トランプ政権、台湾に急接近
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
「澁谷司の東アジアリサーチ」
【まとめ】
・米台急接近、米要人次々台湾訪問。
・「第1列島線」の“要”の台湾防衛は、米国の東アジア戦略の最優先事項。
・アルフレッド・マハン理論上では、中国が軍事で米国を凌駕は出来ない。
最近、米トランプ政権は台湾に急接近している。2018年3月、米国では「台湾旅行法」が発効したので、米高官の自由な台湾訪問が可能になった。
今年(2020年)8月、アレックス・アザ-(Alex Azar)保健福祉長官が訪台し、沈栄津行政院副院長(副首相)と会談した。双方は、米台サプライチェーン強化で一致した。また、アザー長官は、コロナに対する台湾の防疫対策を評価している。
翌9月、キース・クラック(Keith Krach)国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)が台湾を訪問した。同月19日、クラック国務次官(1979年の米台断交以来、最高位)は、新北市淡水区の私立真理大学礼拝堂で行われた李登輝元総統の告別礼拝に出席している。
他方、11月20日、米国と台湾が新たに創設した「経済繁栄パートナーシップ対話」第1回会合がワシントンのホテルで開催された。経済部(経済省)の陳正祺政務次長らがクラック米国務次官らと意見を交わし、科学技術、「5G」、サプライチェーンの構築などで米台の協力方針を確認している。
同月22日、米インド太平洋軍の情報担当トップ、マイケル・スチュードマン(Michael Studeman)海軍少将が台湾を電撃訪問した。目下、中国軍機が台湾海峡の中間線(事実上の“停戦ライン”)を頻繁に越え、挑発行為を繰り返して、中台間の緊張が高まっているからだろう。
更に、同日、ジーナ・ハスペル(Gina Haspel)CIA長官が台湾を極秘訪問したと伝えられた。だが、台湾当局は、同長官の訪台を否定している。
以上のように、米要人が次々と訪台した。これは、トランプ政権が台湾を重視している証左ではないか。
また、翌23日、ロバート・オブライエン(Robert O’Brien)国家安全保障担当大統領補佐官は、フィリピン・マニラを訪問した際、「中国が台湾を武力統一しようとするならば、想像を絶するような中国への世界的反発を招くだろう」と語り、北京を牽制した。
なぜワシントンがこれほどまで台湾に肩入れするのか。それは、台湾が「第1列島線」(日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至るライン)の“要”だからである。
台湾防衛こそ、米国の東アジア戦略の最優先事項だと考えられる(ただ、「親中派」のバイデンが次期大統領に就任すれば、この限りではないかもしれない)。
「海洋国家」米国と「大陸国家」中国の間では、「第1列島線」がその攻防ラインとなる。仮に台湾が中国の領土となれば、中国軍は容易に沖縄やフィリピンを脅かすことが可能となるだろう。
2010年、中国での「反日デモ」の際、「琉球を取り戻し、沖縄を解放せよ」というプラカードまで登場した(中国人は、昔、琉球王国が歴代中国王朝に朝貢していたので、沖縄が自分の領土だと考えているふしがある)。
他方、もし台湾が自国領土となれば、中国軍が「第2列島線」(伊豆諸島、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至るライン)まで軽々と到達できるだろう(ひょっとして、「第3列島線」<ハワイから南太平洋の島嶼国サモアを経由してニュージーランドに至るライン>までか)。
我々は、アルフレッド・マハン(Alfred Mahan)の理論に注目したい。マハンは「いかなる国も『大陸国家』と『海洋国家』を兼ねる事はできない」と喝破した。軍事費が、膨張するからである。また、不得意な領域(「大陸国家」の場合は海軍、「海洋国家」の場合は陸軍)に力を注いでも、なかなか軍が機能しないからだろう。
確かに、今までのところ、(サイバー軍・宇宙軍は別にして)従来型の軍の場合、マハンの理論通り、歴史が推移している。
第2次大戦前及び戦中、「海洋国家」である我が国は(朝鮮半島から)中国大陸へ進出して失敗した。他方、「大陸国家」のドイツがUボートを製造し、「海洋国家」の英国に対抗したが、上手くいかなかった。
大戦後、「海洋国家」米国が朝鮮戦争とベトナム戦争で、その圧倒的軍事力をもってしても勝利できなかった。また、「大陸国家」ソ連が原子力潜水艦を製造し、米国に対抗した。しかし、ソ連も成功せず、自壊した。
21世紀に入り、中国が軍事拡大路線を歩んでいる。だが、今後、空母を建造して米国に対抗しようとしても、米国を凌駕するのは難しいのではないか。
近年、習近平政権は「混合所有制」改革(活気のある民営企業とゾンビの国有企業を合併)や民営企業との「統一戦線」(主に「習近平思想」を学習)を行っている。政治優先の「第2文革」の発動である。そのため、習主席が登場以来、中国経済は右肩下がりが続く。
特に、今年、「新型コロナ」の影響で、第1四半期~第3四半期、投資・消費がそれぞれ前年同期比+0.8%と-7.2と散々な数字となった。来年以降、中国共産党が軍事費を増大させるのは、根本的に無理ではないか。したがって、北京は、当分の間、台湾への「武力統一」は控えるかもしれない。
トップ写真:台湾 自由広場 出典:Pxfuel
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。