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.政治  投稿日:2021/3/28

「間違いなく放送行政、歪められた」立憲民主党小西洋之参議院議員


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

編集長が聞く!

【まとめ】

・菅総理と関係深い東北新社の接待を断るのは困難、総務省はある意味被害者。

・東北新社の外資規制違反問題、間違いなく放送行政が歪められた。

・NTTのドコモの子会社化、事業変更の認可は必要ないのか。

 

総務省接待問題が引き続き国会で取り上げられている。この問題を追及している立憲民主党の小西洋之参議院議員に聞いた。

■ 総務官僚の倫理感

安倍: 小西議員は元総務官僚でもある。接待漬けになってしまった原因は何か?

小西氏: 私は1998年に旧郵政省に入省。その翌年に国家公務員倫理法が出来た。退官した2010年当時は衛星・地域放送課の課長補佐だったが、当時もそれまでも接待は全くなかった。お茶を飲むのも割り勘だった。

東北新社は菅総理と関係深い会社だということは当時から知っていた。菅前総務大臣が東北新社の創業者植村伴次郎氏と親しい関係だと皆知っていた。(会食の場には)長男が接待要員の部長として出てくるわけで、菅総理の影響を考えると接待の申込みは断れなかったろう。割り勘を言い出すことも出来なかったのだろう。違法接待を受け、国会に参考人招致されている幹部の中にはかつて直接上司として仕えた人もいる。能力的にも人間的にも尊敬する方だ。私は、総務省の官僚の皆さんは被害者だと思っている。

接待は非常に計画的になされていた。次に放送の局長になる他部局の幹部を、放送筆頭課長を使って接待したりしている。非常に計画的、戦略的な接待だ。それにからめとられしまったのかと思う。

一方で、NTTによる接待も受けていたことは心底がっかりした。通信部局の最高幹部とNTT社長との会食という構図は、総理の長男を使って会うことができない幹部を引っ張り出していた東北新社のものとは異なると思うが。NTTのような古くから政治・行政との付き合いある大企業からは、情報はまず表に出ないという暗黙の信頼関係が相互にあったのではないか。国家公務員倫理法に触れる事はお互い絶対分かっていたはず。

表にでないというという信頼感で(会食を)やってしまったんだと思う。

(接待が)総務省の情報通信部局全体に蔓延、常態化していたかどうかは、今回課長以上144名調べると言っているので、それをみてみないとわからない。

▲写真 ⒸJapan In-depth編集部

安倍: 総務省特有の問題とまでは言えない?

小西氏: そんなに弾けた組織でもない。私は経産省や農水省で働いたことあるが、そこと比較して総務省情報通信部局がそんなに国家公務員倫理にかけてたとは思わない。

安倍: とはいえ、国家公務員倫理法ができてから20年経って麻痺して、まぁこのぐらいならいいだろうという感覚があったのでは?

小西氏: どこかにあったのかもしれない。ただ新しく入省した新人は毎回公務員倫理法の研修を受ける。10年20年働いてる間に感覚が麻痺してしまうのだろうか。

安倍: 政策が何らか影響を受けたのならとんでもないことだ。今後、どうこの問題を追求していくのか?

▲写真 提供:小西洋之事務所

小西氏: 私が働いていた職場なので残念だが、東北新社の外資規制違反問題は、間違いなく放送行政が歪められてしまった事件だと考えている。

すでに国会でも明らかになったと思うが、3月15日、16日東北新社の社長が国会に来て、2017年の1月にBS4Kというチャンネルの認定を東北新社が受け、そこから半年後の7月28日にBS4Kのチャンネルに加え、自分も出資していた3チャンネルを集めて4チャンネルの放送局を作ろうとした、と話している。

