無料会員募集中
.国際  投稿日:2020/12/19

カルトと化したトランプ支持派 ネット規制の危機 その1


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・トランプ氏、激戦区で訴訟起こすも棄却。

・日本でもトランピニストがデモ。

・バイデン氏の当選は中国共産党の陰謀という説はデマ。

トランプ大統領は、一体いつになったら「おしまいDeath」と負けを認めるのだろうか。

選挙をめぐって、これまで数々の「不正」案件について提訴したものの、ほとんどが、

提訴するには具体的な証拠と主張が不可欠だが、本件にはそのいずれもない」

として退けられた。すると12月9日、テキサス州が、ペンシルバニア州やジョージア州など、いずれもバイデン氏が勝利した激戦州を相手どって訴訟を起こしたのである。今度は不正投票だとの主張ではなく、

「選挙プロセスが不適切に変更された。これは憲法違反であり、選挙結果は無効」

という内容だ。ことが憲法解釈である以上、証拠を提出する必要がない、ということか。

しかしながら、この訴えも現地時間の11日に棄却された。すでに報じられていた通り、連邦最高裁の判事は9名で、これまでは保守派とリベラル派のバランスがとられていたのだが、トランプ大統領の肝いりで、現在は保守派6人に対しリベラル派3人となっている。

これなら共和党の州知事を擁する17州がテキサスに追随したこともあり、今回の訴訟は間違いなく勝てる、と考えていたらしいが、世の中それほど甘くはかった。原告不適格であるとして、あっさり門前払いされてしまったのだ。

アメリカ合衆国には、ある州が他州を相手取って最高裁に提訴できるという制度が、たしかに存在する。しかしそれは、州境の画定などを念頭においたもので、今次のような提訴は、そもそも審理するに値しない、とされたのである。

これで法廷闘争も幕引きになるのかと思いきや、顧問弁護士であるジュリアーニ元ニューヨーク市長は、

「大統領と一部選挙人を原告として、法廷闘争を継続することは可能である」

などとコメントした。新型コロナに感染したにもかかわらず、意気軒高だ。マスク着用とか、いわゆるソーシャルディスタンスなどを配慮しないまま、経済再建が最優先とばかりに飲食店などの営業再開に踏み切ったことが、今次の敗因だとされているのだが。

▲写真 ジュリアーニ元ニューヨーク市長 出典:Flickr; Gage Skidmore

日本人トランピストたちも、たいがいである。

11月25日には、東京の日比谷公園から大手町付近まで、

「トランプ大統領は必ず勝つ」「バイデン氏が勝てば中国の勝ちだ」

などと訴えるデモ行進まで行われた。参加者およそ150人と聞くが、どこの暇人がそんなことをするのかと、あちこち聞いてまわったところ、ある宗教団体が(公式に主催者を名乗ってはいないが)主導して、SNSで参加を呼びかけたという話であった。

これは「きわめて信頼すべき筋からの情報」ではあるものの、きちんとした裏付けは取れていないので団体名などは伏せさせていただくが、個人的にはその話で納得がいった。

11月中旬以降、バイデン氏が当選確実、という話題がニュースサイトにアップされるたびに、わざわざ低評価ボタンを押したり、偏向報道はやめろ、といったコメント(実際にはこんな上品な表現ではないが)を書き込む人の数が、決まって320前後だったので、もしかして組織的な動きなのではなかろうかと考えていたのである。しかも、前述のデモが行われた11月末以降、トランプ陣営の旗色が悪くなるのと反比例するかのように、その数がどんどん増えて4桁にまで達した。

もちろん私は、陰謀論者ではまったくないので、単なる偶然かも知れないという前提で考えることを忘れたりはしなかったが。

もともとこの宗教団体は、反共の理念を掲げ、トランプ大統領の対中国・北朝鮮政策を強く支持する政党活動まで行っている。就任に際して、

「これで日本も、正義の実現に貢献できる国になれる」

という祝福コメントを発したこともある。そのトランプ大統領が、あえなく再選ならず、ということになってしまっては、たしかに陰謀論でも持ち出さないと格好がつかなかったのだろう。

教祖の言うことさえ信じていれば自分たちは幸福だ、ということであれば、第三者が口を出すことではないのかも知れないが、今は21世紀である。もう少し科学的な知見というものを養なって行かないと、幸福な世の中の実現など夢物語ではあるまいか。

それにしても、トランプ陣営がさかんに発信した「不正の証拠」はひどかった。

たとえば、ドミニオンという集計機が票のすり替えを行ったと主張していたが、このドミニオンは「チャベスを当選させるために開発されたもの」であったのだ、とか。

チャベスと言うと、南米ベネズエラで反米左翼政権を率いていたウーゴ・チャベスのことだろうか。2013年に他界しているが。

そもそも、選挙の焦点となった激戦州の開票所では、このドミニオンは採用されていなかったのだ。まさかとは思うが、チャベスの怨霊が他の開票機にまで念を送って、トランプ票をバイデン票にすりかえた、とか……いつもなら、ここで「笑」と末尾に書くのだが、ここまでバカバカしいと笑いもひきつる。

それで思い出したが、くだんの宗教団体の教祖は、とっくにこの世ににいない歴史上の有名人と自在に会話ができるのだそうで、そうした「対談本」を売りまくって儲けている。商売繁盛は同慶の至りではあるが、やはり「類は友を呼ぶ」ということなのか。

TVなどマスメディアは偏向報道ばかりなので、ネットの反共サイトの情報しか信じられない、という人たちに、ちょっと考えてもらいたい。

もし、仮に、そうしたサイトが主張するように、米国民主党から日米のマスメディア、さらにはかの国の選挙関係者から連邦最高裁まで、中国共産党など「闇の勢力」の支配下にあるのだとしよう。

ならばどうして、2016年の選挙でトランプ候補が当選できたのか。

前シリーズの最初に述べたように、この選挙では、ヒラリー・クリントン候補が、得票率・票数ともにトランプ候補を上回っていた。それでどうして、彼女は「不正選挙だ」などと言わず、いさぎよく敗北宣言をしたのか、という疑問にも答えていただきたい。

さらに言えば「1000万単位の不正投票」が事実であるなら、大統領選挙と並行して行われた上下両院の選挙における民主党の予想外なまでの苦戦は、どう説明するのか。

それとも、この4年間で、中国共産党の影響力が、大統領選挙を左右するところまで増大したのか。だとするなら、トランプ大統領は中国の脅威に対して、まるっきり無能だったという結論にしかならないが(今度こそ笑)。

以上を要するに、バイデン氏の当選は中国共産党の陰謀だなどという言説は、なにかに取り憑かれた人の妄想か、意図的なデマか、あるいはその両方だと断言できる。

問題は、日本においてトランプ陣営に肩入れする人が、どうしてこれほど大勢現れたのか、ということである。

海外の政治家が日本でも人気を博すことは割とよくあるが、今次の「トランプ人気」は、ジャーナリズムで決して短くはない経験を積んできた私にも、いささか奇妙に思える。

理由のひとつは、前述のように某宗教団体の影がちらついて見えることだが、それが「理由のすべてだと断じるのも危険だろう。やはり、ネット社会特有の「世論」を形成するメカニズムが存在するのではないか。その考察は、次回。

(続く)

トップ写真:トランプサポーター 出典:Flickr; Gage Skidmore




この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."