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.政治  投稿日:2018/2/9

国産ミサイルはいらない


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

防衛省は超音速ミサイルASM-3の生産を決定した。

ASM-3は亜音速ミサイルJSMに命中率、コスト、汎用性の面で圧倒的不利にある。

JSMなりLRASMを購入するか、既存ミサイルをステルス化した方がよい。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38372で記事をお読みください。】 

 

国産超音速ミサイルは必要なのだろうか?

防衛省はASM-3の生産を決定した。これは日本で開発した飛行機から軍艦を狙う対艦ミサイルである。その特徴は超音速飛行にある。速力はマッハ3と従来ミサイルとの3〜4倍とされた。それで軍艦側が対処に使える時間を1/3〜1/4とし防御側の迎撃を不可能とする。そういったアイデアである。

だが、この超音速ミサイルは必要なのだろうか?なぜなら並行導入されるミサイルに明らかに劣るためだ。防衛省は同時期にJSM購入も決めている。これはF-35戦闘機に搭載するノルウェー製対艦ミサイルである。速力は音速よりも遅い亜音速だが高いステルス性を持つ。ASM-3はこのJSMに明らかに劣る。命中率、コスト、汎用性の面で圧倒的不利にある。

その点からすればASM-3は作るべきではない。その分JSMを購入し既存航空機を改修して搭載する。あるいはJSMに類似した亜音速のミサイル導入をすすめたほうがよい。例えば検討中の米国製LRASM対艦ミサイルの導入や既存国産ミサイルの外形ステルス改修である。

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▲写真 JSM 出典:製造元KONGSBERGより

■ 高コストなASM-3

国産超音速ミサイルASM-3はノルウェー製JSMに劣る。

その不利の第1はコストである。ASM-3はコスト面でJSMに勝てない。これは調達価格だけではない。搭載・威力のコストでもASM-3はJSMに及ばない。導入はやめたほうがよい。

 

・ 超音速は高い

調達価格での不利は単純である。重量級の超音速ミサイルは軽量の亜音速ミサイルよりも高くなる。

ASM−3のエンジンは高くつく。大重量のミサイルを超音速で長い距離を飛ばさなければならない。そのためロケット・ラムジェット複合エンジンとしている。構造は単純だが製造は困難で高価格となる。

対してJSMは安い。ミサイル小型軽量であり翼もついている。エンジンは標的用ドローンに使うマイクロ・ジェット・エンジンでよい。そして高比重ジェット燃料を50リットルも積めば射程は充分に達成できる。

 

・ 搭載数も減る

また搭載コストも高くなる。ASM-3は重いので1機に多数を搭載できない。そのため従来同規模の発射数を実現するには多数の飛行機が必要となる。

実際に搭載数は半減する。F-2戦闘機は500kg級の在来型対艦ミサイルを4発搭載できた。それが900kgのASM-3は2発しか搭載できなくなるのだ。

つまり攻撃機は倍の数必要となる。従来と同規模攻撃をするならそうなる。仮に5隻の艦隊をミサイル20発で攻撃する場合、従来ミサイルは5機で済んだ。それが10機必要となるのだ。

対してJSMは400kgにすぎない。これは500kg級の在来型ミサイルよりも軽い。既存機体への多数装備だけではなくヘリコプターからの発射やドローンへの搭載も視野に入る数字である。

 

・ 威力もコストに見合わない

威力面でも高コストだ。ASM-3は価格・重量がかさむ割に弾頭の重量はJSMと大差ない。つまりは威力はほとんど変わらない。

ASM-3の弾頭重量はおそらく150kg程度だ。超音速対艦ミサイルの弾頭重量は全体の10〜15%程度である。ASM-3に当てはめれば大きめに見積もっても150kg程度でしかない。これはJSMと変わらない。在来型ミサイルの弾頭は全体重量の25〜30%程度だからだ。JSMでも弾頭重量100〜130kg程度が確保できる。

 

 命中率はJSMに劣る

ASM-3はJSMに及ばない。

その不利の第2は命中率である。超音速のASM-3よりも亜音速のJSMのほうが命中率が高い。その意味でも導入の価値はない。

 

・ 超音速ミサイル迎撃は難しくない

そもそも超音速対艦ミサイルはいわれるほど迎撃困難ではない。比較的高い高度を漫然と直線飛行する。そのため探知も迎撃も困難ではないからだ。マッハ3〜4の超音速対艦ミサイルは60年代にソ連軍が装備を始めたが、米海軍は70年代には迎撃技術を確立していた。

 

