朝鮮半島情勢ー金正恩の真の狙いとはー
.国際  投稿日:2019/6/5

改良型も不首尾なASM-3


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・ 不採用におわった国産超音速ミサイルASM-3の改良型が模索されている。

・ 超音速にこだわる限り高コスト、低命中率、低汎用性の問題は解決できない。

・ 加えて極超低空を飛行できず全反射、干渉縞、複雑マルチパスも利用できない。

 

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国産対艦ミサイルの開発は失敗に終わった。超音速ミサイルASM-3の開発は完了した。だが不採用となった。理由は「仮想敵である中国艦隊に通用しないため」とされている。

だが、防衛省は射程延伸型の開発を決めた。*1 「艦隊防空圏外から攻撃すれば通用する」と判断した結果といわれている。

このASM-3改良型は成功作となるだろうか?

ならない。ASM-3改良型も不満足に終わる。

その理由は以前に「国産ミサイルはいらない」で述べたとおり。超音速ミサイルは高コストと命中率不良、低汎用性の不利を伴う

その上で付け加えれば「極超低空を飛行できない」不利もある。ASM-3や改良型はマッハ3級であり海面ギリギリを飛行できない。高度は巡航飛行でおそらく10mは切らない。そのため極超低空で生じる諸現象、全反射、干渉縞(かんしょうじま)、重度マルチパスによる迎撃困難の利益を享受できない。

 

■ 全反射:逃げ水を利用できない国産ミサイル

ASM-3改良型は極超低空飛行による利益を得られない。

第1の不利は全反射による鏡面効果の利用困難である。

これは極超低空で多発する現象だ。海面上数mまで空気層では光速変化層が生じやすい。その際に視差角が一定角度以下となると光速変化面は全反射、つまり鏡面となる。その下は光も電波も届かない。

水面の全反射と同じ理屈だ。水中から空中を見る。あるいは金魚水槽の側面ガラスを見ると鏡面となる場合がある。視差角50度以下で全反射が起きるためだ。

▲写真 逃げ水 全反射/逃げ水の発生。道路上に光速変化層が生じた結果、一定視角度未満で全反射を起こしている。当然ながらその下面は見えない。 出典:WIKIMEDIAより入手。撮影:Michael(CC BY 2.0)

大気でもそれは起きる。海面上に変温大気層あるいは水蒸気量変化層が発生する。その変化層と観察者との視角度差が0.1~0.3度を切ると鏡面化する。逃げ水や蜃気楼はそのような現象である。

対艦ミサイルがその下を飛べばどうなるか?

軍艦側レーダからは全く見えない。逃げ水の下は見えない。それと同じ理屈だ。マッハ0.8の亜音速ミサイルはこの全反射を利用できる。鏡面下を飛べば中国艦から距離8km程度まで探知なしで近寄れる。*2

だがASM-3改良型はこの現象を利用できない。極超低空に下がれず鏡面上を飛ぶ。巡航高度も比較的高いため水平線上に出現する距離約30kmから丸見えとなる。

 

■ 干渉縞不感帯:消える魔球効果

ASM-3改良型は極超低空飛行の利益を得られない。

第2の不利は干渉縞による不感帯の利用不能である。

これも極超低空で起きる現象である。高度を下げられる亜音速ミサイルは不感帯を利用できる。下がれないASM-3改良型はその利益を享受できない。

極超低空においてレーダは探知不良の距離帯を持つ。ミサイル反射波と海面反射波が位相干渉を起こす結果だ。

ニュートン・リングをイメージすればわかりやすい。当てた光が戻ってくる明るい場所と戻らない暗い場所の干渉縞ができる。それを電波に置き換える形だ。干渉縞の明るい部分が探知帯、暗い部分が探知不良帯である。なお軍艦とミサイルの関係のため正確には「ロイドの鏡」を用いた干渉実験の形となる。

▲図 干渉縞と不感帯

極超低空飛行ではこの現象も利用できる。ミサイルは探知不良帯を不感帯として利用できる。レーダ反射面積が小さいので探知不良は探知不能となる。

なお、アンダーソンによると6kmから8kmと13.5km以遠が探知不能となる。*3 その距離帯ではミサイルは消えるのだ。

これも亜音速ミサイルに有利、超音速に不利な要素だ。前者はこの消える魔球効果で迎撃困難を期待できる。だがASM-3改良型ではそれは望み難いのである。

 

