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.国際  投稿日:2021/1/30

最終章迎えた文在寅vs尹錫悦


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

「開かれた民主党」のチェ・ガンウク(崔康旭)代表に有罪判決。

検察の捜査は、ムン・ジェイン(文在寅)大統領に向かっている。

・文政権の命運を握るのは4月初のソウルと釜山の市長補欠選挙。

1月28日、「開かれた民主党」のチェ・ガンウク(崔康旭)代表が、ソウル中央地裁での裁判で懲役8ヶ月執行猶予2年の有罪判決を受けた。このことをきっかけに、与党「共に民主党」は、自分たちに不利な判決をもたらす裁判に圧力を加えるために、前例のない一般裁判官弾劾訴追まで進めている。こうした動きの中で、ムン・ジェイン(文在寅)大統領とユン・ソンギョル(尹錫悦)検察総長の攻防も最終章を迎えようとしている。

▲写真 ユン・ソンギョル(尹錫悦)検察総長 出典:namu.wiki

1、「開かれた民主党」チェ代表に執行猶予付懲役刑

チェ・ガンウク(崔康旭)代表は、ムン・ジェイン(文在寅)政権で大統領秘書室公職規律秘書官を務め、昨年4月の第21代国会議員選挙で「開かれた民主党」の比例代表国会議員に当選した人物だ。

彼は、法務法人「チョンメク」での弁護士時代、玉ねぎ男と言われているチョ・グク(曺国)元法務部長官夫妻の依頼を受け、チョ・グク(曺国)の息子が、高麗大学、延世大学大学院に入るための、2017年1月から10月までの間、毎週2回、合計計16時間のインターン活動をしたという虚偽の証明書を作成し、入試業務妨害の疑いで昨年4月の総選挙当選直後に起訴されていた。

しかしチェ・ガンウク(崔康旭)代表は、公訴権の乱用、報復起訴、検察庁法違反などと主張し、「起訴事実はすべて虚偽だ、私は明確な無罪だ」と起訴事実を全面否認して抵抗してきたが、裁判所は、チェ・ガンウク(崔康旭)代表の主張をすべて否定した。

ソウル中央地裁チョン判事は、「チョ・グク(曺国)元長官の息子は、事務室に数回立ち寄って英語翻訳業務などを行ったに過ぎず、確認書の内容のように、定期的に勤務したのではないために確認書は虚偽」と断定し、「このような内容は、入試担当者に、その内容の誤認と勘違いを起こさせるもので、入試業務妨害と認められる」とした。

また量刑の決定では、「被告人は、真剣な反省がないために有利な量刑要素もない」としながら、「ただ前科がなく、頼まれて虚偽の書類を作成した点を勘案した」と明らかにした。この判決がそのまま確定されると、チェ代表は議員職を喪失することになる。

チェ代表に対する裁判は、これだけではない。昨年4月の選挙で、インターン証明書を出した事実を一貫して否定していたことから、現在選挙法違反でも裁判中だ。また蔚山市長不正選挙疑惑でも起訴されており、チャネルA記者事件でも、虚偽事実でメディア工作を行ったとして1月26日に起訴された。

チェ代表への有罪判決は、当然チョ・グク(曺国)夫妻の裁判にも大きな影響を及ぼす。なぜなら2018年8月に、チョ・グク(曺国)夫妻が、このチェ・ガンウクの偽証明書をもとにして、インターン期間をさらに延長し、時間も増やすなど2回目の偽造を行っているからだ。

2、文在寅大統領への捜査の輪を縮める検察

こうした判決を足がかりに、いま検察の捜査は、一歩一歩ムン・ジェイン(文在寅)大統領に向かっている。

月城原発第一号機廃炉のための経済評価捏造問題では、テジョン(大田)地検が1月25日に、ペク・ウンギュ(白雲揆)元産業通商資源部長官への事情聴取を行い、拘束令状を検討している。 

そして中断されていた蔚山市長不正選挙疑惑捜査も再び動き始め、前大統領秘書室長イム・ジョンソク(任鍾晳)の起訴へと向かっている。また政権・与党政治家が多く絡んでいる「ライン・オプティマス」フアンド詐欺事件捜査も加速している。

そればかりか内部告発によって噴出した2019年の「キム・ハギ(金学義)元法務次官への不法な「出国禁止措置事件」も権力型陰謀事件として暴かれつつある。出国禁止を指示したのが、当時の大検察庁反腐敗部長で、現在のソウル中央地検長であるイ・ソンユン(李盛潤)だということが、明らかになりつつあり、大検察庁反腐敗部が強制捜査された。イ・ソンユン(李盛潤)のバックに文在寅大統領がいることは、韓国では常識だ。

そのほかユン検察総長懲戒をチュ・ミエ(秋美愛)前法務部長菅と共に指揮した法務部次官のイ・ヨング(李容九)も、タクシー運転手暴行事件隠滅を暴露され、本格捜査に入っている。

▲写真 チュ・ミエ(秋美愛)前法務部長菅 出典:namu.wiki

韓国の政権与党は、こうした捜査が文在寅大統領に及ぶことを恐れ、いま必死に対抗策を講じている。

検察に敗北したチュ・ミエ(秋美愛)に代え、これまた疑惑の玉ねぎ男と言われるパク・ポンゲ(朴範界)を、野党の合意がないまま、1月28日に法務長官に任命し、新たな検察攻略を画策している。

その最大の武器が1月20日にスタートした「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」だ。1月21日には処長が任命され、28日には次長が任命された。捜査人員を整えるまで約2ヶ月ほどかかるとされているが、この2ヶ月の間に、検察が政権絡みの事件を起訴に持っていかなければ、捜査は公捜処に移され、もみ消される可能性があると言われている。しかし公捜処の処長・次長が文在寅政権の思惑通りになるかどうかは未知数だ。

また、自分たちに不利な判決が続く中、与党は裁判官に対する圧力を強めている。見せしめとして職権乱用疑惑で起訴されたが一審無罪となった退職間近のイム・ソングン(林成根)釜山高裁部長判事の弾劾訴追を推進し、スケープゴートにしようとしている。

これからの2ヶ月余は、文在寅政権の運命が決まる2ヶ月と言っても過言ではない。その決定打となるのは、4月初に行われるソウルと釜山の市長補欠選挙での勝敗だと言える。

トップ写真:文在寅大韓民国大統領 出典:South Korean Presidential Blue House via Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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