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.国際  投稿日:2019/9/26

韓国法相の親族に新たな疑惑


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

曹国氏の親族所属の会社が安保理決議違反の北朝鮮産石炭密輸に関与か。

・韓国の情報機関や政府が介在の可能性との指摘も。

・制裁破りは石炭だけでなく、巧妙な方法で石油精製品密輸出も。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=48099でお読みください。】

 

国連安保理制裁決議違反の北朝鮮石炭密輸入事件は、これまでも米国の調査などによって一部明らかにされてきたが、文在寅政権の法務長官・曹国氏の親族が、それに関係していたのではないかとの疑惑が浮上した。

北朝鮮石炭密輸に対する韓国政府の関与疑惑は、これまでも韓国の時事評論家で有力ユーチューバーでもある未来経営研究所所長黃壯秀(ファン・ジャンス、55)氏が、一貫して追及してきた事案でもある。それがはからずも曹国スキャンダルと関係して取り上げられようとしている。

▲写真 黃壯秀氏 出典:黃壯秀氏のブログより

 

1.朝鮮日報が報道した疑惑内容

朝鮮日報2019年9月18日付けは、韓国法務部長官・曹国(チョ・グク、54)氏の義兄(義弟ではない)チョン氏(56)が所属するA海運が北朝鮮産石炭運搬に関与したという疑惑を次のように報道した。

自由韓国党チュ・グァンドク議員室によると、A海運の関連会社は、2017年6月に保有していた「ドンチン上海」号を中国系船会社に売却。その後この船は、中米の国であるベリーズ国船籍となり「シンソンハイ」号に名前を変えた。その後同年7〜8月にこの船は、北朝鮮南浦港で石炭を乗せ、中国・ベトナムなどに輸送したことが国連の調査で明らかになった。しかしこの船は依然として「韓国船級(韓国管理)」を維持しており、北朝鮮に入港するたびに船舶自動識別装置(AIS)を消していたという。

韓国政府が発表した対北朝鮮独自制裁によると、北朝鮮に寄港した外国船舶は、1年間韓国の港に入港できない。しかし、シンソンハイ号は、北朝鮮に立ち寄った後、10〜11月に4回にわたって仁川・釜山・浦項・麗水港を出入りした。これに対して、米国の声(VOA)放送は「北朝鮮を寄港した船舶の追跡と監視が行われていなかったか、北朝鮮寄港事実を把握しながらまともに対処していなかったとの批判を受ける問題だ」と指摘している。

シンソンハイ号は、(国連)安保理制裁違反容疑を受けているという事実が知られると、名前を再び「タレントエース」に変えて、国際海事機関(IMO)の登録番号まで変更し「身分ロンダリング」を試みたことが分かった。昨年1月群山港に抑留された「タレントエース号」は、現在金属スクラップ廃棄手続きを踏んでいる。

A海運は、他の海運会社に比べて小規模だったにもかかわらず、20178月に国籍コンテナ船会社の協力体である韓国海運連合のメンバーとして参加し、業界では、特恵騒ぎが起こった。当時は、A海運関連会社が中国系船会社にドンチン上海号を売却した時期とほぼ重なる(朝鮮日報韓国語版2019・9・18)

 

2.黃壯秀氏が明らかにした北朝鮮石炭密輸の仕組み

以上が朝鮮日報の報道であるが、早くからこの北朝鮮石炭密輸問題を追及し、韓国政府の介入疑惑を指摘してきた黃壯秀(황장수―ファン・ジャンス)氏は、この問題の仕組みを2019年9月19日の「黃壯秀ニュースブリーフィング」で、次のように分析した。

曹国の義兄が身をおいている系列社が、「ドンチン上海」号を所有していた。

船舶と船舶金融に詳しい人によると、船舶は所属国籍を変えようが船会社を変えようが、それは重要なことではないとのことだ。実際にその船舶を管理し最終的に使っている(チャーターしている)のが誰かということが重要だという。従って朝鮮日報報道で「韓国船級」とされたが、それは大した意味を持たない。

韓国船籍の船が北朝鮮石炭を運べば大変なことになる。それ故密輸船は、通常「税金免除&減免国」に移す。実質的に船舶所有しながらそういった国の船としてロンダリングするのだ。

船舶に油を供給し、船員を送り込む会社として「シップマネージメントカンパニー(Ship management Company)」というのがあるがそれは実質船所有会社ではない。実質所有会社は最終的に船をチャーターして運用する「シップオプレント(Ship-oprent=船の所有者)」である。書類上は何回も売買したりリースしたりしたようにするが、実質的運用者は変わらないということだ。

