仏、最西南端で感染者少の謎
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・仏、再西南端のピレネー=アトランティック県は感染者が少ない。
・西との国境管理厳しくなった事や英変異株少ないのが原因との説も。
・いつ又感染拡大するかもしれず、警戒怠ることは禁物。
フランスのベラン保健相は11日、新型コロナウイルス感染でパリを含むイル=ド=フランス地域圏が「特に憂慮すべき」状況にあるとの見解を示し、現在のペースで感染が広がり続けるなら、制限措置を追加すると表明した。
警戒ラインである人口10万人あたりの感染者数250を大きく上回っているノール県(10万人あたりの感染者数418)、アルプ=マリティーム県(10万人あたりの感染者数469)はすでに、週末の外出制限が課せられている。
イル=ド=フランスは、10万人あたりの感染者数は414.4だが、現在はパリ市などの反対により外出制限はされていない。しかし、12分おきに集中治療室(ICU)に新たに患者が入る状況であり、95.6%が埋まっている状態だ。そのため13日には他県への患者移送が開始された。この状況を受け、政府としても、ついにはパリ市長も今後の外出制限もありえるとしたのだ。
フランスの新規感染者の65%は英国型であり、1日当たりの新規感染者13日には29759人と毎日約3万人近くが感染するという高水準が続く。フランス全体のICUに入っている重症患者は4000人を超えた。
そんなひっ迫した状況が続いているフランスだが、実はフランス全ての地域がひっ迫しているわけではない。なんと、現在第3波が来ていると言われている中でも、全ての警戒ラインを下回り非警戒地域となり、フランス国内でも驚かれている地域もあるのだ。それは、ピレネー=アトランティック県だ。
■ 特異な事例となったピレネー=アトランティック県
ピレネー=アトランティック県は、フランスのヌーヴェル=アキテーヌ地域圏の一つの県だ。大西洋とピレネー山脈に囲まれた土地で、ピレネー山脈の向こうはスペインというフランスの最西南端に位置する。地方色豊かな土地で、大西洋に面したバスク地方とアンリ4世が生まれたことで有名なベアルン地方の二つの地方で構成されている。
▲写真 ビアリッツの海岸、ピレネー=アトランティック県 出典:philippe giraud/Corbis via Getty Images
その国境沿いの地域がなんと10万人あたりの感染者数は46.5なのだ。これは最重要警戒されている地域の約10分の1という感染の低さとなる。少なくともコロナの一回目の予防接種を受けた割合も現在は7%ほどで全国に比べてもそこまで高くはない地域だ。ではなぜピレネー=アトランティックは、これほどまでに感染者の増加を抑えられているのだろうか?その理由を知りたいところだが、しかしながらはっきりとした理由が分からないというのが現状だ。
バスク地方の一般医のギヨーム・バルックさんは一つの理由としてこの辺りは年配の人が多く住んでいるにもかかわらず、健康な人が多いことを挙げている。あとは気候が温暖であることも関係しているだろう。海があるので一定の風がいつも吹き、湿気があるのが感染予防に役立っているのではないかという。
しかし、温暖な気候と年配の人が健康なのはいいとしても、海が関係しているならどうして海に面した北フランス、ノール県のダンケルクは、あそこまで感染が流行っているのだ。ダンケルクも海に面して風が吹いている。というかその前に、同じピレネー=アトランティックでも、内陸にあるベアルン地方には海はない。だいたい、現在は感染率が低くなっているピレネー=アトランティックだが、実は、昨年の秋はかなり感染が拡大していた経緯があり、常に低かったわけでもないのだ。
■ 感染が広がっていた時期を乗り越えた経緯と変異ウィルス
秋には人口10万人あたりの感染者数は、約500だった。それは、パーティーなどの集まりと密接に関連していた。政府は感染抑制のためフランス全国のレストランとバーの閉鎖を決定したが、この地域には別の効果を生んだのだ。レストランやバーをフランスで閉鎖していてもスペインでは閉鎖されていなかったため、スペイン側に行って羽目をはずしてくる人々が増加したのである。その結果による感染拡大だった。
ヌーヴェル=アキテーヌの公衆衛生長のローラン・フィヨル氏は、このような感染拡大を目の当たりにしたため、正しい行動する人は対策の必要性を十分理解し、予防策を継続したのが現在感染が収まった理由の一つではないかという。また、普段から危険な行動する人々の大部分はすでに感染したのではないのかとも推測している。また、12月に入り国境管理も厳重になった。その結果、スペインには仕事や病院など、必要な用事が無い限り行けなくなったことも感染が収まった大きな要因の一つと言えるかもしれない。
そして、そういったようなさまざまなことが影響しているのか、英国変異ウィルスの広がりが全国平均の65%に比べて低いことも感染が抑えられている理由の一つと考えられている。だが低いと言っても、2月8日の週には14%だった英国型の割合が、3月1日の週には43%に増加している。もし変異ウィルスが主な理由だとすれば、今はまだ感染が広がっていないだけで、今後、急速に感染拡大する可能性も捨てきれないのではないだろうか。
このように、全国ニュースで感染が収まった地域と紹介されながらも、現地でもはっきりした理由がわからないため、安心もできないのが実情だ。
▲写真 2021年2月26日 パリ 出典:Chesnot/Getty Images
■ 警戒を怠らないことが一番重要
そこで、全国でピレネー=アトランティックの感染がおさまりつつあると紹介された次の日には、地元の新聞は浮かれることなく、「ピレネー=アトランティックでまだ注意を払わなければならない理由」というタイトルでさらに注意を促した。
フランス国内でも、感染が収まっている特異な例とみられているピレネー=アトランティックだが、今のところ決して他と比べて特別なことがあるわけではない。どちらかといえば、いつまた感染が拡大するかもしれないという危機感を持って行動している人が多いだけなのかもしれない。そう考えると、ピレネー=アトランティックが現在感染が抑えられている理由は、欧米と比べて感染がそこまで広がっていなかった日本の状況と共通点があるようにも思えてくる。
予防接種が始まった今でも、気を緩めないで対策を続けること。それが本当に一番大事なことなのかもしれない。
参考リンク
Covid-19 : le mystérieux recul de l’épidémie dans les Pyrénées-Atlantiques
Pourquoi l’épidémie de Covid-19 recule dans les Pyrénées-Atlantiques
トップ写真:オリヴィエ・ベラン仏保健相(2020年7月3日) 出典:Chesnot/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。