地方拠点強化税制拡充で一極集中の解決を【菅政権に問う】その8
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
・第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」改訂明らかに。
・「地方拠点強化税制について地方創生推進交付金との連携を含め活用を推進」と明記。
・地方活力向上地域等特定業務施設整備計画の認定手続き簡素化等検討したらどうか。
新型コロナウィルス問題は深刻化している。イギリスでは、変種も現れたということで大騒ぎになっている。
12月18日のまち・ひと・しごと創生会議で菅首相が「新型コロナウイルスを機に地方への関心が高まっている。東京一極集中の是正につなげ」と発言した。第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の改訂も明らかになった。
■難しい一極集中是正
おさらいになるが各種データを見ても、東京への富の一極集中はすさまじい。
首都圏は人口も日本全国の30%を占めている。通勤電車の混雑ぶりは相変わらずで、主要31区間ピーク時の平均の混雑率は163%である。
主要都市圏のGDPが各国全体のGDPに占める割合はなんと33.1%、さらに企業で見ると、フォーチュン・グローバル500都市別グローバル企業本社所在数占有率(東京都)は73.1%である。
経済面では、都市集中によるメリットはもちろんあるのはわかる。情報の集積は移動の時間を削減し、結果、効率的になる。人々のストレスは過大であり、それを犠牲にしても、東京に集中するのも仕方のないことかもしれない。
しかし、日本全体のバランスが失われている状態ともいえる。関東に地震があったらその時、政治と経済と文化の中心が機能停止になってしまうという脆弱性リスクがある。
とはいえ、なかなか一極集中是正は難しい。第一に、中央集権的な政治構造が確立していること。第二に、経済。東京にカネと情報が集まるというビジネス上で前提としているため、行動を変えることが大変である。大企業の本社はもちろん、業界団体の本部もメディアも東京である。
第三に、人々にとって東京に住む魅力は多い。いくら地方自治体が地方創生を進めようが、首都圏の仕事やキャリアのチャンスを見ると勝てるわけがない。筆者も内閣府の地方創生にかかわって、その難しさを感じた。
■地方拠点強化税制を徹底的に!
結局は、企業をいかにして分散させるかが大事になる。これまで、地方拠点強化税制といって、23区から地方に企業が本社を移転することを誘導する政策を政府は進めてきた。本社を東京から移転する企業に対する税制優遇である。
設備投資減税(オフィス減税)といって、建物等の取得価額に対して、特別償却25%や税額控除が7%されるなどのメリットを得れるもの。もう1つは雇用促進税制といって、地方の本社機能で雇用者増加数1人あたり最大90万円などの支援を受けられるといったものだ。
第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略(改訂版)」にも「地方拠点強化税制について地方創生推進交付金との連携を含め活用を推進する」(P52)と明記されている。
しかし、地方拠点強化税制の実際事業件数は391件という結果であったのも事実だ。あまり企業のニーズがないことを考えると当然であろう。本社移転は面倒だし、そもそも経営層の引っ越しを伴う。東京に生活上の基盤を作ってしまった現経営陣にとっては選択として相当難しくなってしまうだろう。土地を取得し、本社を建設してしまった場合は、なおさら難しい。
■制度の拡大充実を
そこで提案がある。
第一に、この減税を申請するのにあたって必要な地方活力向上地域等特定業務施設整備計画の認定などの手続きを簡素化すべきであること。都道府県への相談などの膨大な申請業務は負担になる。申請手続きがとても面倒である。
第二に、オフィスが設備や人員を移さなくても、「一部移転」でも税の減免をできないか。オフィスを建設しないでも、新たに賃貸するくらいでも認めるということはできないのだろうか。
東京一極集中の解消は、令和の日本にとって大事なテーマである。東京都市圏のみ栄えるというのは、日本社会にとってかなりバランスが悪い。政治・経済・文化の中心を東京にすることは、それなりに効率な面もあるだろうが、多様性の時代、菅総理に新しい時代の国づくりを進めてもらいたい。
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。