トランプ人気に米新聞歯ぎしり
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ワシントンポスト紙に珍しく素直で主観的な記事が掲載。
・自分の気持をまず大前提に大統領の実績を論考するのは偏見
・米メディアは大統領の失言、放言、などの報道が主体。
前回の当コラムではアメリカのトランプ大統領の支持率が高くなっていることを伝えた。日本での国際問題に関心を持つ向きにとって、日本の主要メディアでのトランプ大統領の「失態」や「無能」報道だけを読まされている場合、なんとも理解できない現象だろう。こんな失敗ばかり続ける国家指導者が国民から支持され続けるはずがない、と疑問を感じる向きも多いだろう。
この点に意外にわかりやすい答えを与えるアメリカの新聞の記事を発見した。私自身も、なるほど、こういうことなのか、と奇妙に納得させられた記事だった。トランプ大統領と反トランプのメディアのややこしそうな関係をへんに単純に解明している感じの記事でもあった。
ワシントン・ポスト5月16日付の記事である。
「トランプはコロナウイルスの猶予期間から利益を得ているが、永遠には続かない」という見出しだった。
さらりと読んで、まずこれほど素直で主観的な新聞記事も珍しいと思った。素直というのは筆者の思惑や感情がまっすぐにあらわれているという意味だった。主観的というのは事実をそのまま客観的に報じるのではなく、同じ事実について書くにも、自分自身の意見や判断を強く前面に押し出しているという意味だった。
筆者は同紙の世論調査分析専門のデービッド・バイラー記者だった。中身はトランプ大統領の支持率がウイルス危機でも一貫して高いという最新の世論調査結果の報告が中心だった。
写真)ワシントンポストオフィスエントランス
念のために記しておくが、この記事がワシントン・ポストに載ったのは、私が前回の記事で紹介したギャラップ社の世論調査結果が発表される1日前である。この記事の筆者のバイラー記者はこの記事を書いた時点ではそのすぐ翌日にトランプ大統領の支持率上昇をさらに証明する調査結果が発表されるとは、まったく知らなかったことになる。だからこそトランプ大統領の支持率はやはり高いという事実のダメ押しということにもなるだろう。
さてバイラー記者はその記事の冒頭で、トランプ大統領のコロナウイルス対策面での「ミス」や「過ち」の数々を指摘していた。正確には同記者やその所属するワシントン・ポストというメディアからみての「ミス」や「過ち」ということになる。
同記事はさらにそうしたトランプ大統領の失政についての「解説」で「トランプ大統領はウイルス対策で失敗を重ねているのだから支持率は本来、下がるべきだ」という意見をも述べていた。しかしこの「意見」は筆者のまさに願望の表明であって、事実の記述ではない。
バイラー記者はさらにトランプ大統領へのアメリカ国民の支持率について「でもまもなく必ず下がるだろう」という「予測」をも書いていた。いまの支持率の高さは「国家の危機に国民が大統領を支持する特別な『猶予期間』なのだ」という。そんな高支持率が「永遠に続くはずがない」とも述べるのだ。
だがこの「予測」を裏付ける証拠はない。トランプ大統領の支持率は現にまだ下がってはいないからだ。だから「支持率が下がる」という予測ふうの記述は単に筆者の願望にすぎない。しかもわかりやすい、きわめて素直な願望である。
写真)トランプ大統領、コロナウイルスに関する記者会見を開催
ここまで読むと、いまは上昇している大統領支持率を前にして、その下降の兆しもないのに、それが下降するだろう、いや下降しなければならない、と書くのは、子どもっぽい希望、願望の表明にすぎなく、みえてくる。主観としかいいようがない。そもそも自分の気持をまず大前提に大統領の実績を論考するのは偏見だともいえる。だからこの記事はトランプ叩きに徹するワシントン・ポスト全体の偏向のわかりやすい展示ともみえてくるのだった。
この記事の客観的な部分はトランプ大統領の5月前半の支持率として各種世論調査を総合するリアル・クリアー・ポリテックス(RCP)では46%、前回の大統領選で最も正確な世論調査結果を出したラスムセン社の調査でも46%という数字が出たことを伝えていた。
これらの支持率の数字はみなコロナウイルス危機の始まる前と同じか、あるいはその危機の始まり以降に上昇した水準だと報じられていた。となると、ワシントン・ポストの願望としては本来あってはならない現象が起きたのだといえよう。
同記事はとくにトランプ大統領の経済運営についてのアメリカ国民の現在の支持率は52%と、高いことを指摘していた。その点についてウイルス危機での経済崩壊に近い環境ではさらに驚きだと強調していた。
写真)Covid19についてブリーフィングの様子
このへんの「驚き」の解説部分にはその高支持率がくやしくてしかたないという筆者の心情があらわに出ていた。この記者の心情の表明もきわめて素直だといえた。だがその素直さは記事全体の「主観的すぎる」特徴や客観性の欠落を明示する結果となっていた。¥
日ごろから反トランプ基調を鮮明にするワシントン‣ポストやニューヨーク・タイムズ、CNNの報道は大統領の実質的な政策の内容や成功はほとんど取り上げない。大統領の失言、放言、側近の言葉とのくい違いなどに焦点を絞っての報道が主体である。だからそれを読めばトランプ大統領の統治は失敗だとしか思えなくなる。
皮肉にもこのワシントン・ポスト報道の翌日、世論調査の最古参ギャラップ社がトランプ大統領の支持率が同社調査でこれまで最高の49%を記録したと発表した。オバマ、二代目ブッシュの両大統領のこの時期より高い支持率だという。
この現象について長年のメディア研究機関「マクローリン研究所」のジョン・マクローリン所長が論評した。
「民主党リベラル系の主要メディアは政治主張に引きずられ、事実の尊重が減り、一般国民の信頼を失ってきた。最近の当研究所の調査では『メディアはトランプ大統領についての報道で公正だと思うか』という問いにノーと答えた人が全体の48%で、イエスの42%を着実に上回った」
確かにワシントン・ポスト。ニューヨーク・タイムズ、CNNはトランプ大統領に対しては就任当初からまず「ロシア疑惑」で同大統領をクロと決めつける報道を続けてきた。その後は「ウクライナ疑惑」による弾劾でさらに同大統領の「悪」を強調してきた。だがいずれの場合もトランプ氏は倒れることも、傷を負うこともなかった。
となると、トランプ大統領を「悪」と断じるメディアの側に欠陥があるように思えてくる。日本の主要メディアも「識者」もアメリカ側のこれら反トランプ・メディアへの依存の危険性をそろそろ意識してもよいのではないか。
トップ写真)トランプ大統領
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。