ただ他の事業者が持ってる3チャンネルを東北新社が持っていくのも、事業者の地位承継といって、大臣認可が必要だ。7月28日に9月17日に承継しますというプレス発表をやっている。ところが、国会答弁によると、8月4日に外資規制違反に気づいて、8月9日に総務省の放送の総務課長に相談に行き、東北新社は新たに子会社を作り、そこに東北新社のBS4Kと3チャンネルを集めると説明したとしている。

4チャンネル集めるのにも大臣認可が必要だが、これによって外資規制違反が治癒・正常化されるという相談を総務省にし、総務課長から否定的な反応がなかったので、その通りやったということだが、これはただの脱法行為だ。

外資規制違反に気づいて、脱法するために8月9日に相談し、8月16日に子会社方式でやると公表してる。これは、東北新社みずからが外資規制違反を脱法するために、別の大臣認可を総務省から得ることにしたと答弁しているわけだから、間違いなく放送が歪められた事例だ。要するに、外資規制を超えてしまっていたということと、それを知りながら誤魔化すために子会社を作り大臣認可を得た東北新社は違法行為を2回重ねていることになる。

残念ながら、それに対して当時の総務官僚の皆さんは、東北新社の木田氏(注:木田由紀夫執行役員。2月26日付で執行役員を解任。株式会社スター・チャンネルの監査役、株式会社ファミリー劇場の取締役および株式会社東北新社メディアサービスの代表取締役社長・取締役を辞任 出典:東北新社)から総務課長などが外資規制違反の話を聞いた記録や記憶がない、と言っている。

7月28日に最初の大臣認可の公表を東北新社はしているわけで、半月の間に180度違う大臣認可に変わった。大臣認可という行政で一番重い行為なのだからそれらは当然局長まで全部説明するはずで、総務省も局長まで事前説明したはず、としている。しかし、当時の総務省幹部は半月の間に、誰からどう説明を受けて了承したか、記憶がないといっている。菅総理案件である東北新社からの依頼を断ることが出来ず、違法行為を行政としてやってしまったがゆえに説明できないという実態になっているのだろう。

私が心を鬼にして古巣の不祥事の追及をしているのは、かつての同僚・後輩のためにもこれを機に菅総理の総務省支配を打破しなければならないとの信念からだ。総務省は国民のものであり、一部政治家の「天領」などという私物化は許されない。

 NTTとの会食

安倍: NTTの方は何が問題なのか?

小西氏: 一点気がかりなことがある。NTTは、NTT法に基づいて毎年3月事業計画の認可を総務大臣から得なくてはいけない。年度の途中で計画が大きく変わると変更認可を受けることになっている。ドコモのTOB、完全子会社化で4兆円規模の国内史上最大の調達劇をやったわけだが、今年の事業計画では完全子会社化の記述があり、かつ、総務省令で事業計画に添付が義務付けられている資金計画では1兆円借入金が増えるなどしている。NTTにはドコモを子会社化しての新しい事業戦略があるわけで、これは事業変更の認可は必要ないのか。

NTTの事業変更の認可を総務省がやる時は、NTT法にあるNTT東西に関する公正競争確保の観点を踏まえた審査をすることになる。行政プロセスが適切なものだったのか、総務省に聞くと、これは事業変更が必要でない事例だったというが、これで必要なかったら何で必要になるのかと疑問に思う。

NTTは電電公社の時代から分割して公正な競争環境を作ることが絶対揺るがない大方針だった。ドコモを完全子会社化して、今後の5Gにおける競争状況など考えると、完全子会社化したドコモが、NTT東西の光ファイバーの使用料を払うことになるが、ソフトバンクやKDDIが使用料を払う時に公正な競争環境が本当に確保できるのか。

ソフトバンクやKDDIも総務大臣に対して、子会社化は公正な競争を損なう可能性があると意見書を提出している。子会社化した後でそういう意見が出て、今総務省が検討会を置いているが、それがNTT法が求める行政プロセスなのか。今年3月の大臣認可を受けた事業計画では「当社は、令和2年12月にNTTドコモを完全子会社化しており、NTTグループ全体の成長を通じて中長期的な発展に向けて取り組んでいく考えである。その取り組みにおいては、現行法の枠組みの下で公正競争条件を確保して進めていく考えである」と記載されている。

