香港の今から国際金融都市を考える 東京都長期ビジョンを読み解く!その81
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
【まとめ】
・小池知事、東京をアジアナンバーワンの国際金融都市化目指す。
・都は金融の活性化に向けた取組を推、ライバルは香港、シンガポール。
・取組みが適切なのか、中間評価を明らかにしてもらいたい。
凄いニュースが飛び込んできた。ブルームバーグが11月22日付で報道したのは「東京都は香港のヘッジファンドに東京に移転するよう勧誘するため、香港に職員を派遣」とのこと。
今、香港は民主化デモ、学生の蜂起で混乱している。そのさなかに、「香港よりこっちがいいですよ~」という行動をとるとは何考えとんねん!とびっくりしたので気になったので調べてみた。
しかし、実のところは、一般社団法人東京国際金融機構という官民連携プロモーション組織が香港に宣伝活動に行ったのにすぎず、計画通りに粛々としたに過ぎないそうだ(他の日本人ビジネスマンと同じ感じ)。こういう書かれ方、誤解を招く報道をされてかわいそうだなとは思う。
ただし、香港問題について言及をしていない小池都知事に問いたいテーマであるので、記事ついでに香港問題について考えたい。
■ 香港で起きている「非常事態」
香港での最近の出来事をまとめてみよう。
・党防犯条例改正案デモがスタート
・空港や地下鉄などでデモ、封鎖も
・デモ過激化、警官も厳しく対応
・学生たちに、催涙弾が使用される
・はじめての死者が出る
・警察官が丸腰のデモ参加者に至近距離から発砲
・地下鉄が駅を閉鎖
・女性のデモ参加者が暴力を受ける
・香港理工大学に学生が立てこもる、警察とデモ隊による激しい衝突
・警察隊が大学を包囲、突入。デモ隊は火炎瓶や弓矢で対抗
・下水道から学生が脱出する
などなど激化する状況である。
▲写真 香港 撮影:Y.A
▲写真 デモで爆弾が仕掛けられた後の様子 2019年10月20日(香港九龍、旺角駅)出典:Japan In-depth編集部
他方、政治状況では、
・香港の裁判所はデモ隊の覆面を禁じる規則について、香港基本法に違反すると認める
・アメリカのトランプ大統領は「私がいなければ、香港は14分で壊滅させられている」と発言。トランプのお陰で軍による鎮圧を免れていると主張
・区議会選挙で、民主派が大きく議席を伸ばし、勝利
という流れである。
▲写真 香港 撮影:Y.A
香港の事情は、思っているよりも意外なことがある。ニューズウィーク誌によると「実際には、その経済のほとんどは十指に満たない富豪一族が牛耳っている。そして彼らは熱烈な北京支持者」ということだ。
今回の区議会議員選挙で圧勝したとはいえ、今後どうなるかはわからない。ただし、アムネスティによると「香港警察は日常的に実力を行使してデモを排除しようとし、またデモ参加者をあいまいな容疑で拘束したり訴追したりしています」という状態なのはしっかり注意しておかないといけない。
■ ただし、問題が。補助するらしい・・・
さて、小池都知事が進める「国際金融都市」について見てみよう。
東京都では、東京がアジアナンバーワンの国際金融都市の地位を取り戻すため、国や民間等と連携しながら、金融の活性化に向けた取組を推進しています。(参照:東京都HP)
「「国際金融都市・東京」構想」を見てみると、そのポイントはこうだ。
・アジア域内における国際金融都市・東京のステータスは、香港、シンガポールといった 都市の発展により優位性が低下
・東京に存在する金融機関から顧客にとって魅力ある金融商品 が誕生せず、都民、国民の資産形成に悪影響を及ぼす可能性が
・預金・貯金として滞留している資金が成長分野への投資に回る状況を創る
(参照:「国際金融都市・東京」構想より)
ライバルは香港、シンガポールだそうだ。
▲図 参照:「国際金融都市・東京」構想 p7
具体的な施策としては、上記表のような取組みを手掛けているそうだ。正直のところ、ESG投資という言葉になかなかやるなと思ったが、それ以外はちょっと首をかしげる。具体的施策にも「税負担の軽減」とあるように、今回報道されてきたことの中にも気になる内容があった。それは「バックオフィス業務を外注するコストを削減するために」都が補助金を出すということだ。「国際金融都市」という本を出版し、三大国際金融センターの奪還を企図しているのはわかる。しかし、いくつかの疑問を持ってしまう。
・そもそもなぜ国際金融都市を作る理由があるのか?目的妥当性は?
・有効性は?機能するのか?
・そもそもどのような政策につなげるのか?
・税収増につながるのか。タックスヘイブンに利益はいってしまうのでは?
・その程度でインセンティブとして機能するのか?
・バーゲニング(交渉)する際に、過度に甘い便益を提供することにならないか?
・仮想通貨やオンライン決済などが浸透する中、旧来型の「国際金融都市」など幻想では?
などなどである。確かに、人材の面、環境の面でシンガポールや香港に劣っており、競争上勝つためにはインセンティブとして「それしか選択肢がない」面もあるかもしれないのかもしれない。
■ 東京が国際金融都市はどう考える?
金融に詳しい小寺昇二さん(埼玉工業大学教授、ターンアラウンド研究所代表)に聞いたところ「香港の混乱、ロンドンのブレグジットなど、世界的な金融センターにおける競合相手が弱った時期に挽回するという考えもないではないが、シンガポールからアジアのハブの地位を奪還するのは手遅れ、という面はあるし、日本の金融機関のレベルの低さは全く変わらない、また、そもそも産業界における金融業の地位は低くなっている—と考えられ、今更感も強い」との手厳しい評価である。
▲写真 小寺昇二教授(埼玉工業大学教授、ターンアラウンド研究所代表)出典:埼玉工業大学
それでも小池都知事は「東京がアジア・ナンバーワンの国際金融都市として輝くことを目指していく」そうだ。ある意味、工場誘致の金融版にすぎないので妥当という声もある。しかし、日本政府はどう考えているのか。連携は取れているのか、疑問もある。
小池都知事の公約にはあったのは確かだが、東京都民がそれに納得しているかはわからないし、そもそも東京都に役割として期待していることなのだろうか。都庁には頑張ってほしいが、頑張る方向が適切なのか、取組みが適切なのか、数年の取組を踏まえた中間評価を明らかにしてもらいたいものだ。
トップ写真:香港 出典:ヴィクトリア・ハーバーの風景
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。