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.政治  投稿日:2020/8/6

コロナで考える情報収集法


 

上昌広医療ガバナンス研究所 理事長)

「上昌広と福島県浜通り便り」

【まとめ】

・向学の為には情報のインプットを増やすことが大切。

・週刊誌のような媒体は高齢者の関心を反映している。

・「読み上げ」を聞きながら記事を読むと理解がさらに深まる。

 

夏休みになると医療ガバナンス研究所には、数名のインターンがやってくる。今年は妹尾優希さん(スロバキア、コメニウス大学)加藤友輝仁君(ハンガリー、セゲド大学)、吉田誠君(帝京大学)、村山安寿君(東北大学)たちだ。何れも医学部で学ぶ医師の卵たちだ。

写真)今年の医療ガバナンス研究所インターン生。左から妹尾さん、加藤君、吉田君、村山君

出典)著者提供

今年は新型コロナウイルス(以下コロナ)の世界的流行が続き、カリキュラムが変更になった。特に東欧で学ぶ妹尾さん、加藤君たちへの影響は大きい。妹尾さんは「日本での実習を認め、テストはオンラインに変わった」という。大教室での講義と附属病院での実習という従来型の医学部教育のやり方が変わりつつある

インターンをする若者から聞かれる質問でもっとも多いのは、「どうやって勉強すればいいでしょうか」だ。向学心はあるが、具体的にどうやればいいかがわからない。

彼らに助言するのは、情報のインプットを増やすことだ。ありとあらゆる媒体をフォローするように勧めている。

私の場合、医学誌では『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(NEJM)』、『ランセット』、科学誌では『ネイチャー』、『サイエンス』をフォローしている。

医療・バイオ系のメルマガでは『BioToday』を欠かさず読んでいる。医療・科学系ニュースのキュレーターとしては白眉の出来だ。過去記事を検索できるため、データベースとしても利用できる。年間購読料は1万2,600円だからお買い得だ。

専門分野以外の情報でもっとも重視するのは新聞だ。全国紙5紙(朝日、読売、毎日、産経、日経)と東京新聞、福島民友、神戸新聞を購読している。

東京新聞は、私が東京在住で東京の情報が欲しいからだ。福島民友は東日本大震災以降、福島で活動を続けているからで、神戸新聞は私が兵庫県出身だからだ。自分と関係する地域の情報を集めるには、地方紙を購読するのがいい。全国紙とは情報量が違う。

最近は新聞の読み方が変わってきた。電子版が普及したらからだ。前述の8紙のうち、福島民友以外は電子版があり、私は電子版で読んでいる。ネット記事と違い、何面にどの程度の分量で掲載されているか、紙面での扱いを見れば、新聞社の評価が一目でわかる。

 

さらに、スクショで保存も容易だ。注目すべき記事はインターンを含め、医療ガバナンス研究所の関係者に「フェイスブックメッセンジャー」のグループでシェアしている。

新聞は情報の宝庫だ。徹底的に利用するのがいい。この点で『新聞ダイジェスト』(新聞ダイジェスト社)はお奨めだ。主要6紙が前の月に掲載した記事を項目毎に整理して掲載している。過去の論文を体系立って読むことで、現在に繋がる流れを把握することができる。一冊990円と安く、お買い得だ。

余裕があれば、海外メディアにも目を通すべきだ。コロナのようなグローバルな問題では日本と海外メディアの報道は全く違うことが多い。海外メディアをフォローすれば複眼的思考の訓練になる

例えば、ダイヤモンド・プリンセス号の検疫問題では、海外メディアは早い段階から問題点を取り上げていた。例えば、『ニューヨーク・タイムズ』は2月10日の”Evening Briefing”のトップで「少なくとも20人のアメリカ人が横浜港に停泊中のクルーズ船の中で停留されている」と報じた。その後、繰り返しこの問題を取り上げ、「(クルーズ船は)中国以外で最も感染者が多い場所」であり、停留を続けることが感染を拡大させると指摘した。ダイヤモンド・プリンセス号の検疫が日本の評判を落としたのだが、このようなことは日本メディアではほとんど報じられなかった。

海外メディアでお奨めしたいのは、Wall Street Journal』『ロイター』『ブルームバーグ』『CNN』『AFPなどだ。私が、このようなメディアを挙げるのは、日本語版が存在するからだ。日本語なら斜め読みが可能だ。

写真)英字新聞(イメージ)

出典)PxHere

 

このようなメディアをフォローし続ければ、その特徴がわかる。例えば、『ロイター』の調査報道には目を見張るものが多く、今回のコロナ流行でも日本の病院の窮状をいち早く海外に発信したのは『ロイター』だった。興味深いのはAFPだ。フランスに拠点を置く通信社で、日本では時事通信と連携している。『AFP』の記事は東南アジアや中国に関するものが多い。世界が中国をどう見ているかがわかる

若者には週刊誌に目を通すことも勧めている。私は、『週刊現代』、『週刊ポスト』、『週刊文春』、『週刊新潮』、『週刊朝日』、『サンデー毎日』、『ニューズウィーク日本版』、『AERA』、『フライデー』、『女性自身』、『女性セブン』、『週刊女性』などに目を通している。NTTドコモが提供する『dマガジン』を購読すれば月額450円で読み放題だ。