総務省は完全子会社化はNTTの経営判断で、役所がタッチするものではない、と言っているが、事業計画の変更という制度がある。今年の事業計画にある「公正競争条件を確保」が適正になされるかどうかを事前に総務省が検証するのが事業計画の変更の制度趣旨ではないか。

私が国会で質問したところ、昨年7月から9月までの間、事業計画の変更についてNTTと詳細に調整協議したと答弁しているので、総務省も一見明白に変更認可不要とは思っていなかったのだろう。偶然かも知れないがちょうど山田さん(注:山田真貴子前内閣広報官、元総務審議官)初め、接待の時期と重なっているのも気になる。

やはり通信政策にしろ、放送政策にしろ、政治によって行政が歪められるということは絶対にあってはならない。それがあったのかなかったのかは徹底的に国会でやるしかない。武田総務大臣は放送については検証委員会を作ってやるとか言って答弁拒否をしているが、それは国会の仕事だ。国会が徹底的に真実を追求していく。東北新社のケースは、本来ならば関係者の証人喚問をやらなくてはいけないような事件だ。

安倍: 武田総務大臣はNTTとの会食について答えていない。

小西氏: 総務大臣はNTTと会食したのか。菅総理にも会食したのかと聞いたんですが、個別の案件には答えないという。しかし、NTTというのは政府が3分の1以上の株を持っていて、国民が支えている会社、公的な存在だ。そこの社長が、所管する総務大臣や総理大臣と会ったのか、会食したのかすら答えないというのはNTT法の趣旨に反する。

NTTは、われわれは企業体ですからというが、そうはいっても事業計画や役員人事で大臣認可を受ける存在なのだから、会食の有無すら答えないというのは通らない。実は衆議院で武田総務大臣は、立憲民主党の岡島一正議員から菅正剛さん(菅首相長男、東北新社)と食事してますかと聞かれて「してない」と答えている。私は、参議院の質疑でそれ使ったが、総務大臣は答えない。それで山本順三委員長に議事整理権を行使して指導し、答弁させてくださいと3度要求したが、やらなかった。これほど底の抜けた予算委員長は初めてだ。議会政治の崩壊が行きつくところまで行っている。

■ 今後の展開

安倍: 国会では今後どう追及していくのか?

小西氏: 与党が全く背中を向けている。東北新社の社長に来てもらったが、1回では終わらないので、次も来てもらわないと。与党に繰り返し要請したが、与党が合意しないと参考人は呼べないので、(与党は)一回呼んだだけで委員会を幕引きしようとしている。

安倍: 総務省の検証委員会は結論ありきな気がします。

小西氏: 総務省の情報通信行政検証委員会はメンバー4人。放送政策の専門家とされていた人は、NHKの元音響技術の専門家だった。衛星放送の許認可の実務や政策判断が分かる訳がないと思う。検察官の経験もある人もいるが、法務省で国が訴えられたときの代理人業務や金融庁で調査業務などをやっていた人であり、許認可の経験はない。他は、行政法の学者と女性の民間経営者であり、みんなパートタイムで専門の調査員もいない。初めから出来レースと言われても仕方がないと思う。

仮に政治圧力があった場合、後から見てもわからないようにやる。衛星放送の許認可は、足切りラインを超えた後は行政が決めた評価基準と配点で決める。評価基準はある程度公表されるが、不正な認定はうまくやろうと思うと出来てしまう。許認可の経験がある人が見れば、あれだけ違法な接待を計画的に長年やっていたら衛星放送行政が歪められているはずだと思うはずで、そこで私は膨大な作業を行って東北新社の許認可を洗い、外資規制違反の立証にいたった。しかし、私のような衛星放送の官僚であった者でも違法な許認可を見抜くのは至難の業だ。そうしたことが検証委員会ができるのかというと、全く期待できないと思う。

