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.国際  投稿日:2020/6/23

トランプ暴露本、影響はない


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#26」

2020年6月22-28日

【まとめ】

・ボルトン元大統領補佐官の暴露本が発売。

・暴露本は新味なく商業的。大統領選への影響は少ないだろう。

・トランプ政権では倫理観に欠け、国家の利益に関心がない者が多い。

 

米国時間の明日、遂にボルトン元国家安全保障担当大統領補佐官の暴露本が発売される。内容については報道の通りだろう。発売前から夥しい数のエピソードが既にメディアに垂れ流されており、ここでは詳細に立ち入らない。ボルトンの結論は、「トランプは大統領の器ではなく、2期務めるべきではない」ということに尽きる。

民主党とリベラル系メディアは鬼の首でも取ったように大喜び。これに対し、共和党と保守系メディアは親トランプ識者や元側近たちを大動員、ボルトンは「信用できない人物」、極秘事項の暴露は「本を売るため」の恥ずべき宣伝行為、とこき下ろす。これを日本語では「目●鼻●」というのだが、これって、「何かおかしい」と思わないか。

暴露内容と関連する詳しい筆者のコメントは「詳細版」に譲ることとし、ここでは全体を俯瞰しよう。筆者の第一印象は、①暴露された内容は一部衝撃的だが、実はあまり新味がない、②本年1-2月に議会証言を拒否したボルトンの動機は、政治的というより商業的のようだ、③いずれにせよ、大統領選への影響は少ない、ということだ。

それにしても、ボルトンという人は異様。考えてもみてほしい。もし日本で前NSC(国家安全保障会議)事務局長が、在職時代に知り得た極秘事項を含む意思決定過程の詳細を記した暴露本を、退任後間を置かずに出版したばかりか、メディアのインタビューで「○○は宰相の器ではなく、再選にも反対する」と述べたら、一体どうなるか。

筆者の職業倫理観ではあり得ない。大統領が如何に変人であっても、それはポストを受ける前から周知の事実だったはず。一度NSC補佐官を受けたなら、守秘義務を厳格に守るのは当たり前。「地獄まで持っていく」べき情報は絶対開示しない。そうでなければ、一体誰がその人と外交交渉を行い妥協するだろうか。あり得ないことだ。

▲写真 (奥から)ポンペオ国務長官、トランプ大統領、ボルトン元大統領補佐官 出典:Flickr; U.S. Department of State

ところが、それがトランプ政権では日常茶飯事。ということは、この政権全体が、どこか正常でなく、倫理観に欠け、論理的整合性を忌み嫌い、国家全体の利益や普遍的価値の擁護などに殆ど関心を示さない、二流以下の人々の集団であるばかりか、誰もそのことを不都合と感じない鈍感さまで体現している。これは明らかに悲劇だろう。

 

〇 アジア

金与正、「可愛い顔してあの子割とやるもんだね」。北朝鮮の宣伝ビラを韓国では一体誰が読むのだろう。文大統領もピョンヤンのおママゴトにどこまで付き合うのかね。

▲写真 金与正氏 出典:韓国大統領府

〇 欧州・ロシア

露大統領は、2036年までの大統領続投に道を開く憲法改正が実現すれば、4年後の大統領選に「出馬する可能性を排除しない」そうだ。権力は腐敗する、ということか。

 

〇 中東

モロッコ人有力記者のスマホがイスラエル製マルウエアで汚染された。モロッコを含むアラブ諸国はイスラエル製ソフトで自国民を監視している、これが中東の実態だ。

 

〇 南北アメリカ

先週末にトランプ選対が強行したオクラホマでの大規模集会は空席が目立ち失敗した。原因は十代若者の大量偽予約だそうだ。「ネットで笑う者はネットに泣く」のか。

 

〇 インド亜大陸

先週中印係争地帯で起きた武器を使わない両国兵士間の衝突で多数のインド兵士が死亡し、インドは中国との関係を見直すという。インドも漸く中国のことが分かってきたのか、それとも、昔から分かっていたが、さすがに最近の中国のやり方は目に余るということなのか・・・。中印間のナショナリズムの高まりは要注意である。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ボルトン元国家安全保障担当大統領補佐官 出典:Flickr; Gage Skidmore


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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