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.国際  投稿日:2020/10/16

見せつけた大量殺戮兵器の進化 朝鮮労働党75周年閲兵式 その2


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・閲兵式で目を引いた、兵器の現代化と大量殺戮兵器の進化。

・多弾頭式大陸間弾道ミサイルや潜水艦発射型ミサイルが登場。

・通常兵器も飛躍的進歩、トランプ大統領「強い怒り」。

 

金正恩委員長が演説した後、閲兵式が行われた。今回の閲兵式で目を引いたのは、人々の生活苦に反比例した兵器の現代化と大量殺戮兵器の進化だった。金正恩が人民の血と汗をすべて自身を守るための武器開発に投入したことが明らかとなった。

1)進化した大陸間弾道弾ミサイル

大陸弾道間ミサイルICBMは、2017年に発射した火星15型よりも一回り大きなものが誇示された。火星15型は片側9つのタイヤの運搬車輌に乗せられていたが、新しいICBMは片側11のタイヤがある運搬車輌に乗せられていた。専門家は24mはあると見ている。米国の専門家は、地上に出てきたミサイルで最大のものだとし、「怪物」だと評した。

▲写真 Hwasong(火星)ー16 出典:Rodong Sinmun

また胴回りも直経2mと太くなり、弾頭部分が大きくなった。胴回りと長さが長くなったためにエンジンにも改良が加えられ、大型ミサイルのエンジンがいくつか束ねられた。

こうした諸元の変更は飛距離を伸ばすためのものではなく多弾頭搭載を目指したものと思われる。専門家は3発程度のミサイルが内蔵された多弾頭ではないかと分析している。このミサイルは米国を狙ったものである。米国に対する圧力をさらに強めようとする意図が見受けられる。

しかし固体燃料にはないので、移動発射台からは発射できず、固定されたミサイル基地からでないと発射が無理と見られている。また発射準備に時間がかかるので発射を探知されやすく、先制攻撃も受けやすい弱点をもっている。またこの新型ICBMは、発射実験が行われていないので実戦配備までは時間がかかる。

以上の点を勘案すると、脅威のレベルがすぐさま現実にはつながらないと考えられる。これらの内容については、本物かどうかを含めて今後米国が分析するだろう。

 

2)改良された潜水艦発射型ミサイル

金正恩が見せたかったもう一つの戦略武器である潜水艦発射弾道ミサイルSLBMも新型の北極星4型として公開された。この4型も以前の3型に比べて胴回りが一回り大きくなって直経が2m程度になっていた。弾頭部も大きくなり多弾頭化を進めたと見られる。ただ長さは北極星3型よりも1~2m短い8~9mとなっている。その長さから見て、2段式固体燃料だと推測される。

▲写真 SLBM Pukguksong(北極星)4型 出典:Rodong Sinmun

胴体が太く長さを短くしたのは、潜水艦に搭載しやすくしたものと見られる。しかし飛距離は伸びない。当初SLBMで日本海から米軍のグアム基地を狙える3000Kmまで距離を伸ばすと見られていたが、その狙いよりも韓国のレーダー網が機能しない裏側から星州に配置された終末高高度迎撃ミサイル「THAAD(サード)」を始め、米韓の基地を叩くことに焦点を当てたのではないかと思われる。そういった意味で北極星4型は韓国の米韓軍を狙って開発した可能性が高いと思われる。

▲写真 韓国THAADサイトを訪問するハリー・ハリス在韓米軍司令官 出典:在韓米軍 (Photo By: Staff Sgt. Jennifer Chance)

現在北朝鮮は、ロメオ級潜水艦を改良してSLBMを2~3発搭載できる3000トン級の潜水艦とSLBMを5~6発搭載できる5000トン級の新型潜水艦を建造中であるが、それらが完成すると潜水艦からの発射実験を行うと見られる。その時期は朝鮮労働党第8回大会前後だと予想される。

こうした新型ICBMや新型SLBMに合わせて目を引いたのは、移動式発射台だった。過去の発射台とは様変わりしていた。その形は中国のものと極めて似ていたところから見て、ミサイルの進化も発射台の進化も国連制裁を無視する中国の関与があったと見られる。

 

3)通常兵器の飛躍的進歩

通常兵器にも大きな進歩が見られた。偏心軌道のイスカンデル型短距離ミサイル、小型爆弾内臓で面攻撃を行うエイテキムス型ミサイル、4-6連装など300mmから600mm3種の超大型ロケット砲が公開された。

また米国のM1戦車および韓国軍のK1戦車とよく似た新型戦車、対戦車砲および対戦車ミサイルを搭載した米軍のストライカーによく似た装甲車、新型地対空ミサイル、改良型の「北朝鮮版パトリオット・ミサイル」などの新型通常兵器も一気に公開された。

兵士の装備も進化し、特殊部隊員は通信装備を備え、自動小銃も照準器付きで操作機能も改良され軽量化されていた。兵士のヘルメットや軍服も従来のものとは違い、軍服は戦闘で身を投げ出せるように、膝当てと肘当てが付けられている。

戦闘機などの航空機以外の通常兵器と兵士の装備は、5年前とは様変わりした武器体となっていた。

金正恩がトランプ大統領に「韓国軍は我々の相手ではない」と語ったと、ボブ・ウッドワードが著書「怒り」の中で記していたが、それを裏付ける進化を遂げていたのだ。通常兵器では韓国軍にかなわないとの固定観念は、捨てなければならないだろう。

核と最新弾道ミサイルを手にした金正恩は、「先制して使われることはない」としたものの、一方で「万が一、われわれを標的にして軍事力を使用しようとしたら、私はわれわれの最も強力な攻撃力を先制して総動員する」と先制攻撃の本心を隠さなかった。

今回の閲兵式で明確となったのは、人民を飢えさせた上で、危険な大量殺戮兵器開発に熱中する姿や、自国領域に漂流した韓国の公務員を銃殺・焼却しながら、人の命は貴重だと演説する金正恩の分裂した精神状態の異常さだった。この両極端の精神構造から見て金正恩はやはりサイコパス人間と言わざるを得ない。

今回の軍事パレードに対して米国のインターネットメディア「VOX」で外交・安全保障分野を取材するアレックス・ウォード記者は10月11日(現地時間)、ツイッターで、情報筋の話として「トランプが強い怒りを示した」と伝えた。

トップ写真:朝鮮労働党75周年閲兵式に臨む金正恩書記長 出典:Rodong Sinmun


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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