(東北新社の)「囲碁チャンネル」は審査の全体像を見るとそんなにおかしな話じゃない。というのはHDとSD、両方申請できるようになっていて、みんなHDがいいということでどんどん埋まっていった。最後SDの6スロットという幅の狭い周波数のところだけ残り、そこは物理的にHDは放送できない。そこに(東北新社の)囲碁チャンネルがぽこっとはまったという話だ。しかし、もともとそういう競争になるであろうことを事前に聞いていたということは仮説としてはありうる。国会では怪しいと指摘されている。

■ 今後の処分・法的責任

安倍: 東北新社では、社長ら関係者が辞任したり、処分されている。総務官僚も処分されたが、これで終わりか。

小西氏: 不正な手段で認定を受けたものは2年間申請する資格はなくなる。しかし放送法93条については、法律に違反して申請を出したりした場合に罰則がない。しかし、衛星放送の中で1番重要な基幹放送(BS放送)の分野で法律違反をやったということは、対国民の関係では違法性は大きい。

安倍: 会社法上の会社に損害与えたということで株主代表訴訟のケースになりうる。官僚はどのような法律違反となるのか。

小西氏: (会社法違反は)それはありうるかもしれない。官僚のほうは国家公務員法違反で懲戒対象となる。放送行政検証委員会の調査次第では処分はあり得る。どちらも菅首相に影がちらほら見え、本当は与野党超えてやらねばならない課題だ。しかし、総選挙があるので与党議員は国会としてやる気は全くないのだろう。

一方で、官僚の処分よりももっと重要な事件の本質がある。それは、政治による行政の私物化だ。7月28日の段階で東北新社はまだ放送サービスやっていない。ここで外資規制違反により免許の取り消しをしても東北新社以外、誰も困らなかった。なぜ総務省の官僚はそれをしなかったのか。出来なかったのだと思う。

ネット上の有価証券報告書をみると、東北新社が放送事業者の認定を受けた後に外資規制超えていたということは誰でも分かる。後世、誰かにいつか指摘され、総務省が追及と批判を受けるという危険がある。にもかかわらず、なぜ総務省は認定を取り消さずにほったらかしにし、それどころか違法行為を脱法するための子会社に事業承継する大臣認可をやってしまったかということだ。

普通の官僚ならこんな恐ろしいことに加担できない。(外資規制)違反の数字が世の中に出ているのだから。国会で取り上げたらあっという間にボロが出る。リスクを考えるとこういう違法な子会社作りは認めないはずだ。現に私が見つけた。官僚にとってなんの得にもならないし、大きなリスク負うことなぜわざわざしたのか?答えは一つしかない。官僚が逃れられない政治の関係があったのだと思う。それ以外考えられない。

■ 再発防止

安倍: こうした事が二度と起きないようにするためにはどうしたらいいと思うか?

小西氏: 何年か後に、ある程度審査の内容と結果について公表するようにしたらいい。(今は)一回審査してもらったらずっと何十年もブラックボックスだ。業界によるが、何年か後に公開するようにすればある程度透明性は出てくる。それでもさっき言ったように出来レースはやりようによってはやりうるが、相当やりにくくなるとは思う。

 LINE問題

安倍: 通信アプリのLINEが国内に保存されたユーザーの個人情報について、十分な説明のないまま中国の関連会社の技術者がアクセスできるよう設定していた問題はどう考えるか。

小西氏: LINEは通信最大のインフラだから、通信の秘密が守られてないとするのであれば社会インフラがひっくり返る話だ。LINE社に対してしっかり対策することを総務省が責任を持ってしっかり指導しなければならない。本来なら国会に参考人招致するべきだ。予算委員会はまだあるから提言したい。会社として再発防止をどうするのか、きちんと説明する責任がある。

(インタビューは2021年3月23日に行われた)

(了)

トップ写真:ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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