ワクチン接種、かかりつけ医の活用を(ワクチン接種その3)【菅政権に問う】
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・大規模会場が増加も、ワクチン接種請け負う医師はなかなか増えず。
・クリニックから高齢者に電話して接種予約が順調に。高齢者も安心。
・かかりつけ医がいる⼈は55.2%のみ。さらなる普及を。
前回、ワクチン接種においてアメリカ軍協力を書いたところ、左右の方々から厳しい意見をもらった。しかし、大規模接種会場設置が次々に進んできている。町田のサッカー場、築地跡地、東京ドーム・・・などなど。
一方、コロナワクチン接種の現場で仕事を請け負う医師がなかなか増えないこともあるようだ。
なぜか。
問診というのはなかなか難しいからだ。既往症の確認などを丁寧にやらないといけないし、ワクチンみたいな異物を体内に入れるのは苦手な国民性でもある。注射行為は思わぬ副作用があるため、医療訴訟が決して稀ではないようだ。また、ある医師によると「問診医師の責任にされるような流れが有れば、誰も行きたがらないでしょうね」ということだそうだ。
とはいえ、ワクチン接種1日あたり100万回の目標を達成するために、医師の方々には頑張ってもらいたい。
■ 素晴らしい事例も
自治体では、直接ワクチン接種の予約ができる協力医療機関を発表するなどの取り組みがみられるようになっている。
ある横浜市郊外のクリニックにオンライン取材を行う機会を得た。その医師によると小規模クリニックでどのように予約体制をつくるかが課題であって、内部で案を話し合い、画期的な取り組みを行動に移したのだ。
それは、クリニックから高齢者に電話する、というものだ。
ネット予約では高齢者は使えない人が多く、電話予約を解禁すると、問い合わせが殺到して一般診療ができなくなる恐れがある。そこで、思い切ってこちらから電話するということになったそうだ。
結果はどうなったのか。
高齢者は口々に「安心した!」「良かった!」と。これまでにない多くの感謝の言葉があったそうだ。縁のあるご近所さん数百人の予約取得がきわめて順調に進んだそう。通常診療にも支障はなかったとのこと。
こうした医師の現場での実行はなかなか凄い。これこそ「かかりつけ医」なのではないか?と感じた。
■ かかりつけ医制度の活用を
日本の医療では、かかりつけ医の必要性が叫ばれている。
かかりつけ医とは何か確認しておこう。「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義されている。
・なんでも相談できる
・最新の医療情報を熟知している
・必要な時には専門医、専門医療機関を紹介できる
・身近で頼りになる
・地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する
ことが条件である。
▲図 【出典】中医協「横断的かかりつけ医機能」
もともと、地域住民の健康のために、すべての年齢の方々の様々な健康問題を、総合的かつ継続的に診療する医師のイメージである。とはいえ、かかりつけ医がいる⼈は全体の55.2%(日本医師会調査)でしかないのも事実である。
■医師会に期待
新型コロナウイルス感染症の蔓延により、82.1%の国⺠が不安を感じている。ワクチン接種は喫緊の課題である。医師会は開業医の団体である。なので、今こそ、コロナワクチン接種の音頭をとって、開業医の方々の協力を積極的に獲得し、大々的に進めていってほしいと思う。
▲図 【参照】日本医師会HP
「かかりつけ医」とはどうあるべきか、現場では様々な取り組みがされている。かかりつけ医的な動きを日本各地に普及させていくことが重要だろう。医師会会長がパーティーに参加していた事例があったが、その汚名をそそぐべく頑張ってほしい。
トップ写真:高齢者へのコロナワクチンの接種(2021年05月24日 東京) 出典:Carl Court/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。