〇 南北アメリカ

先週は米情報機関の内部告発者の指摘が注目された。トランプ氏がウクライナ大統領と電話会談した際、民主党有力候補バイデン元副大統領とその息子の不正疑惑を捜査するようウクライナ側に働きかけたというのだ。それにしても、トランプ氏関連の話題は尽きない。下院民主党では大統領弾劾の動きが燻っている。要注意だ。

 

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:国連本部の国連総会ホール 出典:Wikimedia Commons;Basil D Soufi


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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