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.国際  投稿日:2023/4/25

尹錫悦政権が乗り越えなければならない壁(下)韓国従北左派勢力克服と対日関係改善


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・尹政権が安定するため、従北左派勢力の一掃とそれによる景気回復が必要。

・依然として従北朝鮮勢力は決定的打撃を受けていない。

・韓国の安保体制を強固にするには、韓米同盟の強化とともに韓日関係の改善が必要。

 

2、韓国従北左派勢力克服

尹政権の先行きを展望する上で最も重要なのは、国内における従北朝鮮勢力の一掃と景気の回復だ。

この2つで目に見える成果を導出できなければ、来年の総選挙での過半数の議席を確保が困難となり、尹政権は安定しない。経済成長も結局は法のもとでの市場経済を否定する従北朝鮮勢力の排除がなければ展望を開けない。

そのため今尹政権は、従北朝鮮勢力の代表的組織である「民主労総(全国民主労働組合総連盟)」の健全化を進めている。「民主労総幹部へのスパイ捜査」、「不法ストへの取締強化」、「民主労総幹部による世襲的就労の阻止」、「民主労総に対する収支内容透明化要求」、などがそれである。

また民主労総の政治勢力である「共に民主党」対しても、党代表李在明(イ・ジェミョン)に対する不正腐敗の摘発」と「文在寅前政権の利敵行為捜査」を続けており、2021年の「共に民主党大会」で、宋永吉前代表(4月22日パリで民主党離党宣言)の指示のもとで行われた「現金入り封筒ばらまき疑惑」(この事件で、民主党事務副総長李ジョン根が懲役4年6ケ月の判決を受けた)に対しても周辺捜査を本格化させている。

しかし、依然として従北朝鮮勢力は決定的打撃を受けていない。内乱陰謀の罪で解散させられた「統一進歩党」(代表格の元議員李石基は内乱扇動の疑いで懲役9年を言い渡された)を引き継ぐ「進歩党」は、「共に民主党」の支援を受けた4月5日の国会議員補欠再選挙で、全羅北道全州(チョンジュ)乙選挙区から姜聖熙(カン・ソンヒ)を当選させた。この進歩党を組織した中心人物は、統一進歩党のメンバーだ。最近明らかになったスパイ団事件にも進歩党員が関わっている。

この勢力は、建設、宅配、スーパー、非正規職労組に浸透して資金を獲得し政治闘争を行っている。建設労組は2020年7月「李石基釈放デモ」に労組員を少なくとも数千人を動員した。民主労総傘下の建設労組などを拠点にした不法暴力行為は今も続いており正常な企業活動を妨害している。

進歩党共同代表の張智和(チャン・ジファ)は、あるマンション工事現場で民主労総建設労組所属の「現場チーム長」として名前を載せ、11カ月間にわたり賃金約3700万ウォン(約376万円)を受け取っていた。張はその間、集会・デモに参加したり、外国を訪問したりしていたが、その間現場で働いたかのように装い、建設会社から日当を受け取っていたという。 

張以外にも統一進歩党出身の人々が民主労総の建設労組を通じ、大挙して建設現場に就職したが、かなりの人々は名前だけを登録し、政治活動をしながら日当も手にしているという(朝鮮日報)。

このような無法が罷り通るのは、統一進歩党を掌握していた北朝鮮の地下組織「京畿東部連合」が建設労組を主導しているためだ。「京畿東部連合」は、主体思想派の過激集団である。

3、韓日関係改善

 韓国の自由民主主義を発展させ、安保体制を強固にするには、韓米同盟の強化とともに韓日関係の改善が必要だ。そうした認識のもとで、尹大統領は韓日関係改善の足かせとなっている「元徴用工問題」の解決に乗り出した。

尹大統領は、左派・従北朝鮮勢力と一部原告の猛烈な反対の中で「被害者支援財団を通じた第3者弁済」との解決策を打ち出し、前政権時代に中断されたGSOMIA(韓日秘密軍事情報保護協定)を完全正常化するとともに、韓米日の情報共有化に拍車をかけている。「被害者支援財団を通じた第3者弁済」では、実行に移されて約1カ月で支給対象15人のうち10人がこの方式による賠償金を受け取った。

しかし、この解決案に対する韓国民の評価は今も2つに割れている。世論調査によると賛成と反対の比率は、賛成4に対して反対が6を占めているという。特に国会で169議席を持つ野党「共に民主党」は、来年の総選挙でこの問題をイシュー化しようとしており、尹大統領の対日外交を「屈辱外交」「売国行為」などと激しく攻撃している。

「共に民主党」は、韓日首脳会談で岸田首相が「過去の植民地支配への謝罪」に対してこれまでの日本政府の立場を継承したものの、自身の口から改めて謝罪の言葉を述べなかったことや、賠償金問題で関連日本企業が抜けたことなど、日本側の慎重な姿勢を攻撃材料に使っている。

それに加えて、特には日本の共同通信が、「首脳会談で尹大統領が福島原発汚染処理水放水問題で理解を示した」と受け取られるような報道を行ったことが大きく影響した。これが尹大統領を攻撃する従北勢力に材料を与え世論操作をやりやすくした。

しかし、この隙間も間もなく埋まるとの期待が高まっている。岸田首相は、来月下旬に広島で開催される先進7カ国(G7)首脳会議に尹大統領を招いただけでなく、4月19日午後の地方紙幹部との会食の場で、尹大統領の日本訪問を契機に韓日関係が正常化に向かっているとし、「今度は私が行かなければならない」と述べたという。その時は何らかの「手土産」を尹大統領に持って行くはずだ。

また5年ぶりに韓日2+2外交安保対話が4月17日にソウルで再開された。両国は「北朝鮮の核問題を含む北東アジアの安保環境、韓日外交・国防政策協力、韓日米協力の現況などについて幅広く深い意見を交換を行った」と韓国外交部が明らかにした。

 韓国外交部は日本側から、2018年12月の韓国海軍駆逐艦による日本海上自衛隊哨戒機間に対するレーダー照射問題に対する言及があったことも明らかにした。松野官房長官は火器管制レーダー照射事案について、「今回の対話では本事案を含む防衛当局間の課題についても議論したが外交上のやり取りであり詳細は控えたい」と話した。

両国間には韓日安保政策協議会のほかにも韓日外交次官戦略対話、国家安全保障会議(NSC)次元の韓日経済安保対話などハイレベル対話チャンネルが復元を控えている。2016年から7年間中断されていた韓日財務相会談も来月再開される予定だ。

尹錫悦大統領が、今回の米国への国賓訪問で、北朝鮮の核に対する韓米核抑止の新たな枠組みを導出し、その成果を持って国内従北朝鮮勢力の一掃と経済の浮揚、そして日本との関係改善に成功するならば、韓国の自由民主主義体制は新たな安定期に入るだろう。

もしもこの壁の突破に成功しなければ、来年の総選挙で敗北する可能性も出てくる。そうなれば尹政権は国政遂行を円滑にできず、その瞬間からレイムダック化する可能性が高い。金正恩の韓米に対する核脅迫も一層激化するに違いない。

(尹錫悦政権が乗り越えなければならない壁(上)はこちら

トップ写真:韓国ソウルで行われた第104回独立運動記念日の式典で三唱する韓国のユン・ソクヨル大統領(左2)とその妻キム・キョンヒ(右2)。(2023年3月1日)出典:Photo by Jung Yeon-Je – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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