・ 超低空/アクロバティック/ステルス

対して亜音速対艦ミサイルは探知も迎撃も困難である。

なぜなら海面ギリギリを飛んでレーダをかわすからだ。例えばエグゾゼ最新型は海面高度2.5mで飛翔する。この場合、レーダ探知や電波誘導式ミサイルでの迎撃は難しくなる。センサー側からみて海面とミサイルの距離差が小さすぎるので区別はつき難い。その上、海面波浪の乱反射の影響も受ける。その中からミサイル反応を探すのは難しい。

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▲写真 エグゾゼAM39 出典:© Marine Nationale / CC Maloux / 2012

さらに亜音速ミサイルは最終段階でアクロバティック機動も行う。大蛇行し、急上昇後に急降下して突入する。これもレーダ等にとって鬼門だ。原理的に目標の大角度変化には弱いのでロストしてしまう。

そのうえJSMはステルス性も高い。完全ではないが高度なステルス性を持つとされている。これもレーダ等にとってはさらに苦手である。もともとわかりにくい目標がさらに見えなくなるのだ。おそらく、超低空目標探知の切り札となるドップラー探知も通用しない。またミサイルが画像認識誘導を採用している点も厄介である。ミサイル側から電波も出さないため逆探知も通用しない。

つまり、軍艦はJSMにはお手上げとなるのだ。ASM-3は所詮は速いだけだ。何発かは取り逃がすだろうが今までのシステムでも探知・迎撃できる。だがJSMは探知もできない。あるいは探知できても電波誘導式のミサイルでは迎撃できないのである。

 

■ ASM-3は使い勝手が悪い

ASM-3はJSMに劣る。

その不利の第3は汎用性の低さだ。ASM-3は使いにくい。JSMや従来の対艦ミサイルのように「とりあえず搭載しておき、何か発見すればとりあえず発射する」ような雑な使い方には向かない。

 

・ 小型艦艇も目標となる

対艦ミサイル比較的手軽に発射される武器である。探知目標があり敵と判断すればとりあえず発射する。

実戦でもそうだ。中東戦争、印パ紛争、フォークランド紛争、イランイラク戦争、米国とリビアのシドラ湾事件でも雑に発射されている。特に「目標が何か」を把握してから発射されていない。

この点で価格が高く重量が重いASM-3は不便である。重量200トン程度の高速艇や漁船を転用したような哨戒艇に使うには無駄が大きい。そのうえ数も積めないので気軽は撃てない。

 

・ コンセプトから誤っている

つまりはコンセプトが誤っていたのだ。ASM-3は強力な軍艦を沈める超音速ミサイルとして開発された。今では中華イージスや中華航母への切り札と考えられている。

だが、そのようなミサイルは普段づかいには役立たない。実際には安価な小型艦艇や輸送艦、あるいは商船も目標としなければならないからだ。

それなら安価な亜音速ミサイルに統一し多数用意したほうがよい。普段使いに便利である上、それで本番でも困らない。強力な艦隊が相手でも従来の対艦ミサイルでも100発、200発あるいはそれ以上を同時発射すれば対応不能にできる。それがJSMならより少ない数でも敵の対応能力を飽和できるだろう。

 

■ 超音速はエラくはない

以上がASM-3の不利である。総括すれば速度以外の全ての点でJSMに劣る。総合評価をすれば従来の亜音速ミサイルにも及ばない。エグゾゼ、ハープーン、国産のASM-1/2以下である。役立たずが明らかな失敗作である。

なぜそのようなミサイルを作ってしまったのか?

先を見る目がないからだ。

フランスやアメリカは超音速対艦ミサイルは不要と切り捨てた。コストの割に何の利益も得られない。検討はしたものの実物は作っていない。

対して日本は「本当に超音速が必要か?」の見極めをしなかった。「亜音速よりも超音速がエライ」と単純に考え高額かつ使いにくいミサイルを作ってしまった。

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▲写真 NSMミサイル(JSMの開発元)2014 出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Zachary D. Bell

・ 国産したい病

さらに背景には「国産したい病」もある。

日本の防衛セクターは兵器国内開発・国産にこだわる。そのため性能要求では「海外製品では実現しない性能」が強調される。海外に同性能品があれば「それを買えば良い」となる。

その結果が珍妙な兵器開発である。航空機ならF-2戦闘機、C-2輸送機、P-1哨戒機の開発がそれだ。いずれも米国製F-16、C-17、P-8を購入あるいは小改修すれば済む。だが、わざわざ高い開発費を掛けて低性能機をゼロから作る無駄をしてしまった。

ASM-3もその伝である。海外製品との競合を避ける。あるいは従来のASM-2との差別化を図る。そのためわざわざ超音速にした。結果、高額かつ不便となった。そのようなミサイルを買う必要はない。JSMなりLRASMを購入し、あるいは既存ミサイルをステルス化したほうがよい。

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▲写真 LRASM 出典:photo by DARPA photo

トップ画像:ASM-3 2017年11月29日 岐阜基地にて 出典 photo by Hunin


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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