■ 複雑マルチパスを起こせない

ASM-3は極超低空飛行の利益を得られない。

第3の不利は複雑マルチパスを起こせない点だ。

マルチパスとは超低空ミサイル迎撃で生じる現象である。レーダはミサイルに電波を当て、その反射波を受け取って距離を測定する。だが、超低空では電波の一部はミサイル反射後に海面でバウンドしてレーダに戻る。

その際にはレーダは距離測定は困難となる。直接波と海面反射波を区別できないからだ。当然ながらミサイル迎撃も困難となる。

▲図 マルチパス

このマルチパスは極超低空域ではさらに厄介となる。第1で挙げた光速変化層も関係するためだ。

具体的にはダクティングが影響する。全反射現象が発生した場合、全反射面下側と海面の間は光ファイバと同様の導波ダクトとなる。それが悪影響を生む。*4

その時、ダクト内を飛ぶミサイルのマルチパスはどうなるか?

上面反射を含む乱反射が生じる。第1の例に当てはめれば距離8km以内で乱反射が始まる。視差角が大きくなるためレーダ電波は光速変化面を通過しミサイルに届くようになる。だがミサイルで反射して戻る電波の一部は上側の光速度変化面で全反射/部分反射し海面反射を含めて2回、3回とバウンドしてレーダに戻る。それによりレーダ探知はより困難となる。

だが、ASM-3改良型はこの利益も得がたい。極超低空で多発する表面ダクト内を飛行できないためだ。

極超低空を利用できない不利は以上である。ASM-3や改良型には高コスト、命中率不良、低汎用性の不利がある。加えて全反射、干渉縞、複雑マルチパスの利益も得られない。そのためASM-3改良型は不首尾となる。*5

 

■ 超音速ミサイルは筋悪

なお本記事は再反論でもある。

「国産ミサイルはいらない」 で提示した命中率不良にはいくつかの反論があった。「ASM-3(高度10m)とJSMミサイル(5m)の水平線探知距離は29kmと26kmと3kmの差しかない。対して探知から命中までの時間は30秒と100秒と逆転する。よって迎撃時間が短い国産ミサイル有利」といった内容だ。

だが、その主張は極超低空での諸現象を無視している。高度5m以下を飛ぶ亜音速ミサイルは探知、迎撃とも困難となる。その点で迎撃回避や命中率で超音速ミサイルに対して有利に立つのである。

▲写真 雄風3型 超音速ミサイルでは信管動作の確実性も問題となる。台湾の海軍が超音速ミサイルを誤射した際には信管は動作しなかった。信管の信頼性を積み上げていない日本製ミサイルでも同様の不動作は起きうる。写真は雄風3型。 出典:台湾側の『国家中山科学研究院』HPの「雄風三型超音速反艦飛弾」より入手。

 

*1 「長距離巡航ミサイル開発」『日経新聞』2019年3月20日 朝刊 p.4

*2 レーダ高を20m、光速変化面の高さを5mとし、臨界角0.1度で計算すると距離8.5km以遠の光速変化面は全反射つまり鏡面になる。

*3 Anderson,Kenneth D “Radar detection of low-altitude targets in a maritime environment”, “IEEE Transactions on Antennas and Propagation” 43(6) (IEEE,New York,1995)pp.609-613.

海面高23.5mのXバンド・レーダから高度4.8mの目標を探知する場合の数字として。レーダから0kmから5.9kmまでは探知帯となる。それが5.9kmから7.7kmまでは不感帯となり目標は消失、7.7kmから13.5kmまでは再び探知圏となり13.5km以遠は再度不感帯となる。

*4 これは小型艦船が水平線の先、100km以上を探知するサーフェイス・ダクトとしても知られている。低い位置にあるレーダがダクト層にとどまるため発生する。

また「米イージス艦がレーダを高く設置しない理由ではないか」とも言われている。想定主戦場である地中海東部やペルシア湾、バルト海東部ではしばしば大規模なダクティングが発生する。それを利用した長距離探知も狙っているといった推測だ。

*5 ほかにもステルス性が高い亜音速ミサイルは背景雑音への溶け込むのでほぼ探知できないといった有利がある。ステルス性で限界がある超音速ミサイルはそれは期待できない。

トップ写真:ASM-3 国産超音速ミサイルASM-3は不採用に終わった。完成の上、退役護衛艦に対し数度の実射撃を経た上での生産取りやめである。おそらくは効果に相当の疑念を抱かれたのだろう。写真はWIKIMEDIAより入手したXASM-3。撮影:Hunini (CC BY-SA 4.0)

 


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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