私が週刊誌に目を通すことを勧めるのは、このような媒体が高齢者の関心を反映しているからだ。週刊誌の読者の多くは高齢者だ。いまや週刊誌は高齢者しか読んでいないと言っても過言ではない。だからこそ貴重なのだ。患者の多くは高齢者だ。高齢者が何に関心があるかは、このような雑誌を読むことで理解できるからだ。週刊誌の主要テーマは、健康・医療、財テク・年金、セックス(これは男性週刊誌のみ)だ。これこそ、患者の関心なのだが、医療現場では健康・医療以外はあまり議論されない。これでは全人的医療は覚束ない。

また、このような雑誌は昭和特集など、彼らの若かりし頃の社会状況を頻回に紹介している。読者を意識した特集なのだが、彼らの人格を形成した時代背景が理解できる。

これ以外に総合情報誌(『選択』、『FACTA』、『クーリエ・ジャポン』)、科学誌(『日経サイエンス』)などに目を通している。また、ウェブ媒体として『NEXT MEDIA ”Japan in-depth”』はもちろん、『ハフィントンポスト』、『JBプレス』、『フォーサイト』、『ビジネスジャーナル』なども購読している。

新聞からウェブメディアまで、ほとんどは見出しをみるだけで、チェックに要する時間は5-10分程度だ。ただ、それでも効果は絶大だ。見出しを見るだけでも、世の中の流れが分かるからだ。

記事の中には、全文を読むものがある。それは『選択』『FACTAと、NEJM』『ランセット』『ネイチャー』の前半、つまり原著論文以外だ。前者はマスコミが書かないテーマを独自の視点で分析しているし、後者は世界のオピニオンをリードする媒体の編集部の考え方が推察できる。

私はコロナ対策で意見を求められることが多いが、『NEJM』『ランセット』『ネイチャー』の論考に目を通し、それに沿った意見を言えばまず間違いはない。日本の独自性を強調し、「日本モデル」などと賞賛するのは、多くは何らかの利権の関係者だ。世界中で日本だけで盛り上がった「PCR論争」など、その典型だ。『NEJM』『ランセット』『ネイチャー』で、PCR検査は擬陽性が多いや、絞るべきだと主張した記事は一つもない。厚労省や専門家会議の委員の意見は世界で珍しいものだった。北半球の先進国で第二波が拡張しているのは、米国と日本など数カ国だけである。国際標準を無視したツケは国民が払うことになった。

兎に角、若者は情報を集めねばならない。情報なしに、独自に考えてもろくなことにならない。ただ、私も平素は様々な雑用が待っている。長い文章をじっくりと読む時間がない。情報のインプットは隙間時間にやってしまいたい。そこで私が活用しているのはEvernoteだ。多くの媒体はオンラインでも読める。それを『Evernote』にクリップして、移動中にスマホで「聴き読み」しているのだ。iPhoneの場合、二本指で記事を上端から下になぞると、スマホが記事を読み上げてくれる。電車の中や歩きながらも、記事を「聴く」ことができる。

ただ、最近、アップデイトされて、この機能が上手く使えなくなった。全文を選択し、「読み上げ」を選んでいる。やや不便になった。これは私が上手く対応できていないだけなのか、あるいはシステムの問題かはわからない。

 

話を戻そう。スマホの読み上げを聞きながら、記事を読むと理解が深まる。人類が黙読と言うスキルを身につけるまで、長い間、口伝で情報を伝えてきた名残かもしれない。聞きながら読むというのは、スマホ時代に初めてできた読み方だ。

この方法は英語などの外国語で書かれた文章にも有用だ。グーグルの自動翻訳の精度が飛躍的に向上したためだ。和訳、英訳、何れも実用に問題のないレベルだ。私はウェブブラウザとして『Chrome』を用いているが、自動翻訳機能をオンにすれば、英語で書かれた全ての文章を日本語訳してくれる。『NEJM』や『ネイチャー』などのオンラインの記事を自動翻訳して、『Evernote』にクリップするようになった。

Googleの自動翻訳に満足できないときは、『DEEPL翻訳』を利用することにしている。独ベンチャー企業が開発したもので。『Google翻訳』より評価が高い。

このようなサイトを利用することで『NEJM』の総説のような長い文章でも10分程度で「聴き読み」することができる。こなれない表現もあるが、広く浅く情報をインプットするという目的には、これで十分だ。この技術が開発されるまでは、英語のままクリップして、「聴き読み」していた。英語の聞き取りの訓練にはなるが、情報のインプットの効率は悪かった。

自動翻訳の進歩は日進月歩だ。やがて、英語だけでなく、すべての言語が綺麗な日本語に翻訳されるようになるだろう。中国語やハングル、さらにマイナーな言語で書かれた記事も苦もなく読めるようになる。

ICT技術と人工知能の発達で、世界のグローバル化は加速し、情報処理のスピードは飛躍的に高まった。旧来のメディアと新しい技術が融合して、情報処理のあり方が変わりつつある。是非、試行錯誤を繰り返し、独自の方法を確立して欲しい。

 

トップ写真)雑誌とタブレット(イメージ)

出典)Pixabay; StockSnap

 


この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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