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.国際  投稿日:2020/4/30

日本もWHOへの拠出金止めよ


島田洋一(福井県立大学教授)

「島田洋一の国際政治力」

【まとめ】

・日本もWHOへの拠出金を一旦止め、具体的改革を迫るべきだ。

・日本は米台と真の「国際保健情報・協力ネットワーク」形成を。

中共傘下〟のWHO体制を改めない限り、パンデミックは続く。

 

米有力紙ウォールストリート・ジャーナルが、4月27日付社説で、世界保健機構(WHO)に対する資金拠出を再開する条件の一つに、台湾に対する差別的扱いの中止を掲げるよう主張した。正しい発想である。

同社説も指摘するように、台湾は世界に先駆けて新型コロナの抑え込みに成功しつつある。4月27日には新たな感染確認者がゼロとなり、累計の感染者も429人、死者6人と、人口比で群を抜いて少ない。

中国共産党政権(以下中共)とその影響下にあるテドロス事務局長以下WHO指導部を信用せず、武漢からの航空便に対する検疫を強化し、次いで中国との往来停止など踏み込んだ措置を素早く取ったおかげである。

WHOは、人・人感染する新型ウイルスが中国武漢で発生した疑いが濃いとの台湾当局のいち早い警告を無視し、中共の隠蔽工作に寄り添うことで被害の世界的拡大を招いた。米政府、米議会はその点を指摘して中共・WHO批判のトーンを上げている。

台湾こそ防疫体制のモデルと言えるが、WHO指導部はなお中共の意向に忖度し、台湾を末席のオブザーバー扱いする姿勢を変えていない。

テドロス氏は高まる批判をかわそうと焦ったのか、黒人の自分に対する人種差別的言動が特に台湾から噴出していると、公の記者会見の場で根拠なき誹謗中傷を行った。

アメリカでよく政争に使われる「人種カード」の国際版と言えるが、それに対し、台湾の女子大生がユーチューブで、英語での情理を尽くした反論を行い、謝罪を求めて国際的話題となった。しかしテドロス氏は今に至るも頬かむりしたままである。まさに中共の報道官を彷彿とさせる対応である。

▲写真 「台湾から人種差別を受けた」と公表したテドロスWHO事務局長に反論の公開質問を行った台湾の女子大生・Vivi Linさん。 出典: Vivi Lin YouTube Channel

産経新聞4月27日付に中共報道官に関する興味深い記事が載った。

《イタリアでは3月、中国外務省がマスク支援について公表したツイッター映像に、偽造疑惑が沸騰した。住民がベランダで歌い、拍手する映像で、「中国国歌が演奏される中、『ありがとう、中国』と声をあわせるイタリア人」と紹介された。だが、同じ映像が伊紙のウェブサイトにあったことが、報道で判明した。伊国民が、ウイルスと闘う医師や看護師に拍手を送った様子を報じたもので、中国とは関係がない》

ここにいう「ツイッター映像」とは、ふっくらした容貌で日本の政界にも(不見識なことに)ファンが少なくないという女性の華春瑩報道官名で出された3月15日付ツイートを指す。英文でこうある。

《Amid the Chinese anthem playing out in Rome, Italians chanted “Grazie, Cina!”. In this community with a shared future, we share weal and woe together.》

▲写真 外出自粛中のイタリア人による「医療関係者への称賛」が、なぜか「中国への感謝」にすり替えられた動画から抜粋。出典: 華春瑩(中国政府報道官)のツイッターより

最後に「我々は幸福も苦悩も共有する」とあるのがことさら空しく響く。中共とWHOが歩調を合わせての国際情報戦は今後も続くのだろう。

▲写真 テドロスWHO事務局長と中国の習近平国家主席(2020年1月28日 北京) 出典: Tedros Adhanom Ghebreyesus facebook

日本もアメリカ同様、拠出金を一旦止め、再開条件として様々な具体的改革をWHOに迫るべきである。北京の後押しでさらに上の国連事務総長の座を狙っているといわれるテドロス氏の辞任は当然その一つでなければならない。

途上国支援は、援助貴族と言われるWHOのような中間搾取団体を通すのではなく、実績あるNGOに直接資金供与する方がはるかに効率がよい。

国連機関への拠出金停止というと、必ず関係する官僚らが、「それをやったらおしまいです。かえって中国の影響力を増すだけです」と強く反対する。筆者も直接聞いたことがある。官僚機構として、旨味のある出向先ないし天下り先を死守したいとの思惑もあるのだろう。

しかし「資金を提供すればそれだけ発言力が増す」という官僚の言い分に反して、現に発言力は高まっていない。

中国がWHOへの資金供与を増やし、より目に見える形で影響力を強めるなら、むしろ事情が明らかになって好都合である。

日本は、アメリカや台湾とともに、真に透明性と専門性を持った「国際保健情報・協力ネットワーク」を形成すべきだろう。

WHOのような旧来の国連機関に見られる壮大な箱モノや国際官僚機構は必要ない。重要なのは緊密かつ迅速な情報交換と分析である。

新型ウイルスは今後とも中国で発生する可能性が高い。事実上中共傘下にあるWHOを権威とする体制を改めない限り、感染症の世界的大流行(パンデミック)が繰り返されることになろう。

トップ写真:テドロスWHO事務局長(2020年3月10日) 出典:Tedros Adhanom Ghebreyesus facebook


この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授

福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。

島田洋一

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