知らないと損 地域電子通貨
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・キャッシュレス・ポイント還元事業もマイナポイント事業も一部の人だけが恩恵を受ける。
・東京世田谷区では「せたがやPay」という電子地域通貨が発行された。
・こちらも余り地元に浸透しておらず、広報のあり方が問われる。
以前から思っているが、デジタル化の流れに乗れない人には不公平なことが多い。
もう忘れている人もいるかも知れないが、キャッシュレス・ポイント還元事業というのがあった。2019年10月1日の消費税率引上げに伴い、需要平準化対策として、キャッシュレス対応による生産性向上や消費者の利便性向上の観点も含め、消費税率引上げ後の9か月間に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援する事業だ。
▲図 決済手段表記用ポスター(5%の場合) 出典:経済産業省
2019年10月から2020年6月までの9ヶ月間実施された。2019年10月1日~2020年3月16日までの対象決済金額は約7.2兆円、還元額は約2980億円だった。
このうち、5%還元対象の中小・小規模事業者(個店)の還元額は約2560億円(約86%) 2%還元対象のフランチャイズチェーン(コンビニ以外)の還元額は約100億円(約3%) コンビニの還元額は約310億円(約10%) だったと発表されている。
還元率が5%とか2%とかわかりにくかったことと、ポイント還元額がレシートやクレジットカードの請求書などでいちいち確認しないとわからないので、どのくらい得をしたのか正直あまりピントこなかった。
たしかに、このときQRコード決済が普及した感はある。しかし、そもそもクレジットカードや電子マネー、ましてQRコード決済など使ったこともない人達には何の恩恵もなかった。
その後、2020年9月から2021年3月までの期間、総務省において、「マイナンバーカードを活用した消費活性化策(マイナポイント事業)」が実施中だ。マイナンバーカード普及と消費活性化というドジョウ2匹を追うような政策だ。
2021年3月末までにマイナンバーカードを申請した人はマイナポイントの対象となり、カード受取後、マイナポイントを申込み、2021年9月末までにチャージまたは買い物をすることで上限5,000円分のポイントを受け取ることができるというもの。20000円チャージすれば25%の5000円分儲かるというお得な制度ではあるが、これまたマイナンバーカード所有者しか得しない。今年2月時点の普及率が約25%、恩恵を受けている人は一部だ。
▲図 マイナポイント事業 出典:総務省
そして、筆者が住んでいる東京都世田谷区でもコロナ禍で苦しむ地元商店街を応援するため、世田谷区商店街振興組合連合会が「せたがやPay(電子プレミアム付区内共通商品券)」なるキャッシュレス地域通貨を2月20日に開始した。
▲図 せたがやPay シンボルマーク 出典:せたがやPay
3月4日からは、「地元のお店応援キャンペーン!」として、先着でチャージ額の30%、最大9000ポイントをプレゼントする大盤振る舞いだ。上限が9000円だから、30000円チャージすると30%の9000円のポイントがつく。
▲図 せたがやPayポスター 出典:世田谷区
現金チャージはセブンイレブン内などにあるセブン銀行ATMからしか出来ない。そして、このお得なポイントプレゼントキャンペーン、3月9日13時30分に予算が上限に達し、あっという間に終了してしまった。気づいた人だけが得したことになる。
地元のお店応援、という割には、筆者が通っているヘアーサロンはこの「せたがやPay」の存在すら知らなかった。
「せたがやPay」にはもう一つ、「飲食店応援キャンペーン」というものがあり、飲食店の支払いを「せたがやPay」のコイン(チャージした分)で決済することで、決済額の20%のポイントがもらえる。1人上限6000ポイントまでで、こちらも予算上限に達し次第終了だ。
なじみのレストランのオーナーに知っているか聞いてみたら「加盟店申込みをした。近日中につかえるようになる」とのことだった。贔屓の店だったので一安心。しかし、そのオーナーいわく「うちの常連客も知らなかった」。
恩恵を被るはずの地元の商店も、地域住民もろくに知らないサービスってどうなの?と首をひねってしまった。主催の地元商店街連合会も区ももう少ししっかり広報した方がいいのではないか。
せっかくの地域振興、たまたま知った人だけが使えるというのでは残念すぎる。そして、今の世の中、情弱だと損するなと改めて感じた次第。
「せたがやPay」ホームページ:https://setagayapay.com
問合せ先:世田谷区内共通商品券コールセンター(世田谷区商店街振興組合連合会)
電話番号:050-5434-9168(平日午前9時~午後6時)
商業課 電話番号:03-3411-6667 ファクシミリ番号:03-3411-6635
トップ画像(図):せたがやPay 出典:せたがやPay HP
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。