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.社会  投稿日:2020/12/28

PCR検査体制強化が最大コロナ対策【2021年を占う!】医療


上昌広医療ガバナンス研究所 理事長)

「上昌広と福島県浜通り便り」

【まとめ】

・日本のコロナ対策は上手くいってない。GDP落ち込みは酷い。

・多数の病院が少数の患者を受け入れ、医療現場が疲弊。

・PCR検査体制の強化がもっとも有効なコロナ対策。

2020年は新型コロナウイルス(以下コロナ)対策に明け暮れた1年だった。来年もこの状況が続くだろう。

コロナ対策は、日本社会の地盤沈下を浮き彫りにした。政府は「日本型モデル」の成功と自画自賛するが、東アジアで人口当たりの感染者数、死者数は最大で、GDPの落ち込みはもっとも酷い(表1)。

▲表1

欧米と比べると上手く対応したという声もあるが、実はそうでもない。確かに、人口あたりの死者数は欧米より少ないが、7-9月期のGDP対前年同期比は多くの欧米諸国に劣っている(表2)。日本より酷いのは英国とスペインくらいだ。

▲表2

さらに第三波では、アメリカと比べて40分の1、欧州で最も感染者数が少ないドイツと比べても10分の1の感染者しかいないのに、「重症ベッドは切迫」など医療崩壊が叫ばれる

日本の人口あたりの病床数は世界で最も多く、医師不足といえども、欧米諸国より数割少ないに過ぎない(表3)。

▲表3

どうして、こんなことが起こるのだろうか。メディアに登場する有識者の中には、民間病院が協力しないので、政府の権限を強化し、強制的に重症患者を受け入れさせるべきだと主張する人もいる。これは中国政府が武漢にコロナ専門病院を立ち上げて、一手に患者を引き受けたことをイメージしているのだろうが的外れだ。コロナの重症患者の管理は難しい。熟練したスタッフを抱えていない病院に無理矢理引き受けさせても、患者のためにはならない。

どうすればいいのか。もっと海外の事例を研究すべきだ。表4は、第一波のある時点での米国マサチューセッツ州における主要病院のコロナ感染者の受け入れ数を示している。一部の病院が多数の重症患者を受け入れていることがわかる。もっとも受け入れたマサチューセッツ総合病院は、ハーバード大学の関連施設で、全米で最も有名な病院である。実に121人もの重症コロナ患者を受け入れている。12月24日現在の東京都の重症患者数は74人である。マサチューセッツ総合病院1つで受け入れている数である。

▲表4

コロナ重症患者は、中国だろうが、アメリカだろうが、多くの専門家を揃えた先端施設が集中的に受け入れている。日本なら、東大病院が200人のコロナ重症患者を受け入れるようなものだ。

ところが、日本の対応は正反対だった。東京だけでも10以上の医療機関が少数の患者を分散して受け入れている。これは医療リソースの無駄遣いになる。だからアメリカの40分の1しか感染者がいないのに、東京の医療システムが疲弊してしまう。

大切な事は、どの病院が集中的に患者を受け入れるか、関係者の間でコンセンサスを形成することだ。中国は政府が主導した。アメリカは医療現場と州政府が協力した。いろんなやり方がある。

日本の問題は、そもそもの方向性が間違っていることだ。戦略目標が間違っていれば、現場がいくら頑張っても挽回できない。例えば、検査体制の強化だ。コロナの特徴は無症状感染者が多く、彼らが周囲にうつすことだ。12月2日にスリランカの研究者が、PCR検査体制の強化がもっとも有効なコロナ対策という論文を『ヘルス・アフェアー』誌で発表し、話題となった。

世界は検査を徹底し、陰性の人が社会活動し、陽性の人は自宅などで隔離する方向でコロナと戦おうとしている。検査を抑制し、無症状の感染者を野放しにしておけば、いくらマスクの着用やソーシャルディスタンスを叫んでも、その効果は限定的だ。

検査を徹底する事は、情報開示という面でもメリットがある。どの程度国内で感染が広がっているか、正確な情報を知ることで、国民は安心するのだ。この辺、バブル経済崩壊時の対応と似ている。あの時は、金融機関の不良債権を明らかにし、一括して処理するまで、景気が浮揚しなかった。国民の不安が解消しなかったのだ。

しかるに、日本の対応は正反対だった。世界で最もPCR検査を抑制してきた(図1)。この結果、東アジアで唯一国内全域にコロナ感染の蔓延を許した。感染が不安な国民は、政府によるロックダウンなどの強制的措置がなくとも自宅で自発的に自己隔離し、その結果、経済は大きなダメージを被った。

▲図1

厚生労働省や周囲の専門家たちは、詭弁を弄し続けている。PCR検査の数を増やせば、偽陽性がたくさん出て、医療システムを崩壊させるなどと主張している専門家は、私は日本以外には知らない。もし彼らの主張が正しければ、世界各地の国で医療が崩壊しているはずだ。もちろん、そんな事は無い。

世界から学ばず、独自の道を行けば、そこは破綻しかない。これはいつか来た道と全く同じだ。2021年の日本がそうならないことを願う。

トップ写真:フロリダ国家警備隊による新型コロナウイルス検査の様子 出典:Florida National Guard(US Army photo by Sgt. Leia Tascarini)




この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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