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.国際  投稿日:2021/1/6

中・豪州関係さらに悪化「2021年を占う!】中国


 澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

「澁谷司の東アジアリサーチ」

【まとめ】

・「新型コロナ」原因究明提唱機に中豪関係は急速に悪化。

・実は豪“親中”前政権から中豪関係は悪化していた。

・中国にとって豪は戦略的に重要だが、関係改善の兆しなし。

今年(2020年)は中豪関係が急速に悪化した年である。

4月、スコット・モリソン豪首相が「新型コロナ」原因究明のため、中国へ“独立”した調査団派遣を提唱した。早速、成競業駐豪中国大使がそれに反発し、オーストラリア産ワインと牛肉の輸入制限を示唆した。翌5月、北京政府は、豪産大麦に高関税をかけている。

▲写真 菅首相との会談に臨むモリソン豪首相(2020年11月17日 首相官邸)

出典:首相官邸facebook

また、同月、習近平政権オーストラリアの食肉処理大手4社に対し、輸入停止措置を取った。その4社は牛肉の対中輸出の35%を占めていたので、豪食肉業界は打撃を受けている。

翌6月、「新型コロナ」の世界的流行下、習近平政権は自国民に対し、オーストラリアへ旅行しないよう警告を発した。豪州で最も多い外国人観光客は中国人である。オーストラリア統計局が2019年半ばに発表した数字によれば、中国からの観光客は年間143万人を超え、海外観光客の15%を占める。また、中国観光客がオーストラリアで消費した金額は120億豪州ドル(約9,438億円)を超え、全体の消費の27%に達するという。

   ▲写真 中国の習近平国家主席

   出典:中国政府ホームページ

更に11月末、中国外務省の趙立堅副報道局長が、オーストラリア軍兵士が子供にナイフを突き付けている写真をツイッターへ投稿した。豪軍兵士によるアフガニスタンでの住民殺害を批判する目的だったという。これが、中豪関係を決定的に悪化させた。

@zlj517のツイート

モリソン首相はオンラインでの緊急記者会見を開き、投稿写真は偽造された画像だと断定し、「中国政府は恥じるべきだ」として謝罪と投稿の撤回を求めた。

他方、翌12月14日、豪州『オーストラリアン』紙は、中国共産党員195万人分の情報が記載された公式のデータベースを入手したと報じた。その分析結果によると、 各国が上海に置いている公館や世界的企業に、多数の中国共産党員が勤務している事が判明した。

実は、モリソン首相の前任、マルコム・ターンブル首相(2015年9月〜18年8月)時から中豪関係悪化の兆しがあった。

ターンブル首相は保守系のオーストラリア自由党でありながら、初め「親中派」だと思われていた。2015年10月、首相就任直後、豪州北部ダーウィン港(米海兵隊が駐留)の管理権が中国企業「嵐橋集団」へ渡った。当時のオバマ政権は、オーストラリアの中国へのダーウィン港99年間貸与に対し、不快感をあらわにした。

また、同年12月、中国とオーストラリア間で自由貿易協定(FTA)が発効している。それと同時に、第1段階の関税引き下げが行われた。翌2016年元旦、第2段階の関税引き下げが実施された。中豪の“蜜月期”である。

ところが、2017年、ターンブル首相は中国が豪州のメディアや大学等で、政治に干渉していると議会で懸念を示した。同首相は、中国共産党の“危険性”に気付き始めたのである。

実際、オーストラリアの野党議員が中国の利害関係者から献金を受け、南シナ海問題で中国寄りの発言をしていた。これがスキャンダルとなっている。豪州世論は「中国による内政干渉」だと反発した。

そこで、同年12月、ターンブル政権は、外国からの政治献金を禁止した。また、翌2018年6月、豪議会は「スパイ防止強化法」を可決している。

ところで、今年12月、中国国内で突如、異変が生じた。まず、浙江省、江西省、湖南省で大規模停電が起きた。その後、北京市、上海市、広東省の各省市一部で、停電が発生している。中国政府は、この停電に関し、工業生産の回復と寒波の影響で電力需要が予想を超えたためと説明した。

この寒さの中、電力が止まれば、市民の生活に支障が出る(実際、水道まで止まる騒ぎとなった)。工場生産にも影響を及ぼすに違いない。このような状況下で、今年、中国当局が予測している中国の年間GDPがプラスになるとは考えづらいだろう。

習近平政権は、対豪経済制裁で、オーストラリアの良質な石炭を輸入しない方向へ舵を切った。そのため、国内の電力が足らず、停電という事態が起きたと思われる。一説には、近い将来、勃発するかもしれない「米中戦争」を準備する措置とも言われるが、その点は不明である。

最後に、軍事的観点から中豪関係を見てみよう。

中国は、もし可能ならば、潜水艦で米本土に接近し、米国を脅かしたいと考えているのではないだろうか。

中国海軍が太平洋へ進出するには、南シナ海から3ルート―

(1)台湾とフィリピン間の「バシー海峡」

(2)フィリピンとボルネオ島間の「スールー海」~「セレベス海」

(3)ボルネオ島とインドネシア間の「カリマタ海峡」~「アラフラ海」

―が存在する。

▲画像 セレベス海(Celebes Sea)とアラフラ海(Arafura Sea)の位置

出典:Wikipedia; De Duijn

「バシー海峡」については、米台が目を光らせているので、中国潜水艦が通過するのは難しい。他の2ルートに関して、もしオーストラリア軍が「セレベス海」と「アラフラ海」のルートを“封鎖”すれば、中国軍は太平洋へ出にくくなるだろう。

本来、中国共産党としては、世界戦略を展開する上で、豪州との関係を良好に維持する必要がある。だが、ここまで両国関係がこじれると、関係改善は容易ではない。

トップ写真:ターンブル豪前首相と習近平国家主席(2016年9月)

出典:Malcolm Turnbull facebook


この記事を書いた人
澁谷 司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。


東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。


元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷 司

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