未来世代の為に関係修復を(上)「知日派」韓国人の声 その4
林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・ソウルオリンピックをきっかけに韓国の食文化は大きく変化。
・米の最大の関心は北朝鮮の核開発と米中貿易問題だけ。
・文大統領のGSOMIA破棄は米仲裁を期待していた。
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日本を訪れる韓国人旅行者が激減している、という話を、最近はよく聞きます。
実際問題として、観光地の人たちは頭を抱えているとか。
私もかつてはその一人だったのですが、在日の親類縁者を訪ねがてら日本見物に来る人たちや、年配の人たちの団体旅行などは、たしかに減っているようです。
けれども、韓国では以前から個人旅行が占める比率が高く、特にここ数年は、ユニークな旅を自分で企画する若い人が増えてきています。たとえば、お城や神社仏閣を巡るのではなく、おいしいラーメン屋さんを探し求める旅、とかです。
昔から韓国人は、自分たちの伝統的な食べ物に執着する傾向が強くて、チヂミがあればピッツァもお好み焼きも要らない、冷麺とか韓国風の麺料理があるから、パスタもラーメンも食べる必要などない、といった気風がありました。
▲写真 韓国冷麺 出典:Flickr; Tatsuo Yamashita
私自身、日本に来てはじめてハンバーグなどの洋食(ヤンシクと発音します)を食べるようになりました。マグロの刺身も、初めて食べた時は、なんだか気持ち悪かったですね。今では寿司や刺身が大好物で、海の近くに取材に行くのが楽しみで仕方ないほどですが。
1988年にソウルでオリンピックが開催されましたが、これをきっかけに、韓国の食文化も大いに国際化が進んだのです。
ですから、1990年代以降に生まれた、若い世代の韓国人は、生まれたときから諸国の食べ物が身近にありましたから、味覚もボーダーレスなのかも知れません。
一方で、韓国を訪れる日本人観光客の数は、問題の徴用工判決が出た昨年10月以降も、それほど減っていないと聞いています。
日本は日本で、とりわけ若い女性は、俳優とか歌手といった、いわゆる韓流スターが大好きですし、韓国コスメ(化粧品)の人気もなかなかのものですからね。物心ついた時からそうしたものが身近にあれば、焼き肉とキムチくらいしか知らなかった世代とは、当然ものの見方・考え方が違ってきているでしょう。
ネット上に韓国を敵視する言動があふれようが、耳を貸さないのかも知れません。もしもそうなら、私が韓国人だから言うわけではありませんが、よい傾向だと思います。
こうした、世代間の感覚の違いが、韓日両国の将来を考える上で、ひとつの鍵になるのではないでしょうか。
もうひとつは、アメリカの動向ですね。
早ければ年内にも、アメリカと北朝鮮のトップ会談が再び開かれる可能性が高いと、韓国のジャーナリストたちは見ています。
タカ派として知られたボルトン補佐官がクビになりましたが、北朝鮮サイドはこれを聞いて大喜びしましたからね。彼に対しては、これまで「戦争好きな危険人物」「時代遅れの帝国主義者」などなど悪口雑言を並べていましたが、その大嫌いなボルトンのクビを切ったのは、トランプ大統領が自分たちに譲歩する意志の表れだ、と。まあ、なんでも自分たちに都合よく解釈する人たちですからね。
▲写真 ボルトン元補佐官 出典:Flickr; Gage Skidmore
アメリカはアメリカで、北朝鮮の核開発、特に本国まで届くような弾道ミサイルとか、それを発射できる潜水艦の開発といった行為に歯止めをかけられれば、その他の問題は、周辺諸国が自分たちでなんとかしなさい、といった考えなのでしょう。
アジア諸国の問題、というくくりでは、トランプ政権が本気で取り組んでいるのは、中国との貿易戦争だけ。そう言って過言ではないと思いますよ。
そのような状況で、今後も問題がこじれて行きそうなのは、韓国がGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)を破棄したことですね。
これは、ムン政権の最大の失策として歴史に残ると思います。
安倍首相が、わが国の三権分立をないがしろにしたことは遺憾に思いますが、韓国政府の対応もいささか大人げなかった、と私は幾度も言いました。
ムン政権にしてみれば、日本が半導体輸出の手続きを厳格化した、世に言う「ホワイト国からの除外」という挙に出たので、反省をうながすためだ、ということのようですが、これはひどい。
北朝鮮の脅威に対して、日本とはもはや、協力して立ち向かう関係ではない、と言い放ったに等しいですからね。
大人げない、というあたりを通り越して、昭和の日本映画でよく聞いた台詞そのままではないですか。
「それを言っちゃあ、おしまいだよ」
というやつです。
前にもお話しした通り、ムン大統領が左翼思想の持ち主だというのは、韓国の保守派のマスコミによって作り上げられたイメージだという要素が強いですから、本当に中国や北朝鮮にすり寄って行く可能性は低いですが、外交カードとしてそれをちらつかせる、ということは考えられますね。
▲写真 文大統領 出典:ロシア大統領府
そうやって突っ張っていれば、適当なところでアメリカが仲裁に乗り出してくれるのではないか、と。
これも、所詮は推測だと言われればそうですけど、非常に現実味があるところが嫌ですね。もし、この推測が当たっていたら、これほど情けない話はない。韓日両国ともに、アメリカの属国ではありません。そのことを本当に理解しているのか、ついついこちらまで大人げなく怒鳴り散らしたくなるほどです。
実は私は、今次の問題が表面化した直後、徴用工判決で名指しされたり、韓国への半導体輸出が売り上げの主たるものだという会社に、軒並み電話取材を試みました。
「現時点ではお答えできることは、なにもございません」
という返事もよく聞かされましたが、
「今後どうしたらよいのか、本当に困っています」
と率直に応えてくれた会社も複数ありましたよ。
未来世代の両国民のために、政治家たちはひとまず面子の張り合いをやめるべきです。
具体的には、韓国はGSOMIAの破棄を撤回し、日本は韓国を再びホワイト国に認定する。これでひとまず痛み分けだということにして、落としどころを探ればよいでしょう。
ヤクザの喧嘩ではないのですから、アメリカという大親分の仲裁を期待しながら、事務所のガラス窓を割り合うようなみっともない真似は、もうやめましょう。
(取材・構成・文責/林信吾)
【ヤン・テフン】
1967年、釜山生まれ。韓国の大学に合格していたが、兵役満了後、日本に私費留学し、城西大学経済学部卒業。韓国のTV製作会社の日本子会社勤務を経て、通訳・コーディネイターとして独立。現在はジャーナリストとしても活躍中。
トップ写真:安倍首相、文大統領、ペンス副大統領 出典:VOA
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。