ジャーナリズムのアパルトヘイト
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
【まとめ】
・週刊新潮、「フリーランスは記者か」とのコラム掲載。
・記者クラブとフリーランス間では膨大なる知識経験の差がある。
・生ぬるい会見は、当局との友好関係維持のため。
ジャーナリズムのアパルトヘイト、記者クラブ制を絶賛し、フリーランスを貶める高山正之と週刊新潮。
今週の発売の週刊新潮で元産経新聞記者の高山正之氏がコラム「変見自在」で、「フリーランスは記者か」という駄文を書いている。彼の主張は記者クラブの記者こそは選ばれたエリートであり、フリーランスの記者は「記者もどき」であるというものだ。
このような主張はアパルトヘイトの白人至上主義とまったく同じで、愚劣な選民主義だ。
このコラムで高山氏は、記者は過酷な仕事で自殺者がでるほどだと「自慢」している。
「水戸支局時代には読売新聞の記者が自殺し、本社に上がってからは同期と先輩が縊死した。死人が多い職だった」
悩んで心を病んで自殺者が出る職場でないと優秀な記者にはなれないという歪んだ自己陶酔と選民意識が見て取れる。
「本社に上がれた。上がっていいことは専門性の高い記者クラブに出られることだ」
筆者のようなフリーランスの専門記者からみればお笑い草だ。率直に申し上げて我々何十年もやっているフリーランスの専門記者と記者クラブの記者の知識経験の差は極めて大きい。記者クラブの記者は、原稿は書けるだろうが、アマチュアと同じだ。高山氏の主張は小学生が大学生よりも勉強できると威張っているようなものだ。
▲画像 日本記者クラブ入り口(2011)出典:photozou.jp
記者クラブの記者の多くは、その分野の知識がない。単に辞令で配属されるだけだ。しかも異なるジャンルの部署を渡り歩く。これで専門性が培われるはずがあるまい。
そして記者クラブは記者会見だけではなく、レクチャー、懇親会、視察旅行などあらゆる取材機会を記者クラブが囲い込んで、その他媒体やフリーランスの記者を排除している。だが、その割にはものを知らない。フリーランスやその他の媒体の記者には取材機会のハンディがあるが、その元凶は記者クラブである。
「記者クラブは遊んで務まる場ではなかった」
これまた大笑いだ。今でも記者クラブはクラブ経費で飲み食いしているが、高山氏が現役のころだと例えば防衛庁記者クラブは次官に自腹で寿司を奢らせたり、タクシー券までたかっていた。こういうタカリ根性の「自称記者」にまともな記事が書けるわけがない。
故田中角栄氏のスキャンダルを立花隆氏が暴いたときも記者クラブの政治部の記者たちは、俺達だって知っていたとかうそぶいていた。書かずに恩を売っていた。最近では首相の記者会見で記者クラブの記者の質問が事前に官邸に届けられて、首相は原稿を読みながら答えるという世界的に見れば珍獣レベルの八百長記者会見の実態が知れわったったことは記憶に新しい。
「記者クラブとは研鑽を積んだ猛者が集い、会見は静かな戦場といってよかった」
これも自慰的な自己陶酔に過ぎない。筆者は防衛省の会見でちょっと厳しい質問したら記者クラブ会員のNHK政治部の鈴木徹也記者から恫喝された。
・『記者クラブ』というシステム〜防衛省大臣記者会見後で非記者クラブ会員に圧力をかけるNHK記者の存在①
http://japan-indepth.jp/?p=1131
・『記者クラブ』というシステム〜防衛省大臣記者会見後で非記者クラブ会員に圧力をかけるNHK記者の存在②
https://japan-indepth.jp/?p=1135
・「皆様のNHK」の誠意に疑問①〜問題が発生したら無視を決め込む公共放送は許されるのかhttps://japan-indepth.jp/?p=1480
・「皆様のNHK」の誠意に疑問②〜外国メディアやフリーランスに下げる頭はないという本音http://japan-indepth.jp/?p=1483
記者会見が静かなのは、殆どの記者が質問せずに、ラップトップでカタカタと大臣の言葉を書き写しているだけだからだ。まともに質問する気はないのだ。
そもそも記者クラブの記者は当たり障りのない情緒的な質問が多い。それは専門知識がないこともあるが、当局との「良好な関係」の維持のためだ。大臣や次官などに厳しい質問をすると出入り禁止になったり、その会社だけ情報をもらえずにいわゆる「特オチ」を喰らわせされる。
こんなものは読者や視聴者は全く気にしないが、記者クラブでは死活問題となる。だから八百長プロレスのような生ぬるい会見が行われているのが実態だ。
高山氏はフリーランスの記者を罵倒する。
「(記者クラブを)開放しろという声がでた。声の出どころは嘘しか書かない反日の外国人記者会。それにフリーの記者も乗って騒いだ。
彼らはクラブに入って一線の記者と切磋琢磨する気はなく、ただ記者クラブ主催の形をとる記者会見にでるのが目的だった。
戦場に新兵訓練もしていない素人が来る。冗談かと当時は思った。」
自分たちを軍人に擬えた自己陶酔で気持ちが悪い。高山氏の後輩である産経新聞の記者のレベルは軍オタレベル、記事の書き方だけは知っているアマチュアだ。実例を挙げよう。とてもプロの記者の書いた記事ではない。
・自衛官の敵、大日本大政翼賛会産経新聞の野口裕之記者は頭がおかしいの?