こうした船はBBCHP用船契約(Bare Boat Charter Hire. Purchaseの略=所有権移転付き裸用船契約という意味)で実質オーナーが経費を支出し利益を支配する。BBCHP契約によって船舶の実質オーナー社は、荷主と直接契約をすることができ、もしくはこれを他の船会社に貸すこともできるので、関系する会社がいくつにもなる。だから回り回って船舶のオーナー会社と荷主が同一であることもあり得る。中間でやり取りしたことは重要ではない。このようなシステムを勘案すると、実際に密輸した額は国連が調査したよりも何倍何十倍多いと思われる。

こうしたことを行うには船舶運用に精通した人物が政府とつながらないとできない。それ故こういった会社は往々にして政府と密接な関係を持つことになる。一連の密輸事件には韓国の情報機関や政府が介在した可能性がある。だから民間ではこの問題の真相を最後まで追跡できなかった。文政権が曹国にあれほどこだわるのはこうした隠された関係が作用した可能性もある(「黃壯秀ニュースブリーフィング」2019年9月19日)。

 

3.これまでに摘発された韓国の北朝鮮石炭密輸船

米国当局による北朝鮮の「制裁破り船」(瀬取り船)摘発は北朝鮮だけでなく、韓国船籍にも及んでいる。この間、韓国企業が北朝鮮産石炭をロシア産と偽って輸入してきたいくつかの事例はすでに公表されている。

米国財務省は3月21日、瀬取りにかかわったとしている18隻、北朝鮮産の石炭を輸出したとみられる49隻の船舶リストを公表したが、その船舶リストに「LUNIS」という名前の韓国船籍の船(韓国政府が嫌疑なしとしていた船舶)が含まれていることも公表した。

これに関して韓国外交部の当局者は翌日、「韓米が注視してきた船であり、国連安全保障理事会の(北朝鮮制裁)決議に違反したかどうかを徹底して調査する」と述べた。また、同省が発表した指針に対する注意を国内の業界に促す予定だと伝えた。しかし韓国軍は北朝鮮の違法行為を確認してもこれを公表しないため、さまざまな憶測を呼び起こしている。

 

4.自由韓国党のユン議員による調査

自由韓国党のユン議員は最近、これまで大邱税関と釜山税関で北朝鮮産石炭を不法輸入して摘発された事例を公表したが、それによると、大邱税関で摘発されたのは、無煙炭(2017年4月)・無煙成形炭(2017年10月)6件、合計33028トン(代金3,172,592$と、銑鉄(2017年8月)2010トン(代金713,550$)だが、不法送金として摘発されたのは203万$(残金は現在未払い)だ。銑鉄の代金は信用状で決済され立件されなかった。個人3名法人3社が立件されたが女性1名だけが起訴された(北朝鮮に送金したと正直に陳述したため)。

釜山税関では、A部類で無煙炭(2018年2月)1590トン(代金135,150$)1件とB部類で無煙炭(2017年5月、2018年6月)2件の13250トン(代金1,140,063$,)だったが、第3者への送金分だけが起訴された。個人3名法人2社が立件されたが法人1社だけが起訴された。

以上の事例だけでなく、差し押さえられた北朝鮮の船舶「ワイズ・オネスト」号についても韓国の企業が香港の会社と契約を結び不法輸入しようとしていたことが明らかとなっている。摘発されたことで制裁破りは未遂に終わったが韓国企業の介入が明らかとなっている。

▲写真 米国が差し押さえた北朝鮮籍の貨物船ワイズ・オネスト号(2019年5月10日)出典;facebook; US Attorney’s Office for the Southern District of New York

ユン議員の調査結果で確認された「事件の縮小・もみ消し容疑」項目には北朝鮮産石炭を輸入した船舶が、その後も制裁措置を受けないまま韓国内に搬入石炭の原産地証明書偽造石炭の燃料分析書が偽造南東発電所で燃料分析をでたらめに行った事実大統領府が、捜査から除外するように警察に指示石炭取得方法に対して流通経路を明確にせず単に「不詳の方法」と表示、などがある。

石炭だけではない。制裁破りは韓国石油公社の子会社を介して巧妙な方法で石油精製品(主に軽油)密輸出にも及んでいる。ユン議員の調査によるとP-パイオニア号、ルーニース号、ビリオンス18号ほか4隻が100余回にわたって69万トンの「瀬取り」を行った疑いがあるとしている。今回の疑惑が解明されればこうした疑惑も解明されるだろう。

トップ写真:韓国・曹国法務部長官(2019年9月16日)出典:韓国法務部ホームページ


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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