https://kiyotani.at.webry.info/201711/article_4.html
・産経新聞は日経なみに経済オンチ
https://kiyotani.at.webry.info/201605/article_11.html
・産経新聞大本営発表「軍事情勢」野口裕之記者の気持ちの悪い「ラブレター」
https://kiyotani.at.webry.info/201602/article_8.html
・産経新聞論説委員 榊原智氏は「愛国者」か「支那・中共」の手先か?
https://kiyotani.at.webry.info/201603/article_2.html
・産経新聞と杉本康士記者のメンタリティは国防婦人会のオバちゃんや韓国大統領と同じレベル
https://kiyotani.at.webry.info/201410/article_6.html
・産経新聞の商売優先の「先軍報道」「愛国報道」は国益を損なうと思うけどねえ。
https://kiyotani.at.webry.info/201410/article_8.html
・戦闘機開発、記事は起きたときに書けよ産経新聞。
https://kiyotani.at.webry.info/201811/article_11.html?pc=on
・産経新聞大本営作戦参謀杉本康士記者発表、空自の救難ヘリは世界一(笑
https://kiyotani.at.webry.info/201611/article_4.html
・産経新聞杉本大本営発表 オスプレイを絶賛中
https://kiyotani.at.webry.info/201505/article_13.html
・産経新聞【防衛最前線】執筆者交代 90式戦車 「北の守り」の傑作、戦車不遇の時代もなお国防の要
https://kiyotani.at.webry.info/201507/article_3.html
・産経新聞石鍋大本営発表 OH-1はサイコー
https://kiyotani.at.webry.info/201507/article_13.html
・産経新聞、『ついに自衛隊が「高機動パワードスーツ」を導入へ』は誤報
https://kiyotani.at.webry.info/201502/article_6.html
・パワードスーツのガセ記事を再掲載する産経新聞の見識
https://kiyotani.at.webry.info/201504/article_9.html
・現実が見えない産経新聞の戦車を減らすと国が滅ぶ論のお粗末
https://kiyotani.at.webry.info/201312/article_8.html
・産経大本営発表 陸自アパッチ、贔屓の引き倒し
https://kiyotani.at.webry.info/201512/article_11.html
・産経新聞・杉本大本営発表:T7練習機のスキャンダルや問題は報道しません
https://kiyotani.at.webry.info/201505/article_12.html
・「戦車と大砲減らすと国が危ない!」、2ちゃんねるの軍オタレベルの産経新聞の記事
https://kiyotani.at.webry.info/201502/article_8.html
こんな記事が「研鑽を積んだ猛者」だ「一線の記者」の記事だろうか。失笑を禁じ得ない。筆者がデスクなら灰皿投げつけている。
不思議なことに防衛省でスキャンダルが起こると「研鑽を積んだ猛者」やら、「一線の記者」やらが、各社こぞって筆者に話を聞きにくる。
本当は大した謝礼が出るわけでもないし、それどころかただ働きが多いので解説なんぞしたくはないのだが、素人同然の未熟な記者が読者、視聴者に誤った情報を送ると困るのでこれもお国のためと諦観してボランティアとして協力している。
そもそも週刊新潮の社員の記者と、多くのフリーランスの記者によって成り立っている。高山氏のお説ならば彼らも「記者じゃない記者もどき」であろう。宮本太一週刊新潮の編集長はどう思っているのか。自分たちの記者を誇りにおもっていないのか。
▲画像 新潮社 出典:WIKIMEDIA COMMONS
恐らく宮本編集長は高山氏の個人的見解だと逃げるのだろ。だがそれは編集権の放棄というものだ。仮に高山氏が北朝鮮バンザイ、首領様バンザイと書いたら掲載はしないだろう。この件に関しては編集長も共犯ということだ。
更に申せば高山氏ご自身も現在はフリーランスの身の上だ。別に新聞記者としての矜持や誇りをもつなとはいわないが、そのために他者を貶めるのは品性下劣というしかない。
記者クラブがジャーナリズムの代表を自称するのは根拠のない選民主義である。アパルトヘイトの白人優位主義、ナチスドイツのアーリア人至上主義、高山氏が大嫌いであろう共産国のプロレタリアート独裁と根は同じの差別主義にすぎない。そしてこのような記者クラブという胡乱な組織は我が国にしかない。
筆者は週刊新潮にはこの高山氏のコラムの撤回と謝罪記事の掲載を要求する。
【訂正】2020年4月4日
本記事(初掲載日2020年4月4日)、下記一文訂正致しました。
誤:不思議なことに防衛省でスキャンダルが起こると「研鑽を積んだ猛者」だ「一線の記者」が各社こぞって筆者に話を聞きにくる。
正:不思議なことに防衛省でスキャンダルが起こると「研鑽を積んだ猛者」やら、「一線の記者」やらが、各社こぞって筆者に話を聞きにくる。
トップ画像:pixabay: AndyLeungHK
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ。
・日本ペンクラブ会員
・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/
・European Securty Defence 日本特派員
<著作>
●国防の死角(PHP)
●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)
など、多数。
<共著>
●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)
その他多数。
<監訳>
●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)
- ゲーム・シナリオ -
●現代大戦略2001〜海外派兵への道〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2002〜有事法発動の時〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2003〜テロ国家を制圧せよ〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2004〜日中国境紛争勃発!〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2005〜護国の盾・イージス艦隊〜(システムソフト